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第2話(2)キラキラ寄れば

「おい、どういうこったよ、山田!」

 自分のクラスの教室に入り、窓際の席についた山田に茶髪の男子生徒が話しかけてきた。

「なんだ、佐藤か……」

 頬杖をついていた山田は佐藤をチラッと見ると、すぐに窓の外に視線を移す。

「いや、無視すんなよ!」

「……一応、反応はしただろう?」

 山田は視線だけを佐藤に向ける。

「一瞥って言うんだよ、そういうのは」

「難しい言葉をよく知っているな」

「お前の日々のリアクションで覚えたよ」

「俺のお陰で一つ賢くなったってわけだな」

「そうとも言える」

「良かったな」

 山田は再び窓の外に視線を移す。

「いや、だからよ……」

「国語の成績が上がったら、ラーメンでも奢ってくれ」

「だから、そうじゃなくてよ!」

「……なんだ」

「なんでいつもそういう興味なさそうな反応すんだよ」

「なさそうなっていうか、実際ないからな」

「ないのかよ」

「ああ、これっぽっちもない」

 山田は右手で頬杖をつきながら、左手の指で小さな丸をつくる。佐藤が戸惑う。

「そ、そんなにか……」

「そうだ」

「なんでだよ」

「お前が語尾に!を付けてくるときはロクでもない話題だと相場が決まっているからな」

「!を付けてるって、!が見えるのかよ」

「……言い換えれば、口角泡を飛ばす勢いの喋り方の時だ」

「こ、こうかく……?」

「良かったな、これでまた一つ賢くなれる」

 山田は三度窓の外に視線をやる。

「って、そうじゃなくてよ!」

「……だからなんだ」

 山田がうんざりしながら頬杖を外し、佐藤の方に体を向ける。

「なんだはこっちの台詞だ。さっきのはどういうこったよ!」

「さっきの?」

 山田が首を傾げる。

「校門の辺りでこの学校きっての美人、天翔サファイア先輩と、その妹で、期待の新入生、天翔オパールちゃんと何やら楽しそうに会話していたじゃねえか!」

「していたか?」

「しらばっくれんな、ネタは上がってんだよ!」

「お前もどうでもいいところで目ざといな……」

「サファイアとオパールとガーネットが揃って会話してんだ、そのキラキラぶりが嫌でも目に入ってくるだろうが」

「それはそうかもな、三人寄ればなんとやらか……」

「何を言っているんだ?」

「さあ、一体何を言っているんだろうな」

 山田は肩をすくめる。

「ていうか、今日はガーネットいじりに怒らないんだな?」

「イラつきよりもの珍しさが勝ったからな。文字通りのキラキラネームの持ち主が同じ学校に集まるとは……」

「サファイア先輩のことは知っていただろう?」

「それはまあな。ほとんど伝聞だが」

「新聞部がお前らの対談を企画したのはマジなのか?」

「秒で断った」

「なんで?」

「なんでって、それはこちらの台詞だ。何故にして自らいじられる要素を積極的に増やしていかなければならないんだ」

「面白いだろう」

「面白くない」

「そうか?」

「ああ、全然な」

「まあ、それはいいとして……先輩はともかく、オパールちゃんとどこで知り合ったんだ?」

「……たまたま通学路が一緒だったんだよ」

「嘘だね」

 佐藤が食い気味に山田の言葉を嘘だと決めつける。

「……なぜそう思う?」

「天翔家は三茶方面だ。お前の家は全然別方向じゃねえか」

「……」

 住み込みで家政夫のアルバイトをすることになったという恰好のネタを提供するのはあまりにも危険かつ何の得もないということはすぐに分かった。山田は沈黙を選ぶ。

「なんで黙る?」

「……むしろ、何故お前は彼女らの家の方角を知っている?」

「なにかと有名だからな。さすがに細かい住所までは知らねえけど」

「そうか……もう一つ、先輩はともかくとして、何故入学したばかりの彼女のことを知っているんだ?」

「目立つ異性はすかさずチェックするだろう?」

「だろう?と聞かれても……」

「学校生活の定番だぜ」

「俺には無い考えだ……」

 山田が困惑する。佐藤が端末を取り出して言う。

「かわいい女の子は名前だけでなく、クラス、部活、友人関係、趣味や特技、身長、体重、座高、スリーサイズまで事細かに調べるものだ」

「…………」

「なんだよ?」

「お前……キモイな」

「まあ、さすがに座高は冗談だ」

「違う、そこじゃない」

「体重やスリーサイズを調べる云々ももちろん冗談だ」

「多少だが安心した」

「しかし、天翔オパール……あの子は目立つからな、色々と話は入ってくるさ」

「そうなのか?」

「ああ、いくらこの学校が進学校のわりに校則ゆるゆるだとはいえ、あのオレンジ色の髪はかなり目を引くぜ。ルックスやスタイルも込みでな」

「そう言われるとそうだな……」

「……で、どうなんだ?」

「なにがだ」

「オパールちゃんとの関係だよ」

「さっきも言っただろう、たまたまきっかけがあって話していただけだよ」

「たまたまのきっかけってなんだ?」

「曲がり角でぶつかったんだ」

「そんな昭和みたいなことあるわけないだろうが」

 昭和でもそんなことは無かったとは思うが、とにかく同居していることは黙っておいた方が無難だろう。色々騒がれるのは御免だ、と山田は考え、再び沈黙を選ぼうとした。

「あ! いたいた、山田パイセン~ちょっとお願いがあるんですけど~」

「!」

 オパールが廊下から声を上げる。佐藤のみならず周囲の視線が集中し、山田は頭を抱える。

お読み頂いてありがとうございます。

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