序章〜思う故に〜
ソレが、初めて自分自身を自覚した時、既にソレは多くの時を生き、そして多くの事を経験しており、同時に種としての成長を既に終えていた。
本来ならば、ただ時の流れと共になだらかな曲線を描きながら衰退していく自身の能力感じながら、新たな種を残し、自身は朽ち果てる。
その事に、ソレは何の疑問を持たず、そして自覚すらせず、ただただ本能が赴くままに生きていた。
ソレが、自身を自覚したのは単なる偶然だった。
切っ掛けは数ある捕食対象の一つが見せる行動の数々だった。
その捕食対象は、雄と雌の二種が存在するが性別による役割がハッキリと定められておらず、さらにはその行動に一貫性が感じられず、さらには種は同じだが外見がそれぞれ違っていた。
その種は集団で動く時もあれば、単独で動く時もあり、狩りの方法も多彩だ。それはソレが知るどの捕食対象も行わない行動だった。
加えて彼等の狩りに使われる物も特殊だった。今まで彼が知っている生き物は、全てが己の体に生まれつき備わった能力や、四肢、爪牙を使うのに対して、彼らはソレも知る能力を使いながらも、見たことも無い物を用いるのだ。
始めは好奇心だった。
その捕食対象の動きの一つ一つを観察し、そしてそれは何だと考える。それは、ソレが今まで味わった事が無い高揚感を与え、同時にもっと知りたいと言う探究心を増大させる。
それを繰り返している内にソレは次第に考え始める。
自分にも同じ事はできないか?と。
だが、その捕食対象と自身とでは余りにも存在が違いすぎる。
そこで、ソレは自分以外の餌としてではない一個の存在と言うのを始めて意識する。
なら自身に出きる事とはなんだ?
そこで、ソレは自分について考え始める。
その時点で、ソレは既に自我を形成していたと言えるだろう。
だからソレはそこに行き着いたのかも知れない。
そもそも自身とはなんなのだ?
と、言う問題に。
しかし、どれほど考えても答えは出ない。
考えれば考えるだけ、その問題は難解さを深めて行き、そして何度も何度も同じ所をグルグルと思考は巡る。
それがどれほどの時間続いたのだろうか。
ソレにとって時間とは成長が止まると同時に感覚として弱くなっているので、月日と言うものは上手く感じられないが、ソレの周囲の景色が様変わりするだけの時間は流れていたらしい。
そしてそれだけの時間が流れた末、ソレはある考えに行き着く。
あの捕食対象ならば、この問題の答えを知っているかもしれないと。
だが、それを尋ねようにもソレのテリトリー内には、あの捕食対象の気配は無くなっており、そしてやって来る気配も無かった。
変わりにソレも知らない様な餌が、いつの間にかテリトリー内では生活をしており、既にそこはソレが知る場所では無くなっていた。
ならば。
と、ソレは行動を開始する。
あの捕食対象達を探す為に。
答えを得る為に。
それはゆっくりと――だが見る者には王者の様な尊大さで――当てもなく――しかし他者にとっては空腹だからだろうと解釈されながら――ソレは自身のテリトリーを放棄した。
さぁ、なんか連載中の奴もあったりするけど新作です。なんつうか、息抜きです。息抜き。