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生産職吸血鬼は異世界の夢を見るか  作者: 吸血鬼まつり
93/112

93.イヴとハツユキの場合

 一方そのころ、イヴとハツユキは王都の外周区をランニングしていた。

 イヴは後衛職とはいえ体力はかなりあるほうで、もう既にランニングを始めてから三時間が経過しているが、全く息が上がる様子はない。

 イヴが走りながら並走するハツユキの姿をうかがうと、ハツユキのほうにも全く疲れた表情はない。

 それも当然であり、自動人形たるハツユキの体力とはすなわち保有する魔力量。その保有魔力量がまず膨大な上に、白龍の核は非常に高出力の魔力生成器である。このペースのランニングであれば、事実上彼女は無限に走ることが可能なのだ。


(自動人形……考えれば考えるほど、すごい技術。シエラがこれを作ったなんて……)


 正確にはシエラは古代の遺物を修繕したと言っていたが、これだけの超技術を理解して修理を施せている時点で尋常ではない技術力である。

 ハツユキはこちらから話しかけない限り自分から話す様子はない。それは静かな環境が好みのイヴにとっても都合の良いことであり、彼女は走りつつ思索にふけっていた。

 考えるのはシエラのことだ。

 美しい白銀の髪とクールな雰囲気の端正な容姿を持つ上流貴族のお嬢様のような少女。だがそれは見た目だけで、彼女の人間性は自由奔放で、非常に好奇心旺盛だ。そして並外れた製作能力を持っている不思議な少女である。

 実のところ、イヴは彼女を純粋な人間種だとは思っていない。あの見た目通りの年齢であれだけの技術を身につけることはいかに天才であろうと物理的に不可能である。

 そういうわけで、イヴはシエラについて見た目が加齢しにくい種族なのだろうか、とぼんやり考えている。

 ただ、それが何か問題になるのかといえば、特にそういうわけでもない。この国――及び大陸中央の中小国群――には元から亜人種も多い。

 (加えて言えば、中小国群において、純粋な人間種はそもそも少数派である。濃淡の差はあれど、先祖に亜人種が含まれる者がほとんどなのだ)

 どんな種族であろうと、この国でどう生きるのかは結局それぞれの人間性次第である。

 自分はこれからシエラにどう接していけばいいだろうか……今まで通りでいいだろうか、ととりとめもない思考に入り込んでいると、王城のほうから重々しい鐘の音が聞こえてきた。


「……もう、十二時。気付かなかった」

「休憩しマスか?」

「まだいい、かな。そろそろ、格闘戦、いい?」

「イェス、イヴ」


 場所は外周区から更に外に離れた区画。街道の他には木々が点在するだけの平野である。人の姿といえば、視界の遠くで、初級の冒険者が狼系の魔物と戦っているのが見えるのみである。

 二人は距離をとってから、それぞれの得物を取り出す。ハツユキは模擬戦用の片手剣を一本。イヴは模擬戦用の短刀と拳銃型の魔法銃だ。

 この魔法銃は最低級の《アイシクル》を放つ《白狐》。イヴはシエラに近距離戦用のサブアームとして拳銃型魔法銃を注文しており、その練習用としてもらい受けたものである。


 二人に合図は必要ない。

 イヴが構えを取って様子をうかがう。ハツユキはといえば、構えを取らないのが構え、とでもいうかのように自然体でゆらりと立っている。ただ、不思議と隙が見当たらないため、どう仕掛けようか考えさせられる状態である。


(……迷ってても、だめか)


 そう決心し、イヴが駆け出す。途中、目眩しのためにアイシクルを五発撃ち出し、弾着の直後に低い姿勢から短剣の一撃を放つ!

 五発の氷弾はハツユキの周囲に発生した球状の魔法抵抗場にぶつかって消滅。ハツユキは後ろにふわりと跳び、短剣の攻撃を回避。その最中にもくるりと回って斜めに剣を走らせるが、イヴは難なく防御。

 イヴは瞬発力を活かして立ち回り、ハツユキの背後を取ろうと動く。防御しにくい角度を狙って攻撃するものの、後ろに目がついているかのような動作でハツユキはするりするりと斬撃を避けていく。


(あれを……試そう)


 近接戦の最中、イヴは瞬間的に魔力を練って氷弾を生成。短剣の斬撃に織り交ぜて射撃を放っていく!

 魔法抵抗する時間を与えないほどの至近距離からの銃弾を、ときに人間には難しい姿勢で避け、ときに剣で払っていくハツユキ。明らかに先程までより反撃の手数が減ってきている。イヴの攻勢が効果的な証拠である。


 そのまま両者は攻防を繰り返し、その戦闘はなんと一時間半も続いた――




「はっ……はっ……っ……」

「私の勝ちデスね」


 ハツユキがイヴの上に乗り、組み伏せている。

 最終的に、試合はハツユキの勝利という形で決着した。

 結局、勝敗を分けたのはスタミナの差だ。人間には不可能なほど長く動き続けられるハツユキの駆動機関はやはり反則レベルだったのである。

 それでも、技能的には両者ともに新しいものを得た実感があった。そのための模擬戦なので、目的は十分に達せられていた。


「全然、勝てる気がしなかった……。手加減、してた?」


 差し伸べられたハツユキの手を借りつつ立ち上がって、土埃を払う。

 攻防だけであればイヴのほうが終始優勢だったように見えるのだが、イヴの感触では、ハツユキは戦闘方法を制限されているように感じたのである。


「部分的には、イェス。お母様(マスター)より、『可能な限り、人間的機能だけで戦う術を磨くように』との命令を受諾しておりマス。また、出力にもある程度の制限をかけている状態デス」

「人間的、機能……?」

「ご存知の通り、私の筐体は全体的に魔法金属で構成されており、通常の人体と比べ非常に強靭デス。四肢を駆使し、動作制限を解除することで攻撃回数を先程の三倍から五倍に増加させることが可能デス」

「……なるほど……」


 言うなれば、全身が武器になるということだ。

 その状態であれば自分には全く手に負えなさそうだ、と感じたイヴであった。


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