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仰せの通りに

作者: 右啓 遼一

「結局、人間の限界だという結論だね。」

 私は書類から目を離さず、机の前に立ち指示を仰ごうとしている男に言った。

「残念ながら、そういうことになります。」

 うつむき加減に男はそういう。

「なら、何も迷うことなどない。」

「しかし...。」


 私は、ふぅっと一つ嘆息すると読んでいた書類を机に軽く投げ置き男の目を見た。

「もう一度、おさらいしようか。」

 私は続ける。

「この世における人間の信頼関係が論点だったね。力のある者は力の無い者から奪うだろう。これは、搾取だ。単純な上下関係だね。信頼も何もない。一見、力のある者が力の無い者を庇護しているようにみえることもあるが、それは力の無い者が、力のある者に対し従順であることを示している間だけだ。」

「はい...。」

 男は、二、三度軽く頷く。

「力の無い者はそれら同士で結託するかもしれない。でも、信頼があるわけではない。誰かが力をもてばその時点で結託は崩壊し、先の搾取の関係になるだろう。あるいは、誰かが力を持たないように監視するかだ。」

 さらに、私は続ける。

「力のある者同士はどうか?これはもう戦争だね。表立った争いはないかもしれないが、水面下では、だましあい、足の引っ張り合いだ。そして、相手の力が弱まれば一気に奪い、また搾取関係となる。」


 男は、少し考えた後

「それでは真の信頼というものは、やはり無いとおっしゃるわけですね?」

 と、これまでと同じ質問を繰り返した。

「そうだ、人間には際限のない欲がある。人よりも一つでも多く持ちたい、その気持ちがある限りは、利益関係においては真の信頼はない。」

「ただ一つを除いては...、ですね。」

 男は力なくそう言った。


「そう、『共通の敵を持つ』というたった一つの例外を除いてね。人間は、自分で理解できないものを敵とし、同様にそのものを敵とする者と結託する。そして、その結託が人間の関係性の中で一番強い。」

 私は、男をいままでより厳しい目で見据え続ける。

「第二次世界大戦150年たったが、人類は表面上でしか平和になれなかった。ある意味これは、人類に対する最大の罰であると同時に、最大の慈悲であり、チャンスだ。

 準ヒューマノイド型自立思考系アンドロイド投入作戦を人類最高諮問委員会の長として即日実行に移すように指示する。」


 準ヒューマノイド型自立思考系アンドロイド、これは読んで字のごとくある程度人に似せたアンドロイドである。ただし、人間と共存しようとは考えない。彼らは、どのような方法をとってでも地球の支配者としてアンドロイドが適しているとプログラムされている。また、人間との争いがスムーズに起こるように、見た目が人間よりもサルに近くなっている。人類とアンドロイドの戦いを発生させる。その争いは50年、いや100年続くかもしれない。多数の死傷者が出るだろう。しかし、人類同士の争いではない。


 もはや、人類外と争うことでしか人類間の争いを止めることはできないのだ。

 一縷の望みとしては、人間とアンドロイドの戦いが終わったとき、争いの無意味さを人間が理解し、それ以降は人類間での争いがなくなるのではないかということだ。しかし、その可能性はシミュレーション上0.1%に満たない。

 アンドロイドとの戦いの後、また別のものと人類を戦わせる必要があるのだろう。


 そうしないと、残念ながら人類は人種間、国家間、宗教間の争いで確実に滅亡する。


 私は、最終決済の判子を書類に押すと

「迅速に取り掛かるように。」

 と、男に告げた。

「仰せの通りに...。」

 男は軽く敬礼し、決済された書類を大事そうに小脇に抱え回れ右をして、私の部屋から出て行った。


(了)


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