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Fゲーム  作者: 塚波ヒロシ
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第22章 I’ll come

引き続き22章をお楽しみくださいませ!

サイバトロン、アターック!

第22章 I’ll come


「今回のレースも残りわずか!トップはシルバーナイト ワッツ!しかしそのすぐ後ろには期待の新星レッドブルのアラシヤマが張り付いているぞー!」

 興奮を隠さない実況がスピーカーから流れてくる。シルバーナイトとレッドブルがどんどん傾斜角度を上げてゆくジャンプ台を、重力に逆らい爆走してゆく光景が観客席前の巨大なオーロラビジョンにも映し出されているはずだ。

 ジャンプ台と言っても、ただただ上方に向かう坂道はグングンとその傾斜を高くし、最も効率的と言われる45度になった。後は平坦なアスファルトの地面が空へと延びているだけだった。

 ジャンプ台には加速装置が仕込まれているらしく、レッドブルは性能以上の加速をし僕の体はシートにめり込んでいた。

 余りに加速に首がつりそうになるのを堪えながら踏みっぱなしのアクセルを緩めることは出来ない。それは右前方を同じように走っているシルバーナイトも同じだ。この区間だけの話をするのならレッドブルとシルバーナイトの差は縮まってはいない。

 ジャンプ台が終わる。抜けるような青空に投げ出されたその瞬間、僕の体はさっきまで掛かっていた圧力の壁から解き放たれた。

「シルバーナイト フライトモードニ ヘンケイシマス」

「コイツを待っていた!ブースター作動!」

「リョウカイ!」

 シルバーナイトがその四つのタイヤを折り曲げて、飛行モードに変形する。するとどうだろう、たったコンマ何秒かだけだが機体にブレーキがかかる。映画と同じだ!僕が追い付くには充分な時間だ!

 用意していたジェットブースターを点火し、僕はレッドブルを空中で更に加速させる。ゆっくり、いやほんの1秒もない時間で僕は右真横にシルバーナイトを睨み付ける事が出来る位置に着いた!

『ドアから離れて!』

 ミカがレッドブルとシルバーナイトのドアとドアの間にネオンサインの様なウインドウを出現させると同時に、ジェットブースターの天面に出現させたマシンガンが火を噴いた。

 右の助手席を挟んでいても目をしかめるほどの火花が飛び散り、シルバーナイトの左のドアが蜂の巣になる。銃撃が止まっても無惨に穴だらけになった銀色のドアはシュウシュウと煙をたなびかせていた。

 上手くいったのか……?

 一瞬、嫌な結果を想像してしまう。威力も抑えた。狙いも完璧。でももし一発でも彼女の体に当たってしまっていたら……。

 その瞬間だった。勢いよく穴ぼこの銀のドアがはね上げられ、レーシングスーツの人物が座席に横座りになり上半身を迫り出してきた。

 僕もレッドブルの助手席のガルウィングを跳ね上げるが、さっきのマシンガンの反動とドアの展開の反動二つが相まってレッドブルが左回りにロールし始めた!

 僕のいる運転席側を下にしながら飛行性能なんて本来は付与されていないレッドブルはゆっくりと高度を下げてゆく。まるで井戸の底のにいてその上にさっきの人物が見える様な位置だ。クソ!予定が狂ってしまった!落下するのが早すぎる!

 するとどうだ!さっきの人物がその井戸の底の僕目がけて頭から飛び込んできたんだ!

 ぐんぐん迫るヘルメット!その奥の顔なんて解りゃしない!僕はハンドルから手を離し、その人物を受け止めた!ミュート、なんだよな?間違ってないよな?

 車内はほとんど無重力状態だったのが幸いした。覚悟していた程の衝撃はなく、その人物は僕の腕の中にすっぽりと収まっている。

 おそるおそるメットのシールドを跳ね上げると、僕は大きな一息を吐き出した。

 僕の腕に飛び込んできたのは、顔を涙でグショグショに濡らしたミュート本人だったからだ!

 

「ロムぅー……」

「ミュート……」

 僕は彼女を抱く腕に力を入れ唇を重ねようとしたが、メット同士がぶつかる音を聞いて今はソレが叶わないと気付いた。

 ミュートは残念そうに眉をひそめ、そのあと微笑んだ様に見えた。メットを被っているから目元しか確認できないけど、その笑みを見て僕はもう一度安堵の一息をついた。

「ザ……おーい!落ちてるぞー」

 ダグの通信に僕とミュートはビクッと体を震わす!そうだ、まだレースは終わってないんだった!

 気付けば遥か上空をシルバーナイトが飛行してるし、逆に僕らには地面がグングン迫ってきている!もう数秒気づくのが遅かったら完全にリタイアしている所だった。

「ミュート、コントロールを移譲します」

「了解!ミカからミュートにコントロールを移譲確認」

 器用に助手席に座り直したミュートがシートベルトをはめながらミカに応答する。ミカの姿が見えないので、もうダグのゼータに全機能を移したんだろう。

「さーて、どうしよっか?このままリタイアする?それとも……」

「折角だし、アレ……やっとかないか?」

「いいわねー!私ね、あのイケすかない金髪イケメンをぶっ飛ばしてやりたかったのよー」

 地面がもうすぐそこに迫っているんだけど、僕とミュートはまるで休日の予定を決めている恋人みたいに落ち着き、いやむしろワクワクを抑え込むように会話した。だってそうだろ?僕にはレッドブルがあり、ミュートが隣で笑っていてくれる。出来ないことなんて無い!そんな子供の様な壮大なヤル気に心が満ち溢れている!

「よーし、一丁やってみっかー!」

「あっ、それ孫悟空のモノマネ?」

「何だよそれー?……気を取り直して!」

「こほん!同調システム作動!バトル……」

「ゴー!!!」

 目が眩むほどの突き刺さる光が僕ら二人とレッドブルを包み込んで、同調システムは作動し始めた。


 同調システム。マシーンとその操縦士を精神的に感覚的に繋げることによって、マシーンを手足を動かすかの様に自由に操縦出来るシステム。でも操縦士の身体と余りに異なるフォルムのマシーンと繋がる場合には途方も無い練習とセンスが必要とされている。

 そのせいで「ある特定のバトルシーン以外」では殆ど使用されることのないシステム。

 だってそうだろ?人間にはタイヤもブレーキもついてないんだからカーレースにこんなシステムをペナルティーを払ってまで搭載するバカは居ないはずだ。

 じゃぁ逆に考えてみようか。「このシステムを充分に活かすことができる特定のバトルシーン」ってなんだと思う?

 人間と同じフォルムをしているメカを操るシーンとは?人間の動きをトレースしているメカとは?

 そう……そうなんだ。それこそが後にレッドブルを「奇跡のスーパーマシーン」と言わしめた最大の奥の手!

『トランスフォーム!』

 観客席の人達や実況アナウンサー、いいや僕ら4人以外は何が起きているか理解できていなかったんじゃないかな。実際にレッドブルが五体満足で着地するまでスピーカーからは誰の声も聞こえなかったし。

 光り輝いたレッドブルは地面に衝突する残り数秒でその姿をスーパーカーの姿から角ばった手足と、角の生えた真っ黒なヘルメットを被った鋼鉄の人の姿に一瞬で変形をし、背中に背負ったロケットブースターを吹かしながら地面に片膝をついて軽やかに着地をした。ゆっくりとした駆動音と共に両足で立ち上がるその姿は真紅の鎧をまとった巨大な戦士の立ち姿に見えたはずだ。

「ロム、ブースターでジャンプするわよ」

「よし!全開で飛び上がるぞ!」

 頭の中でミュートの声が聞こえた僕は、肩甲骨辺りに力を入れる。するとブースターが作動し僕の体を持ち上げ始めた。

 同調システムシステムのおかげで、このレッドブルの身体自体が僕の体となっている。本来僕の体には付いていないロケットブースターを操るのには結構練習が必要だったけど、ミュートも一緒に同調することで意思の伝達を完全に出来る様になっている。まぁその為この姿になるとミュートの姿を見る事ができなくなるのがとても残念なんだけどね。

 ブースターが吠え、シルバーナイトの車体がどんどん近づいてくる。さっきの銃撃でのダメージが影響しているのかもしれない。チャンスだ!

 そう思った瞬間、ブースターが咳き込む!

「ダメ!エネルギーが足りないみたい!」

 ミュートの悲痛な声が頭の中を走る!冗談じゃない!あと数メートルって所で?

 僕は鋼鉄の手を伸ばし空中を掻き泳ぐけど既に前進する勢いがなく、もう落下しようとさえしている。

 しかも、ウミさんの機体までジャンプ台を飛び出し、下から僕に迫ってくる勢いだ!

「そうだ……!ゴメンねウミちゃん!」

 さっきとは打って変わって嬉々とした声を響かせるミュート。顔こそ見えないが間違いなく笑っているようだ。でもこんな声の時のミュートは何かイケナイ事を思いついた時なんだが……。

 突然僕の右肩に今まで出番の無かったロケットランチャーが出現し、間髪入れず砲身が火を吹く!弾は完全に何も無い虚空に打ち込まれ、逆に僕の体はその反動で真下に、いやウミさんの機体との衝突コースに乗ってしまった。

 足先からスーパードラゴンに衝突してしまう。ウミさんがハンドルを離し、両腕で顔を防御するのがフロントガラス越しに見える!ピンポイントバリアーが貼られるのも見えたけど役に立つちは思えない。

 グシャ!

 足の裏にゴムの板を踏んだようなバリアーの反発力と一緒にアルミ缶を踏み潰した感触を感じた。ミュートが代理で操作しているレッドブルは一瞬だけブースターを最大推力で火を吐く!そしてその鋼鉄の両足がグン!と力強く膝を伸ばす。

 その瞬間、ブースターを吹かした時以上の上方への加速が全身にかかる!逆にウミさんの悲鳴がドップラー効果を伴いながら下方へどんどん遠ざかってゆく!

「ひどいよロムー……僕を踏み台にするなんてー……」

 僕の体は今や鋼鉄なんだけど、間違いなく全身から冷や汗が噴き出していた。クスクス笑っているミュートが怖いんだけど。

 しかしウミさんの犠牲のおかげで僕の巨大な体はシルバーナイト車体の真下まで跳ね上げられていた。手を伸ばし、ヤツの車体のフロントバンパーとリアバンパーに指をかける。そのままの勢いで体を逆上がりの要領で一気に持ち上げ、僕はシルバーナイトの車体の上に仁王立ちした。

「さーて、どうしてあげようかしら……」

 レッドブルの口からミュートの声が発せられた。鋼鉄の体から発せられるにはあまりに可愛い声なのだけど、ドスの効き具合はぴったりマッチしている。あー、ミュートめっちゃ怒ってるわ。

 それでもシルバーナイトは優秀で冷静だった。サーフボードに乗ってるような格好のレッドブルを振り下ろそうとしている。しかしミュートはもっと冷静で、すでに足に裏から飛び出した杭みたいな爪をシルバーナイトの車体に打ち込み縫い付けてしまっていた。

 どうやっても一向に振り下ろせない僕らに剛を煮やしたシルバーナイトが最後に手段に出たのは、ゴールラインがもう数十メートルという距離に近付いたその時だった。


 シルバーナイトの推進力が完全にカットされた。一瞬またも無重力状態になったかと思ったら今度は急激な落下が始まった。

 二台が繋がったままだからだろう、シルバーナイトのパイロット、ワッツの叫び声が風切り音と共に僕にも聞こえた。

「死なば諸共だ、クソやろうー!」

 あちゃー、切れちゃったみたいだ。不安定な重心だったので落下するにつれ、さっきとは上下が逆になり、レッドブルは頭からドンドン地面に近付いている。逆さ吊りになった僕の足に上にシルバーナイトが乗っかっている形になってしまった。

「ロム、ほぼ真下にゴールラインがあるわね。先に着地した方が勝ちなのよね、確か」

「そうそう。このまま落ちていけば僕らの勝ちなんだけどどうしよっか?」

「アイツさ……私のオシリを触ってるんだよねー」

「確かに」

「あとさ、危うくキスもされそうになったのよ、拐われた時」

「マジ?」

「胸も見られたかもー」

「……」

「あ、着替えを覗かれたかもねー」

「ゆ……許さねー!」

「あとオッパイつんつんって……」

「ミュート!全身のショックダンパーを作動!フレームを固定!ミカに教わったアレをやるぞ!」

「ホイきた!ミュートにおまかせ!」

 僕は怒りを力に変え、鋼鉄の体を持ち上げ、シルバーナイトの車体を肩に担ぎ上げる。両の手でフロントとリアに指を食い込ませガッチリとホールドする。まるでヤンキーが野球にバットを両肩に抱え、両端に左右の手を添えている姿のようだ。

 落下スピードが更に加速する!エネルギーが残り少ない背中のブースターが一瞬だけ火を吹く。しかしその方向はさっきとは逆で、落下スピードを加速させる方向にだ!

 僕は両足をM字開脚し、尻から先に地面にぶつかる体勢を取る。空気抵抗が減ったのか、更に加速する。もう地面は直ぐそこだ!

「48の殺人技の1つ!」

「マッスルバスターーーーー!」

 ミュートと僕が技の名前を勇ましく読み上げる。アニメだと派手な効果音か特別なBGMが挿入される場面だ。その瞬間、爆弾が着弾し様な衝撃と轟音がゴールラインを激震させる。濛々と砂煙が立ち込めて何が起きたか分からないのか、スピーカーは未だ無言のままだ。

 砂煙がゆっくりと晴れてゆく。観客たちが見たのはレッドブルがゴールラインに尻からく突き刺さり、その肩の上で前後真っ二つに引きちぎられたシルバーナイトの無残な姿だった。

 駆動音を上げゆっくりと僕は立ち上がり、今や二つに分かれた銀の車体をゴールラインの前に放り投げる。

 ゴトンガシャンと思ったよりも軽い音を立てかたと思うと鉄屑は緑色のワイヤーフレームになり、砂埃と一緒になって消えていった。落下中にワッツはすでに気絶してログアウトしたのを確認出来たから、今頃はピットのベッドで寝ているだろうな。

 わざとらしく両手を打って埃を払い、僕はゴールラインを踏み越えた。鋼鉄製の右手は天に突き上げられ、更に人差し指が天を指す。その瞬間スピーカーが壊れるぐらいの歓声が僕の全身を覆い尽くした!そう、僕とミュートはこのレースの勝者になったんだ!


ここまでお読み頂きましてありがとうございます。

最終決戦のシーンを書きたいだけで始めた執筆ですが、そのシーンの理由づけの為に思いの外長い話となってしまいました。


一応次回が最終回となります。

今後については、次回の後書きにてお知らせしたいと思います。


ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございます!

もし続きの、Fゲーム2を読みたいと思っていただけたら幸いです。


皆様の週末に暇つぶしになっているようでしたら幸いです。多少でも面白いと思って頂けるのでしたら、高評価ブックマークの登録をお願いします。

とても励みになります。


では来週、最終回でまたお会い致しましょう!

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