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生産職吸血鬼は異世界の夢を見るか  作者: 吸血鬼まつり
92/112

92.軟派な男

「いらっしゃいませ、ゲラリオ様、アースリ様」

「ああ、こんにちは、リサエラさん! 今日も見目麗しく」

「……どうも」


 その日の昼前にやってきたのは《白の太刀》のゲラリオとアースリ。

 リサエラとは数日前に出会っており、その際にシエラから紹介してある。


 人嫌いなアースリは美人な女性は輪をかけて苦手らしく、目を逸らしながらの挨拶である。

 それに比べて、ゲラリオの反応は真反対と言ってもいいものだ。

 軟派な雰囲気を隠そうともせず、リサエラに対して熱烈にアピールしつつ、まずは世間話から入ろうとしている様子である。

 しかし、あからさまに軟派な様子ではあるのに爽やかに見えてしまうのはゲラリオの人徳なのだろうか。イケメンはズルいな、と誰目線なのかわからない感想を抱くシエラ。

 とはいえ、ゲラリオは一線級の冒険者である。気持ち悪く迫るようなことはせず、自然にリサエラと談笑しているようだ。リサエラも特に不快に思わず対応しているようなので、ひとまず任せておいてもよさそうだ。


「アースリ、それで今日は何の用かの」

「まったく、ゲラリオ(リーダー)は役に立たんな……。今日は消耗品の補充と、相談だ」


 そう言って、アースリがカウンターにメモを置く。

 相変わらず不健康そうな色の骨張った手だ、と思いながらシエラはメモに目を通す。


「ふむ、各種ポーションとその他の魔導具は在庫から問題なく揃うのう。それで相談というのは?」

 カウンターの下から在庫を必要数引っ張り出しながらシエラが問う。

「俺がリーダーの指示で魔法銃マジックブラスターを持つことになってな。その注文について、だ」

「ほう、意外じゃな。おぬしは治癒の他に攻撃用の魔術も習得しておったはずだが」

「俺の魔術は付け焼き刃だ。貫通力はないし、決め手に欠けるからな」

「なるほどのう、それならわしのところに来て正解じゃな。では早速スペックの話し合いに入ろうかの」


 そう言って、シエラはカウンターからノートとペンを取り出した。

 シエラは基本的に他人の相談に乗るのが好きな人間だ。

 加えて凝り性なところもあり、相談を受けた時には、本人以上に調べ上げてしまうタイプである。


 そうして、要件をまとめて設計図も仕上がった。要望から、アースリには長銃タイプの貫通力を増したモデルの実験台になってもらうことになった。


「ということで、三日後に取りにくると良い」

「……頼んだ。じゃあな」

「まいどあり、じゃ」


 アースリは諸々の代金を払うと、ゲラリオを置いてさっさと店を後にした。シエラは話しやすいほうではあるが、それでも美人な女性ばかりのこの店はアースリにとって居心地があまりよくないのだ。


「それでゲラリオよ、おぬしは何の用なんじゃ」

「俺はもちろんリサエラさんと話すためだぜ」


 悪びれるでもなく答えるゲラリオ。


「それは冷やかしと言うんじゃぞ……」

「まあまあ、俺だってお得意様なんだしいいじゃないか、シエラちゃん。ところでこんなに美人な友人がいたとは聞いてなかったけど、リサエラさんとはどういう関係なんだい?」

「友人……としか答えようがないが……のう、リサエラよ」

「はい、シエラ様の言う通りでございます。加えてシエラ様の身の回りを全てお世話させていただいているだけのメイドでございます」


 真実ではあるのだが、リサエラの堂々とした態度は流石である。


「そ、そうなのか……メイドを雇ってる家なんて良いとこの貴族階級だけかと思っていたけど」


 友人かつメイド。その関係性を想像したゲラリオだったが、脳内にハテナマークが浮かぶだけで考えはまとまらなかった。


「人生いろいろじゃよ。そういえば、前に相談されたダマスカスの矢じゃが、二十ほど用意してみたぞ。ほれ」


 そう言って、シエラがカウンターの下から矢筒に入っている矢束を取り出す。

 これは、ゲラリオから数日前に要望を受けていたものだ。貴重なダマスカス鉱を消耗品に使用するのは非常に贅沢であり、他の工房には間違っても頼めない品である。


「おお……これはなんとも、重厚な……」

「矢尻とシャフトにはダマスカスと銀の合金を使用してある。矢羽はスパルナの赤い羽を使った。強度と重量は普通の矢の比ではないのでな、威力・貫通力ともに何倍にもなるじゃろうな」


 黒くマットに塗装した矢を一本取り出し、ゲラリオに渡す。赤い矢羽がワンポイントになっており、工芸品のような風格に仕上がっている。


「確かに、かなり重いね。これは強そうだ」

「生中な腕ではまともに射れぬじゃろうな。まあおぬしなら問題なかろう」

「ああ、こいつは頼りになる。軽々とは使えないが……」


 そうやって矢を検分しているときのゲラリオの眼差しは、リサエラと話しているときと同じくらい真剣である。やはり彼もまた最上級の冒険者なのだ。


「まあ、わしとしてもそう大量に作ってやれるものではないし、ここぞの時に使うと良い」

「御守りってことだな。まあ、こんなに頼りになる御守りもないさ。女神シエラ様の御加護のあらんことを、ってな」

「くくく、崇めよ、崇め奉るがよい」


 そんなやりとりを交わしつつ、代金を受け取って納品完了となった。




 この日の昼食は、リサエラが買ってきた弁当を二人で食べることになった。

 この生活が始まってから、朝と夕はリサエラが調理し、昼は他所の料理を買ってくる流れになっていた。

 これはリサエラが楽をしているわけではなく、この国の食文化に触れようというシエラとリサエラ合意の元での習慣であった。

 意外な味付けの料理や、独特な素材選びなど、異世界の料理には学ぶところも多いのである。

 今日は、魔物肉の焼き肉弁当と新鮮なサラダの組み合わせだ。臭い消しを兼ねたスパイシーなタレがワイルドな風味の魔物肉と調和しており、少々暴力的だが面白い味わいである。


「ゲラリオのやつ、おぬしにかなり気があるようじゃったな」

「そうですか? 確かに元気な方だなあとは思っておりましたが」


 分かってはいたことだが、この様子ではゲラリオに勝算はなさそうだ。


「ただ、ゲラリオ様もこのあたりではかなりの使い手のようでしたね。私の見立てでは、イヴ様と同等のレベル帯かと」

「そんなこともわかるのかや?」

「はい、だいたいは。おそらく、レベル六十から七十程度かと。技量ではイヴ様が、筋力ではゲラリオ様がそれぞれ秀でているようでした」

「ほおん、戦闘職種のレベル三百カンストともなれば見るだけで分かってしまうものなんじゃのう。ともあれ、この世の人々は上でもそのあたり、ということなのかのう」

「どうでしょうか……他の国には更に強者がいてもおかしくはないですが。私はまだオルジアクへのリコールができますので、調査に行っても良いかもしれませんね」


 リサエラがシエラの店を観察していた範囲内だと、王都の冒険者はおおよそがレベル十から三十までに収まる程度だということだ。

 初級者に贔屓にされている店ではあるのでバイアスがかかっている面もありそうだが、おおよその認識に間違いはなさそうである。

 ただ、他国に高レベルの人間がうようよいる可能性はあるのかと考えると、そんなことがあればこの国はとっくに滅んでいそうなので、そこまででもないような気もする。

 自分たちはまだまだこの世界のことを全く知らない、と感じるシエラであった。


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