第20章 青い稲妻
こんにちはこんばんは、おはようございます!
第20章を投稿致します。
前章は物語のバックボーンの説明でしたが、
その分この章では、最後の決戦に向けてロムたちに
アクシデントが!
是非お楽しみください。
第20章 青い稲妻
街の風景は何処かに消えてしまい、レッドブルの左右には雨ざらしで錆だらけになった輸送用の大型コンテナの壁がレースコースを形作っていた。
壁の奥には無人の工場や倉庫なんかがあり、曇り始めた空模様と相まって不気味さを演出する製作者の意地悪さが滲み出ているみたいだ。
コース自体は緩やかなコーナーと直線で構成されていて、走るだけなら問題はないんだけど……。
「バトルゾーンにしては静かね……」
正確なナビをするミュートも声のトーンを落としている事から、彼女も何か不気味さを感じているらしい。そう、すでに火器の使用が可能なバトルゾーンに入っているにも関わらず、余りにも静かだった。
コンテナの壁にコースの殆どを囲まれているので見通しは劣悪だし、誤ってコンテナにぶつかろうものなら走行不能にもなりかね無い。繊細なドライビングが必要な状況ではこの静けさは有り難かった。
僕とミュートは後ろとの差が縮まるのを覚悟で、慎重にレッドブルをゆっくり目に進めた。
「さっき抜かしたエンゼル兄弟との差は?」
「それが……このゾーンってレーダーがかなり効かない作りになってるみたいなの。ごめん、正直分からないわ」
「マズイな……。かと言ってペースをこれ以上上げるのも危険だし……」
「あと、このコースってショートカットや脇道もありそうなのよ」
「さっきのジャンプ台、アレが?」
「きっとね。近道かどうかは確証が無いけど。あー、ピットクルーがちゃんと居たら分かったかも知れないのに」
「少人数のチームの痛い所だなぁ」
「なーに?ドラゴンのチームに行けば良かったなんて言うんじゃ無いでしょうね?」
「そんな事言ってないよ。ただビットクルーが居ないってのが問題だなって事をだな……」
「待って!今、なんか聞こえたかも!走行音?」
「どっちからだ?前か、後ろか?」
「静かに!コレは……」
僕はコース取りに集中しながらもミュートの言葉を待った。車外のマイクに直接アクセスしているのに彼女が耳に手を当てているのがちょっと可笑しかったけど、ツッコミを入れるほど余裕は無かった。
何故なら、その後すぐに僕たちの頭上から大きな影が二つ覆い被さってきたからだった!
「ヤツら、コンテナの上でも走ってきたのか!」
僕の声をかき消す程の金属音を発し、白と黒の装甲車が僕の頭上を飛び越えて、真正面に並んで見事に着地した。
装甲の地肌にペンキで殴り書いたような卑猥なテキストと、十字架に磔になった天使のイラスト。間違いなく先刻抜き去ったはずのエンゼル兄弟の2台の装甲車に間違い無かった。
「完全に前を塞がれた……」
ミュートが悔しそうに呟く。奴らはその図体に似つかわしくない器用なドライビングでお互いどころかコンテナの壁にも擦ること無くコーナーを攻略してゆく。加え、僕との距離もつかず離れずを保ち、今にも襲い掛かろうとしているようだ。
こちらが抜こうにも、コースの左右は完全に塞がれていてこの状況からの脱出が出来ずにいる。僕の焦りがジリジリと増してくるのを感じる。
エンゼル兄弟も当然、このバトルゾーンで僕を仕留めにかかって来る。装甲車の屋根に設置されている機関銃とロケットランチャーが嫌な音を立てながらゆっくりとレッドブルにその銃口を向け始めた。
「そりゃ当然だよね!」
僕は奴らの火器の旋回が停止した瞬間、急ブレーキをかけた。お陰で機関銃の弾は地面に砂煙を立たせるだけに終わった。
僕がその制動を利用して車体をギリギリ右側に寄せると、今度はロケット弾がレッドブルを掠めるようにして僕の後方に飛び去ってゆく。
「あっぶねー!」
「ロム、こっちも反撃よ!」
「了解!マシンガンを使おう!」
レッドブルのルーフに大きなマシンガンが出現する。とても人間一人では持ち上げられないほどの大きさだ。コイツで白か黒の装甲車のどっちかでも仕留められれば勝機は得られる!
……そう思っている日が僕のもありました……。
バッシューン……
僕が放った会心の徹甲弾は狙いこそ違わなかったものの、白い装甲車に届く前に蛍光グリーンに光る壁に阻まれてしまった。
「あ、バリアーなんてズルい!」
ミュートが大声で文句を言うが、奴らは返事の代わりにまたも機関銃とロケット弾をぶっ放して来た。
「コンちくしょうー!」
外れた砲弾があげる砂埃で視界が悪い中、何とか避ける僕の悲痛な叫びが車内にこだまする。砲弾の着弾予測をしているミュートも必死で、悲鳴を上げる暇も無いほどだ。
「脇道とか無いのか?」
「走査してるけど無いみたい!せめて道幅が広くなれば抜くことも出来るんだけど……」
「これじゃヤられるのも時間の問題だぞ!」
「そんなの分かって……ん?広い場所に出るみたい!」
ミュートがフロントガラスに周辺マップを表示する。するとそこはコンテナで囲まれているのは変わらないけど、円形の広々とした空間が開けているようだった。
「ロム、あそこまでは走り切って!」
「スペースさえあればなんとか抜けるかも!」
僕たちは白と黒の装甲車に続き、その広い空間に走り出たのだった。
ドリルルル……
レッドブルのエンジン音が車内に反響し、僕の尾てい骨に重い振動を与える。
サッカー場の半分ぐらいの円形広場は、僕以上にエンゼル兄弟に有利な場所だったようだ。
ここは入り口一箇所なら出口も一箇所しかなかった。当然、エンゼル兄弟は黒い装甲車が出口を塞ぐ様に停止し、白い装甲車はそのやや前方で僕を待ち構えている。奴らは白が機関銃で僕を走り回らせ、ターンをしようとスピードを落とす箇所に黒がロケット砲を打ち込んでくると言う、分かりやすくも効果的な作戦で僕を追い込んでいた。
幸い、ミュートの火器管制能力でロケット弾をこちらのマシンガンで撃ち落とす荒業などでなんとか今まで無傷でいられたけど、反撃の手立てが見つからない。試しにさっきマシンガンを白い方に打ち込んでみたが、やはりバリアーで弾かれてしまった。
「マズイわ。先頭集団との距離がドンドン開いてゆく……。このままじゃ突破できても追い付けなくなるわ」
「ミュート、例のアレを使おう!もうそれしか……」
「でも、最終決戦まではバラさない方が……」
「いいや、このままだとその最終決戦に辿り着けないぞ!出し惜しみして負けちゃうぐらいなら!」
僕がミュートの指示を跳ね除け、例のアレを使うべく「安全装置」を解除しようとしたその矢先、ノイズがかった男の大声が通信で飛んできた!
「白い方を撃て!ロム!」
僕は条件反射的にハンドルに設置されたマシンガンの射撃ボタンを押し込む。狙い違わず手前の白い装甲車に連続して銃弾が襲いかかるが、やはりバリアーに阻まれバチバチとショートしたような電気音をさせながら中空で停止してしまう。
その刹那、青い稲妻のようなレーザー線が奥の黒い装甲車の天面に斜めに突き刺さる!そう見えた直後、黒い装甲車は大きく爆発し、その反動でまるで子供に蹴られた玩具みたいにコンテナの壁まで転がりながら吹っ飛ばされ、仰向けになり停止した。
濛々と黒煙と火柱を上げながら燃え続ける黒い装甲車から運転手出てくると、奴は空に向かい両手を振った。リタイヤの合図だ。それと同時に奴と大破した黒い装甲車は、大昔のコンピューターグラフィックみたいに蛍光グリーンのワイヤーフレームになり、すぅっと煙みたいに掻き消えていった。
「ロムさんよ、なにチンタラやってんだ?追いついち待ったじゃねぇかよ」
どこからかの通信、いやさっきの青いレーザービームの出所に視線をやると、コンテナの壁のその直上に朽ち果てた工場の鉄骨が張り出ていた。
その奥はトタンの壁が所々破れていて、マダラに影を作っていた。声の主はその影に潜んでいたようだ。
何やらギガゴゴと機械音なのか電子音なのか聞こえた後、僕が期待した通りの車体がゆっくりと日の当たる場所に進み出て来た。
「「ダグ!」」
僕とミュートはその車体が見える前に彼に呼びかけていた。
そう、ダグとミカ。そして彼らの操るゼータが姿を現したのだった!
「予想通りだったな。2台に同時にバリアー展開出来なかったみたいだな」
「おまたせ!間に合ったみたいね!」
ダグの自慢げな声とミカの安堵した声とともに、ゼータがちょうどスロープのようになっている板材や鉄骨を通り、僕たちのいる広場まで降りてきた。
「虎の子の高出力ビームが役に立ったぜ」
ダグがそういうと、ゼータのルーフに設置されたレーザーライフルが静かに白い装甲車に照準を合わせるよう旋回した。
「2対1なら……なんとか」
「いいえ、ロムとミュートは行ってください!」
僕の通信を遮ってミカがキッパリと断って来た。
「そうだぞロム。ここは俺たちに任せてサッサと先を急げよ」
「いや、コイツは1台でも強敵……」
「分かってるって!油断はしねぇよ」
「だけど……」
「駄目です!ここで時間を消費するわけにはいきません!」
こちらがビックリするほどの強い口調で、またもミカが意見を述べてくる。ダグならまだしも、ミカが言うとなるとよほど余裕が無いと見える。
「……行こう、ミュート……」
「了解。二人とも気を付けて……」
僕とミュートの通信にダグとミカは何も答えなかった。その代わりにゆっくりとレッドブルの前に進み出たゼータのヘッドライトが二度パッシングし、それが激しい戦闘の再開の合図となった!
広場での遅れを取り戻すべく、僕はレッドブルのスピードを上げて港湾コースを順調に走り続けた。
「二人とも……大丈夫だよね」
「大丈夫だ……さっきみたいにまた追い付いてくるさ」
道幅が広くなったせいか、ミュートも僕も少しぐらい会話する余裕が出てきた。
とは言えレーダーがまだ効きにくいらしく、視界より先のマップデータはノイズになっていて、いつ敵が出てくるか気が気ではない。まだ一息つくわけにはいかなかった。
「あの2人って、付き合いは長いの?」とミュートが緊張感がない質問をして来た。
「いいや、確かレースを始める少し前にダグがナンパして付き合うことになったんだから……2年ちょいじゃないかな」
僕も緊張を解したかったから、彼女の会話に付き合う事にした。まぁ街中のドライブのようにはいかないけどね。
「そっかぁ。なんか良いなぁ、あの2人の空気感……」
ミュートがしみじみと2人の仲の良さを評価し始めた。あれか?僕に対してなんか愚痴を言いたいのかな?コレは回答を間違えるとヤバいことになるかも知れない!お願いだから難しいカーブとか来ないで!
「私もね、ロムともっと仲が良くなりたいんだけど……どうかなーなんてね」
「そりゃ僕もそうだよ!」
「えへへ、即答なんだ。じゃぁさレースが終わったらさ……旅行とか行こうよ!」
ミュートがフロントガラスに結構難しいコーナーワークを描きながら、レースクイーンのミニスカートをフワリとひるがえして僕に向き直った。
その背中の向こうの適正なルートを読もうとする僕の視線の端には、人形大の小ささになっても真っ赤に頬を染めているミュートのはにかんだ顔がシッカリと見えた。
僕はサイドブレーキを使いレッドブルをドリフトさせ、大きなクレーンと鉄骨剥き出しのプレハブの間に作られたコースに車体を勢いよく滑る込ませた。
コースは港湾コースの終盤に差し掛かったようだ。右手には桟橋や漁船が、左手にまばらに並んだプレハブの隙間から陽光を反射してキラキラ光る水面が見て取れた。正面に伸びるストレートを越えれば港湾コースも終わり、危険なバトルゾーンも終わりとなる。
海水で濡れたコーナーを抜け、緊張感を抜いた僕はやっと彼女の質問に答えようとした。
「じゃぁ海だな!こんなトコじゃなくて、白い砂浜のビーチに行こう!どう?」
レッドブルは快調にストレートを抜け、無事にバトルゾーンを走り抜けた。さぁいよいよ後半戦が始まる!
もうここからはレッドブルのトップスピードに物を言わせ、上位勢との距離をガンガン縮めて追いつかないと!
……でも、さっきの質問の返答もこの意気込みへの反応も全く無かった……
僕はさっきまでミュートのいた場所に視線を戻した。確かに彼女の姿はそこにある。けど様子がおかしいのが一瞬でわかった。
あの赤みかかった頬も、振り向いた時にひるがえったスカートも、天使の羽根のように広がった綺麗な金髪も、全部砂をまぶしたように灰色のノイズに侵蝕され、徐々に全身の輪郭がぼやけていった。
「え……?」
僕は彼女の名を叫ぶことが出来ないほどの突然の事に、只々呆けた一言を言うことしか出来なかった。
ここまでお読み頂きましてありがとうございます。
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