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生産職吸血鬼は異世界の夢を見るか  作者: 吸血鬼まつり
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91.共同生活

 ツェーラ武具錬金術具店で共同生活が始まってから、一週間ほどが経っていた。

 基本的な家事は全てリサエラがこなしてしまうため、シエラとしては非常に気楽な生活となった。

 家事について、共同生活なのだから持ち回り制にしようかとリサエラに相談したところ、彼女は自分の仕事だからと頑として譲らなかった。リサエラは基本的にシエラの要望を柔軟に聞いてくれるのが、譲れない部分というのも存在するのだろうと感じる出来事であった。

 その代わり、シエラとイヴはリサエラからたまに料理を教わることになった。シエラとしては全く知識のない領域であったし、イヴとしても旅に出た先でのバリエーションが増えるのはありがたいので断る理由はなかった。

 

 店の接客については、シエラが今まで通り常駐するほかリサエラも店員として働くことになった。

 そもそものコミュ力が高いこともあり、商品を勧めたり相談に乗って要望を引き出す手腕は、正直なところシエラより数段上だ。

 さらに美人でスタイルもいいメイドさんということで男女問わず人気も高く、一目見ようという者が後をたたない状態である。

 ハツユキもたまに店に出て、接客を学んでいる最中である。(自動人形の性質なのか、物覚えは抜群に良い)


 そんなわけで、シエラたちの生活は新しいステージに突入しつつも、比較的平和に進んでいるのだった。




 ――朝。シエラは未明に目を覚ます。昼夜逆転MMORPG廃人時代には考えられなかったことだが、健康体になった今となっては完全に早起きが平常運転だ。

 階段を降り、顔を洗いに行くと、既に顔を洗い終わったらしいイヴとすれ違う。


「おはよう、イヴ」

「……ぉはよう、シエラ……」


 彼女は朝は弱いようで、いつも朝はぼんやりとした様子である。それでも早朝から起きているのは、朝の鍛錬をするために頑張って習慣化したらしい。


 顔を洗ってリビングに出ると、リサエラが朝食の調理を行なっていた。


「おはようございます、シエラ様。もうすぐ朝食ができますので、座ってお待ちください」

「うむ、おはようリサエラ」


 リサエラはといえば、シエラより早く起きていたとは思えないほど既に完璧なメイドであった。背はすらりと伸び、手際良くキッチンの器具を操っている。

 いついかなるときでも完璧なリサエラの身だしなみが乱れている場面をシエラは見たことがない。


「ハツユキもおはようじゃな」

「おはようございマス、お母様(マスター)


 テーブルに着いているハツユキに挨拶しつつ、イヴの隣に座る。ハツユキに食事をする機能はないのだが、全員が揃う時にはいたほうがいいだろうということで朝食時と夕食時は同席している。


「お待たせいたしました。それではいただきましょう」


 リサエラが器用に三枚のプレートを運んできて、テーブルに配膳していく。

 

「おお、今日はまた王道じゃな!」


 そのプレートに載っていたのは、四角い食パンにスクランブルエッグ、それにウインナーとサラダ。スープまで揃っていて隙がない完璧な朝食である。


「はい、たまにはこういうのも良いかなと思いまして」

「……リサエラ、これ……パン? 不思議な形だけど」

「確かに、このあたりでは見かけませんでしたね。こちらは食パンと呼ばれるもので、作りやすