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秋風  作者: 士祉護福介
6/7

別れ

 里菜は咳が収まらずに小児科でも検査を行ったが、詳しい事は分からずに大きな病院に紹介された。

そして、検査入院する事となった。


「先生。ご迷惑おかけしますが、少しの間お休みを頂くようになりました。他の方が代わりに先生の所へは来られますので」


咲希は拓也の家を訪ねて話した。


「そうですかぁ。里菜ちゃん早く退院できるといいですね。心配でしょうから、仕事は気にせず側にいてあげて下さい。何か僕に出来る事がありましたら、いつでも言って下さい!里菜ちゃんに早く良くなって遊びに行こうねって伝えて下さい」


「ありがとうございます!ご迷惑お掛けしますが、よろしくお願いいたします。里菜もきっと喜ぶと思います」


そう言って咲希は拓也の家を後にした。


それから一週間後


「お疲れ様です!その後、里菜ちゃんはどんな感じですか?末次さんも疲れていませんか?自分の方は代わりの担当者の方と新しい作品を少しずつ考えていますのでご心配なく」


咲希の携帯に拓也からこのようなメールが届いた。

メールを見た咲希は、どう返事をしていいのか悩んだ。

その理由は、昨日里菜の主治医の先生から呼び出されて里菜の病気についての説明があったばかりだった。


「お忙しい所すみません末次さん。里菜ちゃんの身体について現時点で分かっている事をお伝え致します。里菜ちゃんは心臓の血管の一部が血の塊ができ、狭くなっています。今後、身体が成長するに連れて心臓に負荷が加わることにより呼吸困難や心不全等を起こしやすくなる可能性があります」


「えっ?先生・・・。それは治療していけば治るんですか??」


「手術をすれば機能回復する可能性はゼロではありませんが、すごく難しい手術になります。最悪の場合も考えないといけなくなります」


「最悪の場合?それは・・・死ぬかもしれないと言うことですか先生?じゃあ、里菜はどうしたら助かるんですか?ねぇ先生??」


「可能性はあります。手術よりも心臓移植する方が里菜ちゃんにとっていい方法だと私は考えます」


「心臓移植・・・。それは、すぐに出来るんですか?」


「移植に関してはドナーが見つかり、検査して問題がなければすぐにでも出来ます。ただ・・・」


「ただ?ただなんですか先生?言って下さい!」


「うちの病院では移植を行う事が出来ません。移植するとなればアメリカのペンシルベニア州にある大学病院で行う事になります」


「アメリカ?日本では出来ないんですか?アメリカまで行って移植するってお金もすごくかかりますよね?」


「日本で移植が出来る医者がいる病院もありますが、現時点ですぐに移植が出来る見込みがありません。里菜ちゃんの場合、急いで移植した方がよいと考えられますのでアメリカの大学病院をお勧めします。費用に関してはこの場で正確にはお答え出来ませんが、かかります。ただ今の里菜ちゃんの状況では早い方がよいかと思いますのでご家族様とお話をしてみて下さい」


先生からの説明を受けた後、咲希は里菜の病室へ戻り無理やり笑顔を作っていつも通りに接した。

その夜、祖母にだけは打ち明けたがどうしていいのか分からず一睡も出来ずに朝を迎えた。


拓也に伝えるべきか悩んだが先生に余計な心配や迷惑をかけるといけないと考えた咲希は拓也にメールを返信した。


「お疲れ様です。先生、お忙しいのにわざわざありがとうございます。里菜もだいぶ体調も戻ってきて、もう少しで退院できるだろうと言われています。ご迷惑おかけしてすみません。早く復帰して先生のお手伝いをまたさせて頂きますので、それまでよろしくお願いします☆」


少しして、拓也から返信がきた。


「里菜ちゃんもう少しで退院できるならよかったです!安心しました。退院したらまた3人で出かけましょう!退院祝いで。末次さんも無理されないで下さい!戻って来られたらまた一緒にいい作品を作れるのを楽しみにしていますので。それでは」


