第15章 say yes
おはようございます こんにちは こんばんは
週末いかがお過ごしですか?
前回は試しに日にちをずらして投稿致しましたが、
今回から元に戻して二話分一度に投稿いたします。
それではまずは第15章をどうぞ
第15章 say yes
その後のシミュレーションでの走行は、前日のものに比べては比較的好成績なタイムを出す事が出来た。
ベストタイムとは言わないが、前回のレース内タイムと同等のレベルまで戻す事ができた。
理由は簡単だ。ミュートとの意思疎通が目に見えて順調だったからだ。
僕がコーナーやジャンプなどの局面に対した時にミュートが対処法を提示する。その対処法を選択し実行をする。この一連のプロセスでの時間が明らかに少なくなったのだ。
単純に考えている時間が少なくなったと言う事ではない。僕もミュートも「相手に考える時間」を少なくしようとする努力というか気遣いができるようになった。
僕個人の話をするのなら、ミュートが提示する選択肢をなるべく少なくなるよう、その前の段階……例えばコーナーに入る前の姿勢制御やスピードコントロールの時点で、出来る限りの最適解を出すよう努力するようになったし、恐らくミュートは「なるべくより良い結果になる」答えしか提示しなくなっていた。
しかも、僕もミュートの提示する選択肢の内容が、提示する前になんとなく予想が付けられるようになってきていた。
ダグにこの事を話すと、
「それはきっとお前さんたちがパートナーらしくなってきたからだな」という事らしい。
ダグはそう言うとミカと顔を見合わせてニヤニヤしながら僕とミュートを指さすのだった。何だよ気持ちが悪いなぁ……。
一通りシミュレーションが終わったところで今日はお開きとなった。出だしが悪かったので今日は遅くまでかかると思っていたのだけど、ダグの方で一つ大事な用事が出来たらしい。
「次の、そのまた次のレースに何とか間に合いそうだからな。上手くいったらロムにも協力してもらうことになる」
ダグが勿体ぶった言い方をするときは、大概面白い事をする時なので、期待して待っておこう。どうせ今は教えてくれないだろうし。
早めとは言え、アサヒ自動車を出たのが昼の3時を回ってからだった。
シェアカーを近くで拾い、助手席のミュートに夕飯をどうするかを聞くと、冷蔵庫に材料はあるから買い物はしなくてもいいということだった。
……実を言うと、ミュートの顔を見るのがさっきからずーっと出来ていない。
いや、その恥ずかしくてと言うか、照れてしまっているのが我ながら良くわかる。
ダグの余計な盗聴と秘密漏洩によって僕がミュートに好意を寄せている事がモノの見事に彼女にバレてしまった。僕としては折りを見て告白しようとは思っていたよ?でも今回のこれは僕には余りに突然過ぎたわけ。
で、彼女の反応は……そのなんだ、キスだったわけだし……。
順当に考えるのならOKってことで良いんだと思うけど、じゃぁ実際にどうやって確認をすればいいのか……。
そんなこんな考えてるうちに、家の前まで来てしまった。
自動運転機能のついているシェアカーは、僕たちを降ろすと無人のまま最寄りの駐車場に走って行った。ミュートもミュートでさっさと家に入ってしまい、僕だけが少し夕暮れになりかけた路上にポツンと残される形になってしまった。
今朝とは全く真逆の悩みにまたも僕の思考は停止しかけていた。
「ロムは、好きな人とどんな風に毎日を過ごしたいのかな……」
ミュートの突然ながらも確信犯的な質問に、僕はカレーライスを喉に詰まらせてむせ込んでしまった。
「ちょっと!大丈夫?」
慌ててミュートの差し出した水を一気に飲み干した僕は、飲み干す間に恐らくアイズ以上に思考を素早く廻らし、ある答えに行き着いた。もうどうにでもなれ!である。
「そうだね……まずは今みたいに恋人に作ってもらった美味い夕飯を毎日のように食べたいな!」
「……そ、それから?」
もうミュートには、僕がミュートの事が好きだと言うことがバレている。ならここから話す恋人ってのはミュートの事で、彼女を想定して話をする他ないわけだ。もうコレで振られるのならばそもそもこの恋の目がなかったんだ。一世一代の大芝居をするしかない。
「それからテレビを見ながらアレやこれやくだらない話や、お互いの興味のある話題をして風呂の時間まで過ごす訳だよ。で、いざ風呂の時間になると彼女は僕に先に風呂に入るよう勧める訳ですよ」
「そうなんだ……。その間彼女はどうしているのよ?」
「きっと優しい彼女のことだから、風呂上がりに僕が飲む水を冷蔵庫に冷やしておいてくれたりとか、着替えの準備とかしてくれているんだろうね」
「優しい彼女ならそうかもしれないわね」
「いやいや、逆だよ。優しくない彼女ってのはあり得ないよ。彼女は喧嘩をしたとしても優しいことには変わりないんだ」
それを聞いたミュートは目を逸らし、困ったような表情の顔はみるみる真っ赤になっていった。
「しかもだよ、彼女は僕の体や心が調子が悪い時に元気つけるために一緒にお風呂に入ってくれることまであるんだ!」
「そ……それは怪我をした時に……とかには入ってくれるんじゃない?介護っていうのでしょ」
