第17章 ジョニービーグッド
こんにちは、こんばんは!
週末いかがお過ごしですか?
今週も2章分を投稿しております。
第17章 ジョニービーグッド
「シルバーナイトが参加するって⁉︎」
レース情報サイトを見ていたダグが突然素っ頓狂な声を上げて、応接室のパーテーションを震わせた。
「おいロム、ちょっと見てみろ!」
「なになに……シルバーナイトは次のレースに1ランク下のレースに参戦表明。レッドブルを指名し、対決!」
僕はダグの画面を覗き込み、その記事を読み上げた。
レース3日後に控えた僕たちは、まさかの表明に全員が血の気が引いた。
「してやられたな。確かにシルバーナイトを目標にしてはいたけど、正直準備不足だ……」
ダグがパイプ椅子にドカリと座り込み、大きなため息をついた。
シミュレーションから上がってきたミュートはオンボロソファーの僕の隣の席に座り、僕と同じように画面に見入っている。ミカはミカでダグの方に画面を横から覗き込みながらダグに水を差し出した。
「確かに準備不足ね。同化システムも今日やっと上手く行ったばかりだもの……」
隣のミュートがさっきのシミュレーション結果を別に画面に映し出した。ユニゾン率57%……。少しづつ練習していたのが今日やっと「実働レベル」まで持って来れた評価値だ。ただコレが「実戦レベル」には程遠いのはここにいるみんなが実感している事だ。
「単純な周回タイムではシルバーナイトに何とか着いて行けるレベルにはなっています」とミカが慰めてくれるとはいえ、素直にそれを喜ぶ気にはなれなかった。
「ドラゴンだけだったらかなりの確率で勝てたかもしれないが、シルバーナイトも相手にするとなるとな。奴ら二人と同時にやり合うとなるとかなり分が悪いぞ」
「どうする、ダグ……」
「どうするも無いな。エントリー済ませちまった」
「それに、今回のレースで2着以上ならレースレベルを一つ上げる程のポイントが貰えます。今回を逃すと地方レースをあと5戦戦わなくてはなりませんが、今年はもう後4戦しかありません。来年までランクアップをお預けしますか?」
「……父さん達との約束も果たしたいんだ……」
「そうだな……。オヤジさんのお陰でここまで来れたんだ……。俺だってオヤジさんの喜ぶ顔が見たい!」
「無茶は承知だよダグ!やろう!何か手があるはずだよ!」
「そうだな!どうせ俺達はどこまで行ってもチャレンジャーなんだ!失うものなんてないさ!」
「でも戦うには戦力と言うか、力が足りないわ」
「ソレなんですけどねミュート、ダグも聞いて。この手を使う時なのかもしれないわ……」
ミカがみんなの前に大きく映し出したのは、今や懐かしいフェアレディのシルエットだった。
ミカの説明を聞き、僕とミュートが慌ただしくインデックスを開き、データを呼び出す。
ダグは整備場に置いてあったフェアレディをシミュレータに急いでつなぎ始めた。
ミカはレースの主催本部に電話を繋ぎ、必要な書類とポイントの支払い手続きを矢継ぎ早に申請していた。
そう、何としてもこのレースでシルバーナイトに勝つために文字通り全財産と全労力を一瞬で使おうと全員が動き始めたんだ。
レース当日はあっという間に訪れた。
文字通り4人が全力でやるべき事をやれるだけやってこのレースに臨むことが出来た。
僕もレースシミュレーションを今まで以上に熱中して行うことができた。ミュートもナビとして、インデックスの管理者としてその頭脳を限界まで酷使したんだと思う。よっぽど不安だったんだろう、昨夜はずっと僕のベッドに一緒に入って、僕に抱き着いたまま一夜を共にした。あ、断っておくけど僕はまだ童貞のままだからね。一緒に睡眠をとったって事だからね!……残念無念……。
そんな僕たちの疲労を吹き飛ばすように空は晴れ渡り、レース会場は超満員となっていた。
そもそも今回のレースは沢山のスポンサーが付き、賞金、ポイントともに高額で有名な大レース「レジェンダリーレース」なんだ。
全長250キロを30台以上のマシーンが爆走する、見るだけでも圧巻の大レースだ。
古いアメリカの市街地(といっても見た事が無いので、レースパンフレットの受け売りだけど)を仮想的に再現したレースレイアウトには、ジャンプ台あり、脇道あり、立体交差有りとギミックも盛り沢山で、もちろん派手なクラッシュが頻発する。
しかもバトルゾーンが100キロ地点と230キロ地点の2箇所に20キロずつ設けられており、ここでの搭載火器での応酬が大きな見所となっている。
そんなレースなので当然参加レーサーも一旗あげたい奴らがこぞって参加をしている。
僕が戦ったことのあるエンジェル兄弟や雑誌に取り上げられた事のあるレーサー、そして……
「もう、来るのが遅いんじゃない?」
