それこそ、まやかし
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
機構の幻想 の続編に当ります。
でも単体でも行けると思います。
全ては私が幻想即興曲と月光を勘違いした事から。
※この事から分かる通り、クラシックは全然詳しくありません。
床に寝転んで、ヘッドホン装着。流すのは幻想即興曲。そうして死んだ目で聴いていると、妙な違和感に見舞われた。曲の違和感ではない。私の中にある、曲に対するイメージ。その輪郭が段々と朧になり、溶けて無くなって行くような。そんな、妙な気持ちに見舞われた。
かつてくどい程脳裏を犯していたアンドロイドの創造と破壊も、今も記憶の片隅に追いやられている。
彼と二度目のデートをした。今度は別の喫茶店。大正浪漫をテーマとした赤絨毯、ベロア素材で懇切丁寧に作られたソファ。そこに空気に浸りながら、店内に流れる音楽に耳を傾ける。
ドビュッシー作曲、月の光。人の心を癒して来た曲に耳を傾ければ、悩みの相談まで溶かされそうだ。
「嬉しいな。君から誘って貰えるなんて。またクラシックのお話でもする?」
「……お願いします……」
彼は心底嬉しそうに目を細めて笑った。底が見れないところが魅力でもあるが、この言葉はきっと嘘ではない。そんな彼に合わせて、私は僅かに口角を上げた。
「この間の……幻想即興曲の話。聞けば聞くほどあの輪郭が段々とボヤけてきた。本当に……私はあの曲を聴きながら、アンドロイドの破壊と創造を見ていたのかと」
その一言を聞いた後、彼は鋭い眼光に僅かに光を灯し、私の顔を真っ直ぐに見詰めてきた。それから少し何かを考える様に僅かに首を傾げた。一般的な反応だろう。こんな事を率直に伝えて、拒絶や怪訝な顔をしない人間の方が珍しい。
忘れてくれ。と撤回しようとしたら、先に彼の方から口を開く。
「幻想即興曲には元になった曲があるんだよ。ベートーヴェン作曲、月光。かなりオマージュ効いてるから、もしかしたらそれと勘違いしたんじゃないかな? お茶が終わったら、公園のベンチで一緒に聴こうか」
そうして、お茶を終えた後、私達は近くの公園のベンチを訪れた。木漏れ日が落ちる、日陰のベンチに横並びになって、彼が持ち寄ったイヤホンを互いの耳に嵌める。操作して流れるのは、彼が伝えた曲。ベートーヴェン作曲、月光。物静かに退廃的で悲壮感溢れる旋律。激しくはなく、ただ夜の寂しさを謳う様に緩やか耳に届く。
「今聞いたのが、ベートーヴェン作曲、月の光 第一楽章。オマージュ聞いてるのは第三楽章だけど、流れ的に一通り聞いて欲しくてね」
「これだと思う」
しっとりとした退廃的で物悲しい旋律。ワンフレーズ終わる事に、脳内でアンドロイドが自己破損される。それでも癖になって流し続けてしまうのは、それ程の名曲であると言うこと。
「第一楽章は幻想即興曲の入りが似てるんだよね。だからもしかしたらって」
彼は静かに笑った。こうした話を出来るのを深く喜ぶ様に。
暑くてクラクラして、色々と話が纏まらず、幻想奇譚が滞る毎日です。
十回程聞いて、本当に私はこの曲を聞いて、アンドロイドの破壊と創造を脳裏に浮かべたのか?
という思いに至りました。
という訳で、「悲壮感溢れるクラシック」と検索をかけて、再度これじゃ無いかと思ったのが、月光 第一楽章 です。
ソースがふわっとしてますが、
オマージュ効いてるとは結構出て来ました。
月光 も元々は 月光 というタイトルではなく、幻想曲風ソナタというタイトルも出て来ました。
幻想即興曲、幻想風ソナタその二つにつく、幻想という言葉。
私の脳裏に浮かんだ世界さえ、勘違いを産むほどの幻想、幻覚、まやかしなのではないか。
という理由から、このタイトルです。