「でも、それは優しいからだよー!恋人だからってそんなに有ることじゃないだろ?」
「そ、そうなのかしら?」
「まぁあくまで僕の妄想の話だからねー」
完全に僕の妄想かつ欲望はアクセルが踏みっぱなしになってしまった。
「そ、それで、お風呂を上がったらどうするのよ」
「そりゃ寝るまでの時間はすっごいイチャイチャする!」
「ぐぬぬ!ど、どんなイチャイチャするのよ……。ま、どうせ膝枕で耳掃除とかでしょ?」
「あ、それいいかも!ナイスな提案!」
「……しまった……」
「あとは、例えばソファーで隣り合って座っている時は彼女は常に僕の腕を抱き締めているとか」
「普通じゃない。別にイチャイチャしてるとは言わないわ」
「えぇー。じゃぁ彼女はずーっと僕の膝の上に座っていて、僕にずっと抱き抱えられているってのはどうかな?」
「それは……良いんじゃないかしら」
「で、よし寝ようってなった時に、僕がそのままお姫様抱っこでベッドルームまで運ぶんだよ」
「ちょっと待って!それって一緒のベッドで寝るの?」
「そりゃそうでしょ!コレで一緒に寝なかったらおかしいでしょ?それにあくまで僕の理想を話しているだけだし」
「そ、そうだったわね……。で、次は朝起きたらどうするの?」
「ベッドでの話は飛ばすの?」
「今度聞きます!今はちょっと聞けない。恥ずかしくて……」
どんどんミュートの顔が真っ赤になり、今にも頭のテッペンから湯気が上がりそうだ。かくいう僕もカレーの辛さと相待って、体中が熱を帯び、汗が後からどんどん噴き出してきた。
いつからこうなったのか、ミュートと僕は照れたら負けという我慢比べをし始めていた。どっちかが根を上げて話を打ち切ったら負けになると言う、何とも不毛な勝負が始まってしまった。
「朝は目覚ましのアラームはきっと要らないんだろうな」
「どういう事よ?」
「簡単な話だよ。彼女が朝に弱い僕を起しに来るからさ」
「なるほどね。ロムが朝に弱いってのは納得しているわ」
「でも、ただ起こしに来るんじゃないのさ。彼女は僕が絶対に目覚める方法を知っている!」
「あらそう。どんな方法かしら?」
「僕の布団に一緒に潜り込み、僕に馬乗りになって朝から熱っーい口付けて目覚めさせてくれるのさ」
「ば……バカじゃないの⁉︎朝からその妄想上の彼女ってのは頭のネジが緩んでるんじゃない⁉︎」
「だーかーら、あくまで僕の都合の良い妄想だって言ってるじゃない。でもさ、その彼女ってのはバカみたいと思いながらも時々はその僕の妄想に付き合ってくれる時もあるノリの良さも兼ね備えているんだよ。バカップルみたいで恥ずかしいと思いながらもさ」
「そ、そうね。あくまでロムの溜まり溜まった青少年のいやらしい妄想上の彼女って事ですもんね」
カレーを平らげて、席を食卓からソファーに移しても僕とミュートの舌戦は終わりを見えていなかった。
「じゃあ、夏休みには彼女とどこかに出かけるのよね?」
「当然だね。まぁレースシーズン真っ盛りだから殆どがレース会場の近くってことになると思うけど。去年のシーズンだと海の近くのコースがあったから、海に連れて行ってあげたいな!」
「いいわね!夏といえば海よね!」
「でしょ?昼間はみんなでワイワイ浜辺で遊んで、少し日が暮れてきたら今度は二人っきりで散歩をする。夕陽に照らされて赤みを増した彼女の金髪がきっと綺麗だろうなぁ」
「そうね……って、彼女は金髪って想定なのね」
「言わなかったっけ?」
「言ってないし……」
ミュートはまたも目線を逸らせながら肩にかかった自分の綺麗な金髪を、所在なさげに指でクルクルと巻き取って弄っている。
「ほ、他には休日どうやって過ごすつもりよ?」
「さっきも言ったよ。デートもするし、一日中家にいて映画やアニメを二人で寝転がりなが観ていてもいいし。父さんたちがくれたアーカイブの中には映像作品だってたくさん有るんだろ?ミュートと毎日見続けたってそうそう見切れないほど有るんじゃない?」
「そうね……毎日二話ずつ見ても何年もかかるほど有るわね。まぁレースには全く関係ないものが殆どだけど」
「じゃぁ用意してくれるんだ」
「構わないわよ。この前のレースの優勝で手に入れたポイントをダグが使わしてくれるってのが前提だけど」
「へぇー、じゃぁそれを二人で一日中寝転がりながら見てくれるんだ?」
「だってそう言ったじゃない!デートもしてくれるし、海にも連れて行ってくれるんでしょ?」
「じゃぁ……僕の恋人になってくれるんだ?」
「あ……えっと……」
「一応、さっきから言っている恋人ってのはミュート、君のことだったんだけど駄目だったかな」
「そ、そうだとは思っていたし、昼にはあの録音を聞いちゃったわけだし、ロムが私の事が好きって知っちゃったわけだし……」
「改めてちゃんと言わせてほしい」
僕は彼女に向き合い、一つわざとらしい咳払いをすると、彼女はこれまたわざとらしくソファーの上で正座をし、居住まいを正した。
「ミュートさん、僕の恋人になってください」
「よ、喜んで!」
僕とミュートは3回目にして初めての恋人同士のキスをちゃんとする事が出来たのだった。
ここまでお読み頂きまして、ありがとうございます♪
ホントこう言うシーンは書いていて顔から火が出そうです。




