010 ルールはわかりやすいのが良いのに…
小学校時代のいじめっ子には、何やら周りが聞くと頭がおかしい子じゃないかって感じの笑い声をする子とかいますよね。
今回は、作者の小学生時代にいたいじめっ子の一人が元ネタとなっています。
○2023年4月7日昼 日本国 鹿児島県南部 海士臣島 海士臣市 ループ橋付近集落上空 某宇宙海賊船船内○
「よし、じゃー準備は出来たしルール説明といくぞ」
ダニエルとマリアの不慮の死から数分後、ミカエルは海賊達が仕掛けたデスゲームの誘拐された人々の一番手として、周囲の意識を集めていた。
円の中には机と二つの椅子が存在し、海賊側の代表とミカエルがそれぞれの席に座って向かい合っている。
「まずは今回のデスゲームの内容を公表するが、内容はこいつだ」
海賊の船長がミカエルと海賊側のデスゲーム代表の前にダンっと置いたのは、彼だけでなく人質にされている人々には見慣れたものだった。
「「「「「……ジェンガ????」」」」」
海賊側が今回のデスゲームの道具として見せたそのあまりに馴染みのある玩具に、攫われた人々から戸惑いの声が上がる。
だが、この世界で楽しまれている通常のものと違い、その知識から良からぬ意味で覚えのある特徴があるのをミカエルは見逃さなかった。
(!? このジェンガの積み木の一つ一つに掛かれている文字は…)
ミカエルが少し双眸を細めたその時、その空気を邪魔する喧しい声が響いた。
「おい! いい加減にしろよ! いつまでこんな親の金で見え見えな三流芝居を続けてんだテメエ!?」
その喧しい声はこの世界でのミカエルと同年齢の少年のそれだった。
「あぁ? 誰だぁあいつは?」
「あー船長さん、あの人~僕の小学校時代の同じクラスにいたいじめっ子ですよ。人を馬鹿にするときは“トロミ~ヒャッヒャ”って何を意味してるのか分かんないって感じの笑い方したり、腕を骨折した時は授業中にそれを盾代わりにして他の子を挑発しまくってマウント取ろうとして先生に怒られたり、テレビゲームを親に買ってもらえない子を自宅に上げてそれをしたがるようになるとさせる代わりに殴るなんて真似とかしてて…」
それに海賊の船長が怪訝な顔をしてミカエルが少しうんざりした表情で説明していると、その虐めをしていたという少年は二人にイラつきを強めた顔でズカズカと近づいてきた。
「人をこんな所に誘拐してきて出鱈目を言ってんじゃねえぞテメエ! そんなガキの頃の作り話なんか証拠なんざねえだ―――」
「嘘だと思うなら証拠映像をどうぞ」
「―――あってうわぁぁ!?」
それに対しミカエルは魔法で空中に黒板上の大きな画面を浮かび上がらせて、それに驚いてぶち当たった少年の鼻を痛めつけて転倒させた。
画面に映し出される映像は記憶から辿ってミカエルの魂に刻まれている記憶から引き出されたもので、まだ小学生時代の少年が同級生などにしている虐めの光景が映し出されていた。
「…うっわ、車が多く走ってる昼間の大通りにあんな馬鹿でかい声で…トロミ~ヒャッヒャって…何か昔からいるわよねー。こういう頭の可笑しそうな子って…」
「机を向かい合わせた子に骨折した手を盾にムカつくこと述べて…そんなに痛いのなら入院でもしていればいいのに…」
「俺のクラスにも今になって思えばこんなアホみたいなのがいたわなー」
「うわ、いじめられてる子を年上の親戚に殴らせてる…親戚も小さい内から器が小さそうだなー…」
その映像に周囲はヒソヒソ声で軽蔑や嘲笑の声を上げ始め、少年は学校中に恥部を晒しものにされた童のような不快感を覚えて、再びミカエルに向いた。
「っ! テメエやっぱこいつらとグルだろ! どうせ親の金でこんな他所の親戚とかを雇って俺がありがたく遊んでやった頃の逆恨みでどっきりでもしてんだろうが! こんな映像だってCGとかだろうが! こんなガキの玩具なんかテメエだけで遊んでろ!!」
