94.ころもがえ
その日の営業が終了した頃、イヴとハツユキが戻ってきた。
「おかえり。お疲れ様じゃな」
「うん」
「ただいま戻りまシタ」
二人に疲れた様子はなく、衣服にも特に乱れはない。(ハツユキは自動人形なのでともかくとしても)
一日中運動していたはずなので、帰りにどこかで汚れを落としてきたのだろうか。
「今日はどんな感じじゃったかの」
「活動報告はハツユキからさせて戴きマス。本日は外周区を四時間ランニングしたのち、複数回に分け三時間ほど模擬戦を行いました。その後、外周区を一時間走ってから帰還致しまシタ」
「……いや、運動をする日とは聞いていたがそんなにぶっ続けで……? イヴのほうは大丈夫かや」
「べつに、大丈夫。このくらい動いたほうが、気持ちいいし」
「そういうものかや……さすがじゃな……」
流石に異世界の冒険者というべきか、およそ八時間の運動をちょうどいいと言ってのけるのは肉体性能の賜物である。
生産職とはいえレベル三百のシエラも相応に体力はあるはずなのだが、もともと運動が得意というわけでもないのでなんとも想像のつかない世界である。
「まあ、ひとまずメシにしようではないか、のうリサエラ」
「はい、シエラ様。……あっ、少々その前にお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「わしは全く構わんが、何かあったかの?」
その問いに、リサエラは笑顔で頷いた。
「はい、やっとアレが完成しましたので、お披露目をさせていただければと!」
そう言いながらリサエラがインベントリから取り出したのは、大ぶりなトランクケース。
「――シエラ様の新しい御衣装です!」
そういえば、シエラの衣装について、リサエラに頼んだままハツユキのこともあってすっかり失念していた。
リサエラのセンスは《エレビオニア》時代から非常に信頼がおけるので、まず間違いはないだろうと思いつつ、自室でトランクケースを開く。
その中に丁寧に収められた衣装を身にまとい――リビングに降り立った。
「どうじゃ、よかろう!」
片手を腰に当てて、満面のドヤ顔で立つシエラ。
その衣装は、全体的に白と紅で構成されていた。
ベースは白いミニスカートのワンピースで、胸元の大きな紅のリボンが鮮烈である。
その下半身は濃いめのタイツに包まれており、さらに白いエナメル質のブーツへと続く。
そして、外出用・作業用を兼ねた厚手のジャケットを羽織っている。
このジャケットは足元まで長さがあり、また念入りに対物・耐熱魔法が織り込んであってかなりの強靭性がありそうだ。
ところどころに配置された紅色のラインやリボン、フリルなどのワンポイントがおしゃれである。
豪華な印象であり、かつ鍛治仕事にも堪える機能性の高さが高次元で両立している。
「うん……すごく、きれい。似合ってる」
「イェス。お母様のイメージに良く合っているかト」
「素晴らしいです、シエラ様。私の想像通り、いえ想像以上でございます」
「そうじゃろそうじゃろ、流石はリサエラじゃな! 派手すぎるのではと思ったが、わしがあまり進んでやらないジャンルでわしの好みのラインを突いてきおったわ」
皆に褒められて良い気分で笑うシエラ。
シエラが普段選んで着る服は、わりとシンプルな装飾のものが多い。《エレビオニアオンライン》がVRゲームだった都合上、自身がフリフリの服を着ることになんとなく恥ずかしい気持ちがあったのである。
今回の衣装は、そのシエラの普段の趣向とは裏腹にリボンやフリルなどを多用しつつも、かわいさに寄り切らずにかっこよさも表現されており、シエラの服装の趣味に新しい風を吹かせたのであった。




