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第7話(2)突然の知らせ

「おはようございます!」

「ああ、おはよう……」

「おはよう、トパーズちゃん……」

 トパーズが元気よく挨拶をしたのは、彼女がアルバイトしている老舗のラーメン店を営む老夫婦である。しかし、その返事にいまいち元気がない。

「あの……どうかしましたか?」

「え?」

「なにがだい?」

「いえ、大将も奥さんもここのところ元気がないようなので……」

「そ、そうかな?」

「そ、そんなことはないわよ」

「……」

 トパーズは老夫婦をじっと見つめる。大将が苦笑する。

「やれやれ、トパーズちゃんにはかなわねえなあ……」

「女の勘ってのはやっぱり鋭いねえ……」

「やはりなにか……」

「ああ……」

「差し支えなければお聞かせ下さい」

「いや、差し支えどころの話じゃねえんだ……」

「え?」

「これはいずれトパーズちゃんにも話そうと思っていたんだが……」

「はあ……」

 大将が後頭部をポリポリと掻く。

「えっと、なんて言えば良いのかな……」

 大将が口ごもる。

「………」

「…………」

「ちょっとアンタ、黙ってまんまじゃ埒が明かないだろう?」

 沈黙する大将を見かねた奥さんが話を促す。

「どう切り出したら良いものか……」

「じゃあ、アタシから言おうかい?」

「い、いや! この店の主は俺だ!」

「それなら主らしく、ピシッとしなよ」

「お、おうよ……」

「あ、あの……?」

「実はな、トパーズちゃん……この店、そろそろ畳もうかと思ってな」

「ええっ⁉」

 トパーズが驚く。

「まだはっきりと決めたわけじゃねえんだけど……」

「わ、わたしのせいですか⁉」

「えっ⁉」

 トパーズの言葉に今度は大将が驚く。

「わたしの接客態度などにお客様からのクレームが殺到して……」

 トパーズは自らの胸を抑えて悲し気に俯く。

「い、いや……」

「まだ間に合います!」

「ま、間に合うって⁉」

「わたしを解雇して下さい!」

「なっ⁉」

「それならばクレームを出した方々の溜飲も下がるはずです!」

「え、えっと……」

「大将! 迷っている暇はありません!」

「そ、そうだな……」

「バカか! アンタ!」

「はっ!」

 奥さんの叱責に大将はハッとする。奥さんが呆れる。

「まったく……血迷ってどうすんだい……」

「お、俺としたことが……」

「奥さん!」

「トパーズちゃんもちょっと落ち着いて!」

「は、はい!」

 トパーズが背筋を正す。

「……トパーズちゃんの勤務態度にはなんの問題もないよ」

「ほ、本当ですか?」

「嘘を言ってどうするんだい」

「は、はあ……」

「むしろ大好評だよ」

「え?」

「最近はトパーズちゃん目当てのお客さんの方が多いんじゃないかい?」

 奥さんがふふっと笑う。

「そ、そうですか……」

「理由はもっと単純だよ……」

「……体調面の問題ですか?」

「いやいやとんでもない、アタシもこの人も健康診断は問題なしさ」

 奥さんが胸を張る。

「では……」

「そういうことじゃなくてね……」

「待て、その先は俺がちゃんと話す……」

「はいはい」

「……最近、この近くに新しいラーメン屋が出来ただろう?」

「は、はい……全国的に有名なチェーン店ですね……」

「そうだ、その店にごっそりお客を奪われちまってな……」

「そ、そういえば、確かに最近はお客さんが若干減ってきていたような……」

「若干というか、大分だよ」

 奥さんが苦笑する。

「そ、そうなんですか?」

「ああ、トパーズちゃんの勤務時間以外なんか寂しいもんさ」

「そ、そうだったんですか……」

「元々ここら辺一帯はラーメン屋激戦区だとかなんとか言われてきたもんだ。それでもどうにかこうか生き残ってきたんだが、今回ばかりは厳しそうでな……」

「そ、そんな……」

「母ちゃんとも何度も話し合ったんだが、この辺が潮時かなってな……」

「わ、わたしはこのお店が好きです!」

「!」

「将来自分のお店を持つために色々とお手伝いさせて頂いていますが……」

「トパーズちゃんは筋が良い。どこでもやっていけるさ」

「このお店じゃなきゃ駄目なんです!」

「‼」

「大将が作って奥さんが出してくれる、このお店のラーメンじゃなきゃ……!」

「へへっ、嬉しいことを言ってくれるね……」

 大将が目元をそっと拭う。

「考え直してはもらえませんか?」

「う~ん……」

「大将!」

「まあ、さっきも言ったようにまだ決めたわけじゃねえからさ。一応頭に入れておいてくれ」

「さあ、そろそろ開店の時間だよ」

「はい……」

 トパーズが開店準備にとりかかる。

お読み頂いてありがとうございます。

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