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Fゲーム  作者: 塚波ヒロシ
14/23

第14章 fragile

こんばんは、それともこんにちは?

週末いかがお過ごしですか?


すったもんだあり、第14章を投稿いたします。

雨降りも悪くないですね!

第14章 fragile


 明日の事をどうするかずーっと考えていたら、もう今日の事となっていた。

 あの後ミュートとは会話らしい会話を全くしていない。お風呂が沸いた、入ります、出ました、寝ます……。完全に思い出せる程しか言葉でのやり取りをしていない。

 なのに僕はベットの中で、ああすればよかった、こう話せればどうなったと思うなどと、レースのシミュレーション以上に行動の選択肢と結果のシミュレーションをし、至った最適解は「何事も無かったかのように朝の挨拶をする」だった。

 思考しすぎと徹夜のため、目は冴えているのにアクビが止まらない。視界が少し靄かかっている気がする。

 隣の部屋のミュートが階下に向かう足音がした。いつも通り朝食を作るためだと思う。

 僕はそんなに朝が強い訳じゃないので、いつも一番最後にダイニングに降りる。それはミュートと二人暮らしになったからと言って変わる事なく、僕は調理担当を免除されている事もあり、彼女より早く食卓に着くどころか彼女が何時に起きているかすら知らないままだ。

 我ながら恵まれた生活を送っているもんだと、情けなく思った。

 今日ぐらいはせめて早く起きて、ミュートに一言謝るのも悪くないかもしれない。そう思うと緊張しながらもモチベーションが上がってきた。

 気分を害したことを謝って、この数日間みたいに仲の良い同居人レベルまで関係を修復したい。きっとミュートも分かってくれるさ。そうなれば今後もっと彼女とお近づきになれるかもしれない。

 ……そんな甘い事を思っている時期も有りました。たった5分程度過去のことなんですけどね。

「ミュート、昨日はごめんなさい!」

「……何かあなたが謝る事がありました?」

「え……いや、ミュートに不快な思いをさせてしまったこと……とか?」

「そうかしら?私が勘違いしていただけですよ?」

「でもさ、ウミさんと腕を組んだりしたのは事実な訳だし……」

「それの何が悪い事なんですか?」

「あと……契約書の事とか……」

「アレこそ私が謝らないといけない事です。事前に私も、チーム全体としても話し合っておくべきでした」

「でもホラ、なんか怒ってない?」

「……怒っていませんよ?それよりも顔を洗って来て下さい。目元が腫れてますよ?」

「あ、はい……、そうします……」

 やばいやばいやばい!何が理由かわからないけど、ミュートの機嫌がメチャクチャ悪い!初めて会った時よりも丁寧な言葉使いが逆に怖い!しかも僕の謝罪が完全にいい加減で的外れらしい!

 じっくり洗顔と歯磨きをして、その間鏡に向かってまたシミュレーションをする。

 しかしそれも解決の糸口を見つける前にミュートの呼び声で、未完のまま断念する他なかった。

「どれだけ時間かかっているんですか?冷めちゃいますよ」

「……すいません。頂きます」

「……」

「……」

 こんなに静かな朝食は初めてだ。そもそも何を話せば良いのかが分からない。

 ミュートもいつもの様にアレコレたわいの無い事すら話してくれないので、料理の減る量に反比例して体感時間が長く感じる。

 今日はいよいよレースの調整をしなくちゃならないのに、肉体も精神もこんなコンディションで大丈夫なんだろうか。

 朝食を食べ終わるとお互いに無言のまま皿を洗い、それが終わるとリビングのソファーのいつもの席に腰掛ける。

 テレビに朝のニュース番組を映し出すが、全く内容は入ってこない。寧ろ心の中の声のボリュームが煩く反響している様だ。どうしようどうしよう……!

 知らない間にダグの家に出発する時間となってしまった。全く会話も出来ないし、まともにミュートの顔を見る事すら出来なかった。

 思考の渦から抜け出せないまま、気付いたら僕はミュートと並んでダグの家の前に着いていた。どうやって来たか思い出せないくらいずっと考え込んでいたらしい。

 そして、こんなコンディションをウチのリーダーが見過ごす訳が有るはずが無かった。


「……こりゃダメだ……」

 ダグがガックリと肩を落としているのが小さなワイプ画面でも良く分かった。

 タイムアタックの結果は最悪だった。あのスーパードラゴンとのレースの時よりも、その準備に練習した時よりも悪いタイムを連発したのだから、ダグの反応も当然だった。

「2人とも車から降りろ……。ロム、ちょっと来い」

 僕は更にダグまでも怒らせてしまった様だ。低い口調からもダグの怒りが感じ取れる。

「ミカはミュートを頼む」

 ダグはそうミカに言うと、僕を外に出るよう肩に手を回して、強めに僕を連れ立って歩かせた。

「どうした相棒。なんかあったんだろ?」

 明らかにダグは怒っているんだけど、怒鳴ったりましてや力に訴えて来ないの流石だ。正直ビンタの一つは覚悟していた。

「実はさ……、昨日ミュートの喧嘩をしちゃって……」

 僕は昨夜の事を包み隠さずダグに話した。今までダグと女性への悩み事なんて話したことはなかったし、どっちかと言うと女性の話しは避けて来たんだけど、眠さと思考しすぎの疲れから僕はゆっくりながらも抵抗なしにダグに打ち明ける事ができた。

 ダグはダグで、僕の告白を茶化す事なく最後まで聞き続けてくれた。流石僕の兄貴分だけの事は有る。時々まだ肩に回していた手で子供をあやす様に僕の方を軽く叩くのが妙に心地よく感じた。

「なーるほどなー……まぁお前の気持ちも分かるし、ミュートがよそよそしいのも理解できるかな」

「本当か?じゃぁ僕はどう謝ればいいのさ?」

「うーん……。答え合わせの前にあっちがどうなったか見に行こうか?」

 何も回答を得れなかった僕は、女性2人が僕を睨みつけて居るもんだとおっかなびっくり戻ったんだけど、予想に反してミカはニコニコしてるし、ミュートはソファーの上で体育座りしてユラユラしてる。

 こんな時じゃなければ動画を撮りたい!あ、いかんいかん。不謹慎だった。

「んで、そっちはどうだった?」

 ダグがミカに聞くと、ミカはニコニコしながら、

「きっとそっちと同じですよ」

 とユラユラミュートをチラッと見ながら答えた。

「え?なになに?何が同じなんだい?」

 ダグはそれには答えず、ミカに何やらデータファイルを中空の画面から呼び出して、彼女に転送していた。

「さーてと、ロムくん。もう一回外に出ようか?」

 今度はダグがニコニコ……いやニヤニヤしながら僕の肩に手を回し、さっきと同じように僕を外に連れ出した。なんだ、何をしようって言うんだ?

「いいかロム、もしもミュートがお前に謝って来たら一言だけでいい。コレからも仲良くして下さいって言うんだぞ?」

「……へ?どう言う事だい?」

「いいから。騙されたと思って。で、その後ミュートが近づいて来たり、体に触ってくるのならミュートを抱きしめる権をお前にやろう!」

「な!なんでそんな事になるんだよ!」

「なーに、俺とミカは外に出て行ってやるからさ?出来るならチューしちゃってもイイんだぜ?」

「ちょっ!何があったらそんな事になるんだよ!どう考えてたっておかしいぞ?僕とミュートはケンカしてるんだよ?」

「……あー、まぁケンカっちゃぁケンカだわな。頭の二文字が足りないけど……」

「もうなんだよぉ〜!さっきはかなり真面目に話したんだよ?恥ずかしかったのに!」

「それがイイ結果を生むと予想してるんだよ。ロムが真剣にミュートのことが好きだってのはさっきの話でよーく分かったぞ。男の俺が照れるぐらいだ」

「なんでソレがさっきの話につながるんだよ?」

「まぁ今に分かるって!……そろそろかな?」

 アサヒ自動車とガラス面に直に書かれた入り口のドアを開けてミカが手招きする。相変わらずニコニコして居るのが今日ばかりは僕の不安を掻き立てる。なんか子供の頃に注射を打ちに行った時の看護婦さんを思い出してしまった。

「頑張って来い、相棒!」

「うぅ……、骨は拾ってくれよ、相棒」

 ダグと今生の別れのような挨拶をし、ミカの傍を通って一人で室内に戻った。

 パーテーションの先を恐る恐る覗くと、ミュートがオンボロソファーの奥の席に座って、両手に握りしめたマグカップの中身を見つめていた。

 少し光量が足りないため、ミュートの綺麗な金髪は黒味かかって見えて、その真剣な眼差しと相まってなんだか息を呑む緊張感みたいな物をまとっている。

 僕の足音に気付いたのか、その視線をちょうど僕の顔に向けた所でその緊張感が逆転した。

 今まで物静かだったミュートがアワアワと焦りだし、握っていたマグカップを落としそうになる。

 中身が波立ち少しこぼしつつも、すんでのところでミュートは両手でしっかりホールドする事ができた。

 思わずパーテーションから飛び出し駆け寄った僕にミュートは安堵しながらも少し済まなそうな笑みをかけ、自分の隣の席をポンポンと叩いた。どうやら隣に座ってくれとの事らしい。

 おずおずとミュートの右隣、つまりいつもの僕の席に腰を下ろすがミュートの顔を間近で見る事が出来ずに、正面の壁にかかった何も書かれていないホワイトボードを見つめてしまった。

 何か話さなければいけないんだろうけど、何を話せばいいのか分からなくて、幾らかお互いに無言の時間が流れた。僕はどうしていいのか分からず、込み上げる焦りとは裏腹に、体も思考も完全に固まってしまった。

「……なんか飲むでしょ……?」

 立ち上がったミュートが冷蔵庫に向かいながら僕に問いかけて、やっと静寂が破られた。

「あ……うん。水でもなんでも良いよ。冷たいものなら」

「スポーツドリンクでいいかしら?」

「じゃぁ……それで」

 元の席に戻り、ミュートがペットボトルを渡してくれる時にやっと間近でミュートと視線があった。僕はそこでミュートの顔が真っ赤なのに気付いた。

「顔が真っ赤だけど……大丈夫?体調が良くないとかじゃない?」

「……うん、そう言うのじゃないから……」

 僕はペットボトルの蓋を外し、大して喋っても無いのにカラカラの喉を一気に潤した。あっという間に中身が半分になったペットボトルをそのままテーブルに置いた所で、僕の左腕全体がミュートに拘束されたのがわかった。

「また手相見てるの……?」

 そう言って再びミュートを見ると、ミュートはミュートで僕の顔をじっと見据えていた。

 身長差があるので彼女は見上げる形となって居るが、僕の腕を抱きしめて、真っ赤な顔で僕の顔をほぼ真正面から見つめてきている。

 さっきは気付かなかったけど、その青い宝石の様な両目は少し充血しているし、しかも潤んでいる。

 一瞬でその可愛さと美しさに目を逸らすことが出来なくなり、一気に頭に血が昇ってくる。

「き……昨日はごめんなさい……」

 彼女の薄ピンクに染まった唇から微かな震える声が僕の耳に確かに届いた。

「ロムはウミさんが女性だって気付いていなかった訳だし……私の早とちりだった……」

「えっと……いやそのこちらこそ……」

「そ……それにロムの気持ち、聞かせてもらったし……」

「……え?」

「ちゃんと応えられるかどうかは自身無いけど……その、理解したつもりだし……」

「……僕の気持ちって……?」

「……コレ……」

 そう言うとミュートは中空に画面を出し、そこから音声ファイルらしいものを呼び出した。

『で、お前はミュートちゃんをどうしたいんだよ』

『そりゃカノジョにしたいさ。超美人でスタイル抜群、よく気がつくし料理も上手。しかもチョットお姉さん気質な所もある。正直、僕の好みそのままを現実化したような女性だよ?』

『じゃぁ告白すれば良いじゃん?』

『あのね、幾らウチの父親が僕にサポートに着けてくれた人だからって、そっちのお世話までハイもちろんってワケにはいかないでしょ?そもそもあんなレベルの高い子が僕みたいな平凡男子の告白なんて受け取らないでしょ?』

『わかんないぞ?同居してるんだし……』

『逆にそれがマズいんだ。もし告白が失敗してみろよ?ソレでも毎日朝から晩まで顔を合わさなきゃいけないいだぞ?僕もそうだしミュートだってウチに居づらいに決まってるさ』

『じゃぁこのままオマエは悶々としながらもミュートに告白せずに一生暮らしてゆく訳なんだな』

『ソレはソレでどうすれば良いのか分からない』

『あ、じゃぁさ今ちょっと告白練習したらどうだ?』

『告白の練習をするのか?こんな所でか?』

『誰も聞きやしないって!ホレホレ、先ずは……』

 ……キュルキュルと早送りされ、マーキングされた部分までカーソルが進む。僕の思考は完全停止していた。

 間違いない。この音声ファイルはさっき外でダグと交わした会話そのものだった!

 ダグは知らない間に僕との会話を録音し、まんまと当事者のミュートに何もかも聞かせてしまったのだ!

 この後何を喋ったのか何となく覚えているがミュートの真っ赤な顔を見ていると、もう止める事も言い訳する事も、ましてや冗談だとはぐらかす事も無駄なんだとわかった。既に僕はまな板の上の鯉なんだと悟った。

『よーし、コレで仕上げだな。ラスト一回だ。決めろよ相棒!』

『ミュートさん、いつも僕の生活を支えてくれてありがとう。一目あった時から僕はキミの虜になっています。まだ会って日が浅いですが、キミ以外にキミ以上に好きになる女性は居ないと気付きました』

『今から一生キミと一緒に人生を歩んで行きたいです。どうか僕のお嫁さんになってください!』

『カットー!よくやった相棒。まぁ告白って言うかプロポーズだけどな』

『はぁぁぁー、疲れた……』

 音声ファイルはそこで終わっていた。画面には「もう一度再生しますか?」と出て無言のままだ。

 ソレは僕も同じで思考も行動も停止したまま、ミュートが画面を消すのをただ見ているだけだ。

 もうこれは拷問以外のなんでもない!虐待だ!ダグには肖像権の侵害、プライバシーの侵害、そしてこの後に起こるであろう心身へのダメージへの損害賠償をかけて裁判をし、ダグを殺して僕も死のう!

 ミュートは僕を見つめ直すと掴んだ腕に更に力を入れる。僕を見たままのその顔は更に赤みが増し、下唇が口内に隠れる程噛み締め、目からは今にも涙が溢れそうなほど潤んでいる。

 大きな吐息を一つ漏らすと、彼女は体を伸ばしてその身長差を縮める。彼女の真っ赤な顔が僕の左肩の上に乗り、どんどんと近づいて来る。

「そんなに私のこと、好きだったんだ……」

 彼女の囁きで発する吐息ですら僕の唇を揺らす事が出来る距離にまで、彼女の熱を帯びたような顔が近づいている。

 ガチャリ!

「おう、終わったかな!ロムくん!」

 ミュートの目が閉じ始め、僕は逆に目を見開くその瞬間、戸が開く音とダグの楽しそうな声が聞こえた!

 思わずミュートの顔とは反対の、右のパーテーションに首ごと視線を走らせる。

「ま、待って……!」

 思わず発した静止の声も聞こえなかったのか、パーテーションの向こうからダグとミカがひょっこりと顔を出す。

「ちゃんと仲直りしたのか、相棒よ?」

「し、したよ!ね、ミュート?」

 ミュートを見やると無言で俯きながら何回も激しく首肯する。

「全くー、世話が焼けるよな!」

「ミーティング始めますよ。なんか飲みますか?」

 いつもの調子のダグとミカに、僕とミュートは揃って

「「水をちょうだい!」」

 と声をかけた。

 そんな二人には恐らくバレてないんだと思う。二人が顔を出すその直前に、顔を逸らした僕の首を無理やり戻し、ミュートが2度目の口付けをしてくれた事に。

ここまでお読み頂きましてありがとうございます。

ツンデレって世界平和に効くと思うんですよね。

世界がいち早く平和になりますように!


今回は如何でしたか?

面白いと思っていただけたら嬉しいです。

宜しければ高評価ブックマークよろしくい願いします。

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