ブラックメタルカラーのスーツに身を包んで、メットをもう被っているドラゴンライダー、ウミ-アズマもその一人だ。
「ウミさん!お久しぶりです!」
「ホントだよもう!あれからメールしかくれないんだもん。デートの一回ぐらいしてくれたって……」
「いやぁー、めちゃくちゃ忙しくって……てててて!痛い痛い!」
いつの間にか僕の隣に並んだミュートが顔を風船のように膨らませて、ウミさんに鋭い視線を送っていた。
「ふぅーん、メールとか連絡とっていたんだ……」
「ウミさんのメールに返信してただけだよ。だからミュート、お尻つねらないで!」
「相変わらずだねぇキミ達は。今日こそボクが勝つからね!そうだ!キミたちに勝ったらロムくんと一回デートさせてくれないかな!」
「ダメです!それにロムと私は負けませんから!」
「チェ!駄目かぁ。さーてとボクもピットに戻るとするよ。そこの彼女に何されるかわかんないし!」
「な!何ですって!」
……相変わらず犬猿の仲の二人のやり取りを見て、レース前だというのに僕は疲労感を感じた。
パラソルを振り回すミュートから逃げ出すウミさんとすれ違うようにして、白いレーススーツの人物がミュートの前に立ち塞がった。
「おっと……」
勢い余って振り下ろされたパラソルを片手で受け止めて、そのままミュートを抱きとめたその人物は、決して身長は低くないミュートが真上を見るほどの高身長の男性だった。
美男子……それ以外に彼を形容する言葉がないほどの顔立ち。明るめの栗色の髪の毛は綺麗に切り揃えられていて、その下の瞳は同じく明るめのブラウンだが、光の加減なのかルビーの様な赤い光を宿している。
すらりとした長身はレーサー独特の細く絞られていても躍動した筋肉を内蔵しているのがよく分かるし、ミュートの腰に当てた左手はがっしりとし力強さを隠そうとはしていない。
「元気なお嬢さんだな」
「ご、ごめんなさい……」
ミュートが無礼を謝罪して離れようとしたんだろうけど、彼はミュートの腰を離そうとはしなかった。むしろミュートを引き寄せながら僕たちを一瞥する。
「君がレッドブルの……」
「そうです。僕がレッドブルのドライバーです。あなたは確か……」
「俺はワット-ジグソー。シルバーナイトと言えば分かるかな?」
もちろん知っている。この街でレーサーをしている者だったら知らないはずがない。
この街のレーサーの中では現役中トップレーサーにして、伝説級のマシーンを操る男。そして何より僕を指名して勝負を仕掛けていた相手だ。
「アンタがシルバーナイトか。そっちから挨拶に来てくれるだなんて光栄だねぇ」
ダグが僕の前に立って答えてくれたんだが、着替えの途中だったのでTシャツにレギンスの出立ちだったので余り様になっていない。
「挨拶だって?冗談じゃないさ。そうだなぁ敵情視察ってやつかな」
相変わらずミュートを離さないワットは、その外見からは不似合いな剣呑とした雰囲気を全身から湧き上がらせていた。
「なんだか最近調子のいいレーサーが出てきたって言うんで見に来たんだよ。うちのスポンサーが言ってこなければ別に放っておいたんだけどね」
「ソイツは光栄だな。ウチみたいなルーキーを怖がってくれるだなんてね」
「はははっ!金無しチームなんて怖くはないさ。どいつが参加したってかまやしない。でもさ、そのマシーンと……そうそうこのお嬢さんには興味があるね!どうだいキミ、僕のチームに来ないか?気持ちいい事を教えてあげるよ?」
そう言ってワットはレースクイーン姿のミュートの腰を抱えていた手をミニスカートの中にずるりと潜り込ませて!
「ヒィ!」
ミュートが聞いたことがない切ない悲鳴を上げるがお構いなしだ。ミニスカートの中で何をしているのか、手の膨らみがモゾモゾと醜悪に蠢く。
「おい、やめろよ!」
とっさに僕はそのデカい手を掴みひねり上げようとした。でもヤツはミュートを僕に突き飛ばし、その隙に一歩後ろに下がった。僕の手は後一歩のところで空を切った。
「おいおい、ちょっとしたスキンシップじゃないか。レース前に暴力沙汰はご法度だよ、ルーキーくん」
「ロム……私……」
抱きとめた僕の中で明らかにミュートが小さく震えていた。それを感じて僕の頭のどこかで「プチッ」と確かに何かが切れる音がした。
「オイ、彼女に謝れよ……!」
「はははっ!だから喧嘩なんてしないって!そうだ!レースで僕に勝ったら謝罪でも土下座でもしてやろう」
「……本当だろうな……」
「銀の騎士に二言は無いさ。でもさ、キミも何かベットして貰わないと……」
「何だよ!僕を殴らせてやろうか?」
「いいや、彼女を丸一日頂きたいな!それぐらいはイイだろう?」
「な!それは……」
「イイわ!私をあげるわ!」
言い淀む僕の隙をついて、ミュートが声をあげる。僕が抱き止めているからいいものを、彼女は噛み付かんとばかりの勢いだ!
