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登校途中に繋がった異世界からやんごとなき方として戻ってきてしまった話  作者: kaioosima
第一章 パイが増えても中身がメリットだけとは限らない
14/50

014 個人の嗜好は大小なり公務に関わるものだけど…

今回はこちら側の地球の運命を左右する秘かな話し合いが、歴史系な小ネタや私の出身の島を由来とする地元ネタとも絡んで中心となります。

 ○2023年4月7日昼 日本国 鹿児島県南部 海士臣島(あまとみしま) 海士臣市 スーパーセンターキタムラ付近マンション○


「…ううう…何だったのよぉぉ…足が骨折したばっかで自宅で療養していたら…子供の頃に妙な笑い声をしてたやつに襲われそうになったし…って何よこれーーーーーーーー!?」


 ミカエル達がマンションの前に不時着してから数分後、燐華は気分が悪そうな顔でマンションの出入り口を出たが、そこで大勢の警察官や救急隊員でごった返しているマンションの公園を目にして絶叫した。


「…あれ? 今さっき…燐華の叫び声が聞こえた気がしたけどー…?」

「先生、こっち側にも親戚や付き合いのある人があるから心配する気は無理ないですけど、今はそれどころではないですよ」


 その声を聞いてミカエルは何やら知人らしい反応を見せるが、戻ってきた光代の注意で直ぐに現実へ戻された。

 ちなみに、二人は魔法によるステルス技術で日本の警察及び救急隊員に発見されずに済んで、マンションの屋上にて下の現場を盗み見ている。


「…おい、息子よ…お前さんが下のゴタゴタに巻き込まれたくない立場なのはわかるが…何で私達までここにいるのだ?」

「…うわあ、凄い…こんなSF映画みたいなことが実際に起きるなんて…」


 その傍らには自分まで地味に重いポジションに据えられてしまっている状況に悩ましそうな顔を浮かべているダニエルと、この状況でも呑気に何処か感動している様子のマリアもいた。


「…いやーーー、だってさー…様子からしてこっちにまで来た宇宙海賊とかはー、今さっきに僕が拘束してエルフ達の艦隊に魔法で飛ばしたのも含めて全員捕まったっぽいけど…、もしも隠れ潜んでるのがいて…更に僕の正体も知ってるのが混じったりしたら…人質にされる可能性があるし…」

「息子よお前は本当に向こうで何をしているんだ!?」


 やや苦笑した様子だが、状況からして非常に軽くない背景を漂わせている息子の言動にダニエルは再びその問いを叫んだ(一応、ミカエルが掛けた魔法で周囲の大半には聞こえてはいない)が、そこで上空から勢いよく誰かが降り立ってきた。


「…え、ミカエルが二人…!?」


 それに驚いたマリアが口にした通り、その新たに現れた人物はミカエルだった。


「あーお母さん安心して、この僕は前回からの更新の感覚が結構あいたか…じゃなくて警察とかが到着するまでに何分かあったから、直ぐに必要な品を集めさせてきた僕の魔法で一時的に生まれた分身だよ」

「じゃー、後はよろしくね」

「OK」


 新たに現れたミカエルとそれを紹介した元からのミカエルが互いの手の甲を打ち合わせると、分身の方のミカエルは大量のビニールや紙袋に包まれた品々を残してポンと煙を残して消えた。


「…え、息子よ…何だそのたくさんの品は…? それで何をどうするつもりだ?」

「…父さん、この星…特にこの島とここに住んでる人たちの現状は…父さん達が考えている以上にまずい」

「…!?」


 それにダニエルは戸惑うが、ミカエルが親族に対しての憂慮の色と共に、冷徹な為政者としての眼光も添えた目を向けてくると、蛇に睨まれた蛙の如き悪寒を覚えた。


「…今回、この島と長期的につながった…今の僕らが済む異界は、銀河系の多くに勢力とそこへ手を伸ばす技術力を持ちながら…国際状況や人々の意識は…、残念だけど地球で言う18から19世紀の国際機関や他所の人権なにそれな時代の人達のものが大半なんだ。その状況で、新たなフロンティアに繋がる惑星が、宇宙への進出もままならない発展途上国だというのが広まったりしたらどうなると思う?」

「………」

「執筆活動のために歴史書とかも多く読んでいる父さんならわかるよね?」


 ミカエルから言い放たれたその問いに、ダニエルは肩のみならず全身の細胞の一つ一つに錘が科せられたような心地に陥る。

 息子の言動が正しいなら、外の世界は今の地球など目ではない弱肉強食の状態だということだ。

 そして、髪の色などが変わっても息子が嘘を言っていないことは父親としてわからないわけがないダニエルだからだ。


「だからこっちで集めたこれらを使う。幸いにもエルフの女王様が来てるってことは()も来てるって可能性が大だ」

「ミカエル、彼って…?」

「空に見えるあの船に乗られているエルフの女王陛下の補佐官を務められている方々に、先生のご友人が居られるのです。その人を通じて何とかこの星に対してなるべく穏便な処置で済むように取り計らってもらうということです」