拓也からのメールを見て、咲希は胸が苦しくなり涙が出てきた。そのまま返信せずに携帯を閉じた。


それから数日後


咲希の家のチャイムが鳴った♪


「は~い」


咲希が玄関を開けると、そこには2人の男女が立っていた。


「おっお父さん!お母さん!どうして??」


咲希の両親だった。

咲希は驚いて2人の顔をまじまじと見たまま固まった。


「咲希・・・。里菜ちゃんが今、大変な病気してるって?心臓移植を海外でしないといけないんでしょ?お母さんから連絡が来たのよ。それで心配でお父さんと来たのよ」


母が祖母から聞いた事を話した。

声が大きかったので、咲希はとりあえず2人を中に入れて先生から受けた説明を話した。


「そう・・・。大変な事になったわね。それでどうするつもりなの?」


「移植しようと思ってる。ただ、お金の工面がまだ出来ていないから金融機関に借りに行く様にしようと思ってる所・・・」


「大丈夫なの?結構、かかるっていうじゃない。難しいんじゃないの?」


「それでも、どうにかするしか里菜が助からないからの!私だって大丈夫かなんてわかんないよ!」


そう言うと、咲希は感極まって泣き出してしまった。

それを見た母は咲希の背中を擦りながら、父に目で合図した。

父は冷静に


「咲希。お前がシングルマザーになると言った時に感情的になってお前を勘当した。でも、今でもお前の事は娘だと思ってる。それに里菜の事も孫だと思っている」


「お父さん・・・」


咲希は涙を拭きながら父の顔を見つめた。


「お父さんね。あなたが出て行ってからもずっと心配していてお母さん。あなたのおばあちゃんの事ね。お母さんから近況を聞いたり、里菜の写真を送ってもらったりしてたのよ。それを見ていつも笑ってるのよ。今でもすごく大切に思ってるのよあなたの事を。今回だって話を聞いてすぐに知り合いの人に電話したり、頭を下げてお金を工面してたのよ。ねっあなた」


「母さん!余計な事は言わなくていい!」


少し恥ずかしそうに父は言った。その後に、


「まぁ、でもなかなかお金の工面が出来なかったんだけど、1人の人がお金を全額出してもいいと言ってくれててな。でも・・・」


「えっ??ほんと??全額出してくれるって言ってる人がいるの?でもって何か都合悪いの?」


「ほんとだ。ただ、条件があって・・・」


そう言うと、父はまた黙り込んだ。


「条件?なに?もしかして・・・結婚すればって事?」


顔が引きつりながら咲希は父を見ると、父は黙ったまま頷いた。


「ちなみに誰なのその人?私が知ってる人?」


父と母は顔を見合わせたが黙ったままなので、


「知ってる人なんでしょ?正直に教えて!!」


と、少し興奮して咲希は聞いた。


「分かった。言おう。お前の知ってる人だ。弘君の弟の強君だ・・・」


「えっ????強君??」


咲希は頭が混乱してしまった。

弘とは、咲希の亡くなった元婚約者であり里菜のお父さんの事だ。

強はその弟であり、里菜からすればおじさんにあたる。

少し、冷静になると改めて咲希は父に聞いた。


「強君が結婚すればお金を出してくれるって言ってるの?」


「そうだ。弘君が亡くなって社長も引退したから今は強君が社長をしていて、会社も以前より大きくなっている。ただ、お父さんは強君や社長にも里菜の話をしていないんだが近所の人から聞いたみたいで昨日うちに来たんだよ強君が。そして、お前の事が好きだったみたいでお前を守りたいと。それと、自分にとって里菜ちゃんは姪だから助けてあげたいと」


咲希は黙って父の話を聞いた。

さらに父は話を続けた。


「弘君との話の時はうちの会社の為に勝手に結婚させようとお前に辛い思いをさせてしまってすまなかった。

そして、今度は子供の為に結婚させられそうになるなんて・・・。咲希!結婚する必要ないぞ!里菜の治療費はお父さんがどうにかしてやるから!」


咲希は考えた。

里菜を助けるためにはお金が必要。そのお金を強君が出してくれると言ってる。

お父さんはどうにかすると言ってるけど、額が額だけに難しいと思う。それに強君だったら、里菜を大事にしてくれると思うし、向こうの両親にとっては本当の孫だもん。里菜にも寂しい思いをさせなくて済むようになる。どう考えても結婚するのが一番いい方法なのかもしれない。

そして、


「お父さん、お母さんありがとう!私、強君と結婚して里菜を助ける!」


「咲希!ほんとにそれでいいのか?」


「うん!私にとっては里菜が一番大切だし、強君は優しい人で向こうの両親も里菜は本当の孫だから可愛がってくれると思うから。今まで里菜には寂しい思いばかりさせてきたと思う。それに私には・・・」


そこまで言って、咲希は話を止めた。


「私には?何かあるのか咲希?」


父がそう尋ねたが、


「ううん。何もない!もう決めたから!ありがとう!話を進めて下さい」


そう言って咲希は2人に笑顔を見せた。

両親は咲希が決めた事ならと納得して家を後にした。

1人になると、咲希は声に出しながら泣いた。

里菜を助けれる事。結婚する事。拓也と会えなくなる事。

様々な事を考えながら思いっきり泣いた。


それから、話はトントン拍子に進み明日からアメリカに行く事が決まった。

結婚は移植が終わって日本に帰ってきてからする事にしたが、強も一緒にアメリカへは行く事になった。

咲希は会社に事情を話し、退職をした。

その後に、拓也にメールを入れた。

本当は会ってきちんと話したかったが、会ったら自分の決意が揺らいでしまい泣いてしまうと思ったのでメールにした。

里菜の本当の病気の事、両親が来た事、アメリカに行く事、結婚する事を全て正直にメールに書き記して最後に


「先生。今までありがとうございました。先生の担当になれて少しでもお役に立ててすごく光栄でした。これからも里菜と私は先生のファンであり続ける事は変わりませんので!これからもいい作品を書いて下さい。楽しみにしておりますので。それでは。 先生の大ファン親子より」


そう送った後に、携帯の電源を落とした。

そして翌日、3人はアメリカに飛び立った・・・。

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