「いい返事だ!気の強い女は嫌いじゃない。コレで商談成立だな!」
「忘れないでね!私とロムがアンタに勝ったら裸で土下座して貰うからね!」
「うーん、まぁイイだろう。僕が負けることなんて万が一にも無いからね」
たった数分の出来事だった。余りの事に正確に思い出すのも怪しい様な、突然の事だった。
口笛を吹きながら去るシルバーナイト、ワット-ジグソーが見えなくなると、僕ら4人は頭を抱えて静かにパイプ椅子に座り込んでしまった。
全員がワットのことに触れようとはせずに、粛々とレースの準備を再開したけど、多分こう思っているんだと思う。
「やっちまった!」と。
この数日で今まで以上に手を尽くしたのは違いなかった。
まず第一にダグとミカのレーサーとしての参戦だ。
うちにチームからは僕のレッドブル、ダグのフェアレディ……もといインデックスのデータを全財産をかけてインポートしたので実質的なニューマシーン「ゼータ」をエントリーさせた。どちらにもそれぞれミュートとミカがナビとして同乗する。
第二に2台とも同調システムを搭載し、4人とも必死にソレの練習をした。これに関しては完全に練習不足なんだけど、なんとか一回だけ、3分ぐらいは実戦で使える奥の手中の奥の手として用意できた。
当然シミュレーションでの練習も時間一杯までやって、僕もダグもレーサーとしてチョットは技量を上げられたと信じたい。
ただそれでも全員が不安を抱えていたところにさっきの出来事だ。
大風呂敷を広げ、威勢の良い啖呵を切った事は後悔してないけど、負けた時のリスクが高くなってしまった。
だけど、あのイケスカない男にミュートを渡すなんて死んでもしたくない!
それにあんなに気弱に震えているミュートは初めて見た。いつも勝ち気で姉御肌の彼女が、まるで小さい女の子のようにだ!彼女の泣きそうな顔はもう2度と見たくない!
勝てるのかなんて迷っている暇はない。もう彼女を守るには勝つしかないんだ。そう言い聞かせて自分を鼓舞する事しか今の僕には出来なかった。
レース直前だというのに僕らのピット内は想像していたよりも静かだった。シルバーナイトとのイザコザの後ウミさんからメールが来た。それはシルバーナイトのピットにマスコミが押し寄せていて、レッドブルとの対決について取材していたと言うものだった。彼女はそのマスコミが僕たちのピットにも押し寄せるかもしれないから注意したほうがいいと教えてくれたのだった。
一応ダグが真新しいレーサースーツに身を包んで身なりを整えていたんだけど、どうやら杞憂に過ぎなかったみたいだ。まぁこんなぽっと出のチームを取材するよりもシルバーナイトの方に時間も紙面も費やした方が売れるとでも思ったんじゃないかな。
会場内アナウンスでいよいよレーススタート前のファンサービスが始まるのを、トイレから丁度出たところで聞いた。早足でピットに向かうとシャッターの真下でミュートがパラソルを差しながら外を向いて立っていた。
「お待たせ」
「ううん、大丈夫」
いつもなら皮肉の一つでも飛んでくるのに、やっぱりミュートの表情は少し暗く見える。決してパラソルの作った日陰の所為だけには思えない。
僕は普段は絶対しないけど、今日だけはわざとミュートの手を取り、彼女をレッドブルまでエスコートした。
ミュートはちょっとビックリした様だったけど、直ぐにいつもの様に満面の笑顔を浮かべ、僕に日が当たらないようにパラソルの影で覆ってくれた。
レッドブルの脇には真っ赤なレーススーツ身を包んだダグと、同じく赤いレースクイーンのコスチュームのミカが立って僕たちを出迎えてくれた。
ダグの申請したタイムは僕のそれよりも5秒以上遅かったので、順位としては20位のグリッドに位置していた。レッドブルはそのたった5秒の差で7位からのスタートだ。
「ロム、分かっていると思うけどお前が優勝するのが最優先事項だ。俺はお前のサポートだからこっちの事は気にするなよ!」
「悪いなダグ……」
「あのなぁ。2台走るんだから速い方が優先されるのは当然だろ?ま!その内お前がサポートに回る事もあるだろうしな!」
「そいつは楽しみだな!そのうち二人でワンツーフィニッシュってのは最高じゃないか」
「そうだ!その為にも……」
「絶対に勝とう!何がなんでも!」
それでも僕たちの闘志と決意を嘲笑うかの様に、観客席から見える巨大スクリーンにはシルバーナイトの派手なレースシーンが繰り返し映されていた。
倒すべき敵は数十メートル先で僕たちを振り返る事すらなかったけど、確かに僕たちはヤツしか見えていなかった。
ここまでお読み頂きましてありがとうございます。
ライバルキャラクターのシルバーナイトは
とにかく僕の『気に食わない』をまとめて煮詰めた
ようなキャラクターです。
もし彼が気に入らない!と思ってくれたら嬉しいです。
今回も面白いと思ってくれたら幸いです。
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