 続けてマリアがその話に加わるが、いつの間にか戻ってきていた光代が説明に加わってきた。


「…向こうの裏ではお偉いさんの一人なのは聞いているが…ミカエル、どうするつもりだ?」

「…それは…」

「今さっき分身の僕が集めてきたこの品々でその知人を買収する」

「先生!?」


 ダニエルの問いに光代は返事に窮する様子を見せるが、ミカエルがしれッと言い放った策の内容に悲鳴じみな非難に変わった。


「おい!? 息子よ! 父はお前を今の眼鏡宰相みたいに国民には税負担アップを求めながら自分達はダーティーな金をさりげなく扱うような与党連中みたいに育て上げた覚えはないぞ!!」

「お父さん、こっちの世界は設定上2023年だから現実の方での2024年ネタはちょっと…」


 息子が少し見ない間に発覚すればマスコミに叩かれそうな人物に変貌している状況に、ダニエルは突っ込みで声を荒げ、マリアは少し困った顔で宥めようとするが、夫婦そろってメタい内容だった。


「仕方ないじゃん。本国やその領域で活動している時はともかく、今の僕は表向きの身分上は学生なんだしさー」

「…先生、やり方の如何わしさもあれですが…」

「何だ? 今は取り込み中…!?」


 父親の突っ込みの前にあっさり今どきの学生に戻ったミカエルだが、途中で光代が更に悩ましそうな表情を強めて割り込んでくると、彼女の背後に立つ人物を見てギョッとした。


「神の…ではなくてミハイル君、貴方がこの世界でいて、しかも馴染みがある人物だと説明したら今後について話をしたいと」


 光代の背後にいたのはハイディナで、その彼女がミカエルを向こう側の名で呼びながら指し示した近場には、彼女とは別の美しいエルフの青年が立っていた。

 だが、その着ている意匠は緑基調の樹木をイメージした衣装による長袖の文官服で、身に纏っている雰囲気からしても見た目通りの年齢や立場ではないのは素人目でもわかるものをしていた。


「おはようございますミハイル卿…いいえ、今はこちらに合わせてミカエル君とお呼びしましょう。今後のこの惑星との付き合いで、こちらとも縁が深いらしい貴方の意見を聞いた方がよいと考えて迎えに来ました。幸いにも貴方に頼まれたハイディナさんに案内してもらえたのでここまで直ぐに来れましたよ。何やら私へのお土産も用意しているほどのようなので…」

「…あ、いやー…いつも仕事が早いですね。ただの学生の身としてその姿勢はまさに尊敬したい大人ですよ…メッテルニヒさん…」


 その濃密度な雰囲気を添えた穏やかな笑みを向けるそのエルフであるメッテルニヒに、ミカエルは見た目相応にビビりっぷり全開な高校一年生の態度に切り替わった。


「…えーーっと光代さん…あの人、凄く偉そうなのはわかるけど…どんな感じな人かしら…?」

「あーはい、私共の銀河系で列強に名を連ねているミッドガルド国の現女王補佐官の一人であるメッテルニヒ様です。ちなみに前世はここ地球で同名にて教科書にも載られている方です」

「それってつまりオチはあれだけど外交の玄人ということだろう!? 今のビビり全開な学生丸出しなウチの息子が勝てるわけない!! ていうか感じからしてあの人って今さっき息子がしようとした来年の与党みたいな汚いプレゼントのことも聞いてるんじゃないのー!?」


 メッテルニヒにほうっと息を飲んだ表情でのマリアの問いに、光代は難しそうな表情でさり気なくこの地球にも所縁があるような説明を返し、脇で聞いたダニエルは増々声を荒げていく。


「貴方のこちら側でのご両親の方々のようですね。私の子供の頃で知ってる貴方と比べて…今の貴方の人間性が豊かに見えるのは彼らのおかげでしょうか?」

「は、はい…どうも…そんなわけでお手柔らかに…」


 そのカールソン夫妻にメッテルニヒは意外そうな表情を向けたのに対し、ミカエルは変わらず腰の低そうな感じのままであった。


「そんなに気を使って自分を小さく見せようとしなくても結構ですよ」


 だが、そんなミカエルにメッテルニヒは目を細め、周囲の人々を猫に追い詰められて睨まれたひよこの如き心境へ追いやった。


「「!?」」


 その静かだが鋭い爪で心臓を直に撫でてくるような威圧感に、カールソン夫妻は震えつつも親としての本能でミカエルの前に立って彼を守ろうとする


「「!」」


 同時に光代はその手に半透明状の白銀色をした長刀を魔法で生じさせ、ハイディナは四肢に幾何学的な魔法の術式の記号浮かび上がらせて強化し、それぞれ身構えた。


「……そうだね、あんまり気を使う必要は無さそうだね君達には…。けれども…お互いに昨今の世論や情勢に、この星の現状を考えると…穏便な方法で済ませられるならそれに越した事はないだろう」


 一方、ミカエルもまたつい先ほど前のビビり全開な学生の空気など微塵も感じさせない、まるで闇を帯びた巨大な骸骨を意匠とした鎧の如き身を持つ巨人の如きオーラを漂わせ出し、光が薄れたが鋭く細まった双眸でメッテルニヒと向き直った。


「…ほう、それでは貴方ならこの星を穏便な待遇で済ませて、且つ我々の世界にもより良い道を示すことが出来ると?」

「…正確にはそれが出来る人に頼むことならばだが……無論、無償の奉仕という得体のしれない手段を取るつもりはない…。幸いなことに今この場の目の前にそれが出来る人がいるからな」


 それに応じて一瞬震えこそしたもの、鋭い眼光を強めたメッテルニヒに対し、ミカエルは先ほどに自身の分身が持ってきた品のビニール袋や紙袋を一瞬で切り裂き、その中身を曝け出した。


「…つい先ほどにこの島の且郷(かつごう)町のフィッグ(セカンド)で買い集めてきた、この島の名物甘菓子系お土産を渡すから、メッテルニヒ…君がこの星の星々の大海へのデビューを仲介してほしい」


 ミカエルが真面目な表情で見せたそれらの品々は、ここ海士臣島で取れる黒糖やフルーツを用いたお土産の甘菓子の類いであった。


「「「「「………………」」」」」


 そのミカエルの策の要が露わになった時、周囲は凍り付いたような沈黙に陥った。


「…ってそんな遠くの親戚との付き合いで出るようなお土産で地球救えるわけねえだろおおおおおおおおおおおおお!!」


 数秒経過した後、その沈黙を破壊したのは宗一の咆哮(ツッコミ)であった。


「え!? 何でここにいんの!?」

「お前が商店街の方へ飛んでった時に海賊が襲ってきたから隠れてたら戻ってきたお前らがその船の一隻に連れ込まれたのを見たからこっそりその船を追って来たらここに着いたんだよ! そしてどういうわけか夢の世界で扱ってた魔法が使えるようになったからここまで飛んできたんだよ!! つーかそんな菓子なんかで外交とかが進むのならこんな事態になってねえだろ! 今回の事態にお前まで頭追い付けなくなって頭のねじが外れちまったか…!?」


 こちら側での親友の急な再登場で驚きつつもいつもに戻ったミカエルに、宗一はプッツンしきった様子で捲くし立てていくが、それはこの場を覆い威圧感の更なる上昇と、それにつれて新たに生じた異変で差し止められた。


「…見誤りましたねぇ。()()()()()()()

「「「「「!!!!!????」」」」」


 宗一たちがその静かだが濃密な感情の高ぶりを宿した声に釣られると、そこには威圧感を更に強めて、足元から禍々しい煙をくすぶらせ始め、多くのものには初めて聞く名を言い放つメッテルニヒの姿があった。

 メッテルニヒがミカエル達との距離をじわじわと詰めるたびに、踏まれたマンション屋上の床から嫌な臭いを伴った煙が立ち上っていく。

 それが周囲に与える恐怖を強めていき、子供なら泣き叫び、老人なら弱くなっている心臓が止まりそうな空気が広まり続けていった。


「…この代償は高くつきますよ!!」


 しまいには、メッテルニヒの威圧感と周囲から立ち上る煙が混ざり合って巨大化し、巨大な悪魔の如き様相を象り出していく。


「……あーうん、とりあえず…その煙の正体が涎って時点でそんなに高い買い物にはならなさそうなのはわかったよ」


 但し、普段の抜けた感じのする高校生モードに戻ったミカエルが頬をポリポリと搔きながら指摘した通り、メッテルニヒを包む煙の正体は、ミカエルが紹介した甘菓子に反応して超大量に分泌された涎の酸でマンション屋上が溶かされて生じたものであった。


「…あー、確かメッテルニヒさんって…母国で行われた会議で出すために…ザッハトルテを作らせたほどの甘いもの好きって説があったわねぇ。じゃあ、黒糖が取れるこの島とは相性がいいかも…」

「いやこの星が助かるかどうかの話がそんな展開ってありかーーーーー!!??」


 それを見てマリアが口にした歴史系の小ネタを受け、今度はダニエルが放った咆哮(ツッコミ)が大気を震わせた。

こんな外交があるかってツッコミたい意見はあるでしょう…というかそういう意見が大半でしょうけど、このSSは基本ギャグ作品なので笑ってくださると幸いです。

次回は、地球側と異世界側の各国の反応が描かれる予定です。

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