「いや、そんな小学校のいじめの仕返しなんかでここまで大規模なことなんて出来るわけないじゃん。道路に大穴を開けて空に船を浮かべるなんてどれくらい費用掛ると思ってんだよ。あ! 馬鹿! このジェンガに手を出すな―――」
少年は無理に作った嘲りの笑みでミカエルの前に置かれているジェンガを乱暴に崩した。
そして、ジェンガを構成する直方体のパーツの一つが机上から床へ落ちた時にそれは起こった。
「―――あ…」
それを一番に理解したミカエルの顔へ幾つかの赤い雫が付き、その傍に何かがバタンと落ちた。
「………え!?」
彼に詰め寄っていた少年がその落ちた音に引かれて足元を見やると、そこには彼の肩から外れて床を赤く染めている片腕があった。
「…ギャアアアアアアアアアアァアアアァ!!??」
「「「「「ウワァアアアアアアアアアアァアア!?」」」」」
自身の片腕が根元から何故かもげて落ちたことに少年は痛みで気付いた瞬間に悲鳴を上げ、それは周囲の攫われた人々へ瞬く間に感染していった。
「喧しい! 説明の途中だから邪魔すんじゃねえ!」
それに船長は魔法銃で固形化した炎を撃ち放ってその轟音で人々を黙らせ、いじめっ子のもう片方の腕を肘から撃ち抜いて二つに千切れさせた。
「ぶギイィいい!?」
自身の皮を容易く撃ち抜いて肉を貫き、骨を容易く撃ち砕いて更にその歪な断面を焼き潰して生まれたその激痛に、少年は遂に涙と口からの泡や更に失禁まで垂れ流した後、意識を失った。
「…こいつの名は“ジャック・オン・ザ・ジェンガ”だ。パーツの一つ一つに名前が書かれていてな…。もしもこいつをゲームで間違って崩してそのパーツが机上から零れたりすると、負けたこのぼうずか…もしくはこのぼうずが選んだお前らのうちの誰かが、その落ちたパーツに書かれてる何らかの部位が今のように外されちまうって呪いが掛かってんのさ」
「「「「「………………」」」」」
意識を失った少年にニタリとした笑みを向けながらの海賊たちの説明に、攫われた人々は先ほどまでの失笑を買うかもしれない事故やそれに付随した親孝行への感動を忘れ、自分達が生殺与奪権を握られている存在だということを思い出して言葉を再び失った。
『うっひょ~~~! こういうのを待ってたんだよー!』
『小さいガキなんざ声こそ出してないけど涙と鼻水だけじゃなく失禁までしてるぜ!』
『うわ! 隅のババアなんざデカい方を漏らしてやがる!』
その光景に、海賊たちの視界に映し出される魔法ダークウェブ動画サイトのコメントには狂喜的なコメントが寄せられていっており、それに海賊達はほくそ笑んで人々には聞こえない魔法秘密回線で談笑する。
(船長ー! 動画の視聴回数がまた上がって来てますぜ!)
「(まー痛みは本物だからな。まー根性のねえ野郎はそれで軽いショック性霊体乖離状態になって時間が経つと本物の葬儀を上げなきゃいけなくなるけどよ…)それでよー兄ちゃん、まだやる気はあんのかい?」
口からの泡であった唾と血を垂れ流しにしながら横たわっている小学校時代のクラスメートを一瞥した後、ミカエルはスッと動揺した様子の無い静かな表情で海賊達に向き直った。
「…船長さん…これで周りから横やりが入る可能性は大幅に減ったし…そろそろ詳しいルール説明といこうか」
その時のミカエルの瞳には憤りの念をそこに滲ませつつも、静かで且つ強固な克己心に支えられた眼光が浮かび上がっていた。
「…ほほう、その顔つき…こういう場にはまるっきり縁がねえってわけじゃなさそうだな…久々に面白くなってきたぜ…」
そして、海賊の船長はそのミカエルに声を低くしながらも、中々手を焼かせるが近づきつつもある獲物に対する蛇の如き笑みを向けた。
今回は短めですけど、拙いながらシリアス(?)描写が入りました。
次回はデスゲーム(?)の様子が描かれます。