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穏やかな朝を迎えて

 気持ちいい朝だなぁ。


 空は青く澄んでいて、小鳥がちゅんちゅんと囀っている。


 リゼが窓を開けてくれたから、心地よい風なんかも入ってくる。


 あれからメルさんはちゃんと寝付けたようだと、ドリスさんが報告に来てくれたから、私もそこから眠りについた。


 睡眠時間はいつもの半分以下だけど、体調は悪くない。


 朝の身支度がすむと、ちょうど良いタイミングで扉がノックされる。


「おはよう、アシーナ」


 早起きして大丈夫だったのか、メルさんは今朝も花束持参でお部屋まで迎えに来てくれた。


 クッション付きのカゴに座ったキティも抱えている。


「お姫様を護衛して参りました」


 メルさんのかしこまった口調がおかしくて、ふふっと笑いをもらしながらキティを受け取った。


「おはようございます。キティもおはよう。ご飯の用意ができてるよ」


 床におろしてあげると、キティは朝ごはんが置かれている器の場所まで歩いて行った。


 それを確認して、またメルさんに向き直る。


「あれからどうでしたか?」


「久しぶりによく眠れたよ。アシーナとキティのおかげでね。本当にありがとう。アシーナの睡眠時間を削ってしまって申し訳なかった」


「私は大丈夫ですよ」


 メルさんと食堂に向かいながら話す。


 いつも穏やかな微笑を浮かべているメルさんだけど、今日は特に柔らかい表情をしているなって感じていた。


 和やかな朝食がすむと、部屋に戻ったタイミングでリゼが手紙の束を持ってきた。


「それは?」


「どこかからアシーナ様の噂を聞きつけたのか、それを確かめようと伯爵家宛にお茶会やパーティーへの招待状が届いています」


 たくさんの封筒の差出人を流し見する。


 ほぼ全てのものにお断りの返事をするつもりだったけど、一つだけ断ることができそうにないものがあった。


 王家主催の舞踏会だ。


 二ヶ月後に開催されるもので、開催までの期間が長いから、王家主催とあって、かなり大規模なものになるはず。


 それを眺めて、思うところがあった。


「メルキオールさんに会いに行ってくるね」


 今は執務室にいるはずだ。


 一人でトコトコと移動して、あっさりと執務室に通してもらうと、大急ぎで私をもてなそうとするメルさんを落ち着かせて、用件を伝えた。


「メルキオールさん。私、この王家主催の舞踏会にメルキオールさんと参加したいと思います」


 全く予想だにしていないことだったのか、動きをピタリと止めたメルさんは何度も瞬きをして私を見ている。


「メルキオールさんとの結婚生活の最後に舞踏会に出て、思い出を残すのもいいかなと思っています。私は社交界に出たことがないので、本当は少しだけ興味がありました。後の私のことは気にしないでください。ひっそりと離婚して、メルキオールさんが都合の良い時まで、それを隠していればいいのではないでしょうか。私の方はもう、社交界に出たりはしないので、どこかの田舎でキティとひっそりと暮らしたいと思います。その際は、おじい様に子爵家のことをお願いすることになると思いますが」


 それを聞いて、メルさんは戸惑ったような表情を見せた。


「君は、この結婚を無かったことにもできるんだよ?お披露目のように人の集まる所に行けば、それができなくなる」


「メルキオールさんとの縁を無かったことにするつもりはないので、結婚無効にはしません」


「本当に、いいの?」


 こくんと頷いて答える。


「わかった。アシーナの希望はわかったよ。それなら、素敵なドレスを作ろう。楽しい思い出になるように。仕立て屋をここに呼ぶ?それとも、僕と一緒に街に出てみる?」


「街に行ってみたいです」


「では、そうしよう。社交界シーズンの始まりと終わりに、王家主催のパーティーが開催されるんだよ。今度のものと、あとはおおよそ六ヶ月後にある」


「その二つともに、二人で参加したいです」


「了解した。明日。明日はどうかな?」


「はい」


「じゃあ、明日のために、今日はゆっくり休んで。僕のせいであまり眠らせてあげてないから。ドリスとロバートにもお昼から休むように言ってるんだ」


「わかりました。お言葉に甘えさせてもらいます」


「明日が……楽しみだよ。アシーナは、どんな色が気にいるかな。黄色やオレンジなんかの明るい色も似合うと思うよ」


「子供の頃は、薄いピンクや水色が好きでした。大人になってからは華やかな場でドレスは着ていないのでどうでしょうか」


「君に似合う素敵なドレスを作ろう!」


 メルさんは、私以上に意気込んでいるようだった。












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