第13章 メモラブル
こんにちは、もしかするとこんばんは!
週末、いかがお過ごしですか?
春休みって方も居られるんじゃないでしょうか。
いいなぁー、春休み…。とおい昔には取った事が
ありますね。
さて、まずは第13章をお届けします。
ツンデレって正義ですよね!
第13章 メモラブル
睨むような眼差しで、ダグはアズマさんを見たんだけど、当のアズマさんは対抗する様子はなく、意外にもニコニコしてその視線を受け止めていた。
「何処が気に入らないってのは詳しくは言えないが、この契約はノーだな」
「……だよねー。そう言うと思ったよ」
「……あれ?アズマさんはこの契約に前向きじゃなかったの?」
意外な返答のアズマさんに僕が尋ねた。むしろ今からアズマさんの説得が始まる物だと思っていたからだ。
「うん、個人的にはこの契約を断って欲しかったからねー」
「そうなの⁉︎じゃあなんで……」
「しょうがないでしょ?ギルドの仕事なんだもん。あぁ、でも良かったー!断ってくれて!」
「そんなに……。アズマさん的には何がダメなんですか?」
「ここだよ、ココ!キミたちが同じギルドになると……」
と、彼が指差すところには「ギルド内での対戦は禁止」と書かれていた。
「キミに再戦を申し込めないじゃなか!そんなのヤダよ!あんな負け方しておいてリベンジ出来ないなんて」
「……ぷ……ぷふふふふ!」
握り拳を震わせ、リベンジに燃えるアズマさんを見てミュートが吹き出し始めた。
「そ、そりゃそうですよね。万年ルーキだった私たちに吹っ飛ばされて負けちゃったわけですし!」
ミュートの挑発的な言葉にアズマさんの握り拳はさらに震度を増した。
「言ったなー!まぁボクは今度はキミたちよりもっとスマートに勝利するもんね!僕はレース中にパンツを脱いで、人を惑わすような手段は取らないもんね!」
「な……!何ですって!そもそもアレは本物のパンツじゃなくって、それらしく見せた清掃用のウエスなの!偽物なの!」
「でもさ、エロかったなぁー!もしかしてキミって露出狂とかナンじゃない?」
「こ、このー!」
「キャー、ロムくん助けてよー」
ミュートが拳を振り上げると、アズマくんはミュートがいる方とは向かい合う側からテーブルを回り込み、僕の掛けているオンボロソファーに伸び込んできた。
彼は態とらしく悲鳴を上げ、僕の体に身を隠した。
「キミのナビだろ?ホラホラ落ち着かせてよ」
「えぇー?まったくもう。ほらミュートも落ち着けよ」
意外だったのは初対面の人に対し、ミュートが挑発的な態度を取った事だった。何が気に食わなかったのか全く分からないけど、この2人は犬猿の仲だと言うのはわかった。
「ロム!こんな子供の言う事を聞くの?」
「子供じゃないやい!今年でハタチだぞ!歳上は敬うもんなんだぞ!」
「「「「うそー⁉︎」」」」
「……全員で言わなくったっていいじゃないか!」
アズマくんの突然の年齢発表に全員が驚愕し、怒る気が削がれたミュートは逆に興味津々とアズマくんの全身を舐めるように視線を動かした。そして一言「ロリババァって居るのね……」と呟くのだった。
契約はダグの判断通り、結ばなかった。
アズマさんはそれをギルド本部にテレビ電話で、僕たちの目の前でしっかり伝えてくれた。
電話の向こうは恐らくアイズなんだろう、大きなバイザー型のゴーグルを着けた女性がその返事を受領してくれた。アズマさんとのやり取りから判断するに、契約書を書いた本人じゃ無く、その秘書なんだと思う。
アズマさんはよっぽどミュートが怖いのか、僕の左腕を終始抱き抱えていた。はぁ、僕はアズマさんの保護者じゃないんだけど。あとミュートの視線が痛すぎてとても首を右に回す事ができない。
通話が終わると、そのままの体勢でアズマさんをオフィスから送り出した。今から次のレースの準備に向かうから、ゆっくりして居られないんだそうだ。決してミュートが怖いからじゃ無いんだそうだ。
「ランチ、ご馳走様でした。また遊びに来ても良いかな?」
アズマさんは今度は僕の両手を握りながら弾むような口調で別れの挨拶を切り出した。
「モチロンです、アズマさん!レースでもランチでも!」
「ありがと、ロムくん!あと、僕の事はウミって呼んでよ。キミとはレース以外でも仲良くしたいんだ」
「えーっと、じゃぁウミさん!また今度!」
「……ちぇっ、さん付けか。あ、そうそう、対戦も良いけど良かったら他のゲームでの協力もお願いするかも。僕らのチームってカーレース以外にも宇宙戦争ステージとかにも参加してるんだ!マシーンは貸し出せないけど……」
「面白そうですね!考えておきますよ」
「キミと一緒にゲーム出来たら凄く楽しそう!マシーンが手に入ったら電話頂戴ね!」
「了解です!じゃぁお疲れ様です!」
最後にアズマさん……ウミさんが僕の手を取ったままハグをして来た。なんか年上なのに仲の良い後輩か弟が出来たような感じだった。一人っ子の僕には新鮮で、ちょっと奇妙な感覚だったけど。
やっと僕を離し、手を振ってシェアカーで走り去るウミさんを見届けるとボク達4人はゾロゾロと元いた席に座り直した。
良い人だったなぁと言う僕の心の内を読み取ったのか、ダグが先程みたく低い声で話し始めた。
「アイツらの狙いはレッドブルなのかも知れないな」
「……え?そうなの?」
「契約に内容からの推測だけどね。まぁ、当のアズマさんは気付いて無かったみたいだけどね」
ミュートもそう思って居るらしい。さっきウミさんと喧嘩したのはそう言う事に気づいたからなのかも知れない。
「レッドブル以外にも機体を持ってないかも興味ありそうでしたからね……」
「……え?そうなの?」
ミカも同意するって事は、気付いてなかったには僕だけって事になる。
「もう!契約書にあったでしょ?全部の機体って事はちゅんちゅん丸以外も含まれるって事よ?もしかしたら今はインデックスの存在に気づいてないかもしれないけど、あの大企業が私達を引き入れたら直ぐにでも勘付くわよ?」
ミュートが強めの口調で僕をたしなめる。
「まぁロムはアズマにデレデレだったからなぁ」
「いやデレデレって。可愛いらしいだったけど、流石に……」あ、ミュートさんなぜ睨むのよ……。
「何にしてもあの会社には注意しようぜ。ロムも変な誘いが来たら皆んなに相談しろよ」
「う、うん。分かったよ」
そっか、案外皆んな注意深いし、僕はと言えば僕たちでやり始めたチームを他人の意見でどうこうされたく無いなぁ程度の事しか考えてなかった訳で。
ちょっとションボリしながらも、次のレースへの準備とマシーンセッティングはきっちりこなして、その日は夕食前には御開きとなった。
ミュートの作った夕飯を平げ、リビングのソファーでスポーツニュースを見て居ると、ミュートが冷えた麦茶を持ってきた。
グラスは汗ばんでいて、中の麦茶はしっかり冷えているのが想像できた。コースターを一緒に持ってくるあたり、ミュートは母さん並みに気が利くのがよく分かる。僕ならコースターが何処にしまってあるか自体が分からないもんなぁ。
そのミュートはいつも通り僕の左隣に腰を下ろした。
最近ミュートの指定席となったそこには彼女のお気に入りのクッションがあり、いつもそのクッションを抱えてテレビを見たりしている。
正直、メチャクチャ可愛い仕種なのだ!家の外のシッカリさん的な雰囲気と違い、ちょっと幼く見えるのが堪らなく可愛い。しかもクッションを抱きながら器用にソファーの座席の上で体育座りをし、左右にユラユラ揺れる事がある。大概、テレビに飽き始めた時に見られる行動で、僕は勝手にユラユラミュートと呼んでいる。
今日のニュースの流れからして、ユラユラミュートが見られる可能性はかなり高い。出来る事なら動画の撮影をしたいのだが、きっとミュートは嫌がるだろうから、僕の心に焼き付けるしかないかとそんな事を思案中の時だった。
突然左腕に違和感を感じた。まず左の二の腕が何か柔らかいモノに挟み込まれた。続いて左の掌を優しく摘まれる感覚があって、そこで初めて左に居るミュートに振り向いた僕は、その瞬間顔が真っ赤になってしまった。
ミュートが僕の二の腕を抱き抱えて、両手で掴んだ僕の掌を顔に近付けて、何故か凝視していたからだった。その代わりいつものクッションは彼女の背中を支えていた。
二の腕に彼女の胸の柔からかを感じながら、僕は戸惑いつつ何をしているのか尋ねるのがやっとだった。
「……手相、見てるだけ……」
「そんな事分かるんだ」
「……チョットだけね。検索すればちゃんと分かるんだけど、まぁ……見たかっただけだし」
やばい。目の前のグラス以上に僕の方が汗ばんできた。
「そういえば、ウミさん……面白い人だったね」
何か話さないとと思い僕は適当にウミさんのことを話題に振っただけだったんだけど、ミュートとの昼の事を言ってから思い出し、しまった!と心の中で舌打ちをした。
でもミュートは明らかな拒否反応は起こさず、一瞬間を置いて返答した。
「そうね……。ロムはさ、ああいう人って好みなの?」
「……好みって言うか、明るい人って好きだよ」
何に反応したのか、ミュートが少しビクッとする。二の腕が抱き抱えられていなかったら分からないくらい小さな反応だ。
「ウミさんの事、好きなんだ……」
「同じレーサーとしてだよ?凄くFゲームに熱い人みたいだし……」
「でも、好きに変わりはないでしょ?」
二の腕と掌への圧力が高まってきた。ミュートが先程よりも力を入れているんだと思う。僕にライバルとは言えレーサーの仲間が増えるのに抵抗があるのかなぁ。良い事だと思うんだけど。
「あ、なんだヤキモチ焼いてるの?」
ただ、僕が安直に出した回答をそのまま口に出した言葉が完全に彼女の神経を逆撫でしてしまった!
それを言った瞬間、聴こえるはずのない「プッツン」と言う音がし、僕の左腕が勢いよく前に放り投げられた。
「ヤキモチですって⁉︎」
しまった!でももう遅かった。ミュートは僕の腕を投げ捨てて、空いた手で僕の左の太ももを両手で掴み乗り上げる格好で僕の顔に詰め寄ってきた。
完全に眉が吊り上がり、怒りの表情のミュートはマシンガンのように言葉の弾丸を僕に浴びせてきた。
「ウミさん可愛いもんね!あんな子に抱きつかれたらそりゃ上機嫌でしょうね!あんなデレデレしてたら考え無しに契約書にしちゃう所だったんじゃない?私達が冷静だったから良かったものを!」
ミュートは話しながらどんどん顔を僕の顔に近づけてくる。彼女が怒ってないのなら、今からキスをされてしまうのかとドギマギする様な距離になった。でも今の僕は後悔と戸惑いで完全にアワアワと焦って、冗談だと言い訳をする事すら出来ない。
「あのインデックスをどんな思いで私が管理してきたのか、ご両親があなたに受け継がせたのか自覚が足りないんじゃない?」
「す……すいません……」
もう謝る以外の手段がない僕に、ミュートの銃撃はまだ収まらない。
「そもそも何よ!ずーっと左腕にウミさんをぶら下げてるし、簡単に再会の約束しちゃうし!最後ハグまでしてるし!馴れ馴れしいんじゃない?ロムもロムよ?引き剥がせばいい事でしょ?ずーっとそのままにしてるし!」
「すいませ……」
「ロムって幼女趣味なの?おっぱい星人じゃなかったっけ?」
「おっぱい星人です……。巨乳至上主義です……」
「だったら何であのハタチなのにロリっ子なんて特殊な女性にデレデレしちゃうのよ!」
「いや……ん?女性……?」
「返して!私のファーストキス返しなさいよ!」
「ちょっと待って……?ウミさん、男の子でしょ?」
「……アンタ何言ってるのよ!プロフィールに書いてあったじゃない!女性だって!事務所に入ってきた時に見なかったの?」
「いや、それってアイズだけしか見れないヤツでしょ?だってレースの時に男性の格好だったし。昼の格好もスカートじゃなかったし……」
「……胸の辺りで腕掴んでたじゃない……?」
「こういう言い方は良くないんだろうけど、つるペッタンで分からなかった……」
「じゃぁ何?アンタは男の子だと思ってニヤニヤしてた訳?」
「ニヤニヤしてたかどうかは分からないけど、なんか距離感が近いハイテンションな人だなーと。弟か後輩みたいな感じでかわいい奴め、って感じにしか思ってなかった訳でして」
「じゃぁ何よ!私がロムって幼女が好きで、あんな風にスキンシップするとニヤニヤするんだって、キスまでしたのにあっという間に掻っ攫われたって勘違いして、要らないヤキモチ妬きまくっていたって事なの?」
「……そうなるんじゃ無いでしょうか……」
「…………………………良かった…………」
すぅー……っとゆっくり離れて行ったミュートはさっきと同じく僕の手を抱きしめまたも左手の手相を読もうとしたのだけど、彼女に接触している二の腕と掌からは先程とは違い、汗ばむほどの熱量を感じていた。
ただこの熱は僕自体も発しているようで、顔を背けた僕の顔も湯気が出る程熱くなっている。
……えーと、ミュートは僕が他の女子に抱きつかれるとヤキモチをメチャクチャ妬くって事は、ミュートは僕に好意があるって事で良いんだよねぇ。
コレ、いま僕が「僕もミュートの事が気になってます」と好意を伝えるチャンスなんじゃないか!
……いや待て待て、さっきインデックスの事を蔑ろにした事も怒っていた訳だし、そのなんだ、ミュートは姉御肌だから、僕の事を弟みたいに思っている節があるから、そう言う意味でのヤキモチかも知れないし……。
そんな事をグルグル考えて僕が行動停止になると、ミュートが僕の手を離し、リビングを出て行こうとした。
「……お風呂沸かしてくるね」
既に背を向けていたミュートがどんな顔をしているか窺い知ることができなかった僕は、ただ「うん」と一言答える事しか出来なかった……。
しまった……。ミュートと出会ってから一番気まずい夜になりそうな予感がこんな僕にも分かった。
ここまでお読み頂きましてありがとうございます。
ワタクシ、それほど若くないので、こう言うツンデレが堪らなく可愛いと思ってしまうのですが、なかなか文章で表現するのは上手くいかないですね。
今週ももう一章投稿しておりますので、併せてお読みくださいませ♪
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では週末のひと時、暇つぶしのお役に立っている事を願います!




