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王都の屋敷へ

「君は可愛いね。こんなに愛らしい子に僕は出会ったことがないよ。離れたくないと思うのは当然だ。君に触れることを許してほしい。ああ、僕の手にキスを返してくれるんだ。君のためなら、何でもしたくなるね」


 王都へと向かう馬車の中で、メルキオールさんと二人で向かい合って座っていると、私の膝の上にいるキティの顔に手を添えて言ったことだ。


 私の子は可愛いでしょ?と、ちょっとだけ自慢げに思っていた。


 メルキオールさんの手に、スリスリと顔を寄せているキティが愛らしい。


 一瞬で仲良くなったらしい。


 すぐ間近にあるメルキオールさんの頭を見下ろすこと、どれくらいの時間が経過したのか。


 気付いたことは、メルキオールさんからはとてもいい香りがするということだ。


 いつも花に接しているから、その花の香りが移るのか、特別な香水を使用しているのか。


 私は香水を使ったことがないけど、こんな香りなら使ってみたいな。


 そんなことを考えながら、綺麗に整えられた黒髪を眺めていると、はたと動きを止めたメルキオールさんは、何かに気付いた様子で、膝の上のキティから私の顔に視線を移すと、乗り出していた体を座席の背もたれへと戻していた。


 至近距離で見た青い瞳も、とても綺麗だとも思った。


「すまない、少しはしゃいでしまった」


「いえいえ、お気になさらずに。キティに夢中になる気持ちは私もとてもよくわかります。ええ、それはもう、とてもよくわかりますよ」


 いくらでも愛でてくれて構いません。


 なんなら、このまま一緒にキティの可愛さを語り尽くしたいくらいだ。


 コホンと咳払いをしたメルキオールさんは、


「そろそろ休憩する場に着くから、そこで体を伸ばしてゆっくりするといい」


「はい」


 それから、こちらに視線を向ける事はなかった。




 領地から出て、数日。


 とうとう王都に到着すると、私達を待っていたのは、領地のお屋敷と同じくらいの大きくて立派な屋敷に圧倒され、


「お帰りなさいませ。旦那様。奥様」


 同時に、玄関ホールでずらりと並んだ屋敷の使用人方の出迎えに、少々面食らっていた。


 当主であるメルキオールさんを出迎えるのは当然なのだけど、私にも期待するような眼差しを向けられて驚く。


 これは、責任重大だ。


 ここのお屋敷の方々も、メルキオールさんの女性問題で迷惑を被っているのかもしれない。


「ようこそ、奥様。貴女様がこの屋敷に来てくださる事を、使用人一同、首を長くして待っておりました。私は家令を務めます、ロバートです。領地の屋敷を管理しているジェフの息子でもあります」


「これから、しばらくお世話になります」


 代表して目の前に立った人を見る。


 ジェフさんの息子さんかぁ。


 ロマンスグレーのステキな姿を思い出す。


 目の前のロバートさんも、素敵な年の重ね方をしそうな見た目の方だ。


「コホン。あ、あー、アシーナは長旅で疲れているから、皆はすぐに湯浴みの準備を。アシーナ、僕が君の部屋まで案内するよ。キティは、僕がお運びしても?」


 メルキオールさんが腕を差し出してくれたので、右腕を乗せて、それから、キティが入っているキャリーバッグも預けた。


「よろしくお願いします」


「お任せあれ」


 目を細め、優しげに私に微笑みかけてくれるメルキオールさんを見て、そう言えば歩行の補助もキティも当たり前に任せてしまえているなぁって、結婚式当日の言葉を思い出せば不思議なことではあった。







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