襲来
「奥様、旦那様がお見えです」
「はい?」
ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、屋敷に勤める侍女が部屋を訪れて告げた事だった。
旦那とは、つまり私と結婚している夫のことなのだけど、その夫とは、結婚式を挙げた日以来、顔を合わせていない。
その歳月は、早くも三年。
“祖父の命令で君と結婚したが夫婦生活を送るつもりはない”と、式当日から、私だけをこの別邸に住まわせているのだ。
このお屋敷に勤める人達はとても良い人ばかりで、何不自由ない生活を提供してもらっているから何の不満もないけど、何で、今日来たの?
とうとう、離婚?
その場合は、手切金なり慰謝料なりもらえるのかしら?
慰謝料はちょっと違うか。
むしろ、私が慰謝料を払うべき?
多くは望まないけど、もう家族はいないから、小さな家と一人暮らしの準備金として、少しくらいの生活費は欲しいな。
紹介状を書いてもらえたら仕事をみつけやすいから、それを条件に離婚は受け入れるつもりはある。
あと、猫を連れて行ってもいいかな。
寝転がって、高い高いをしたままの猫がどこまで伸びるか見ながら物思いに耽っていると、その間、綺麗な姿勢で立つ侍女を待たせたままだったので、急いで起き上がる。
「えっと……着替えた方がいい?」
「ええ、それはもう、ばっちりと戦闘態勢を整えましょう。お任せください」
戦闘態勢なんだ(笑)
どこか他人事のように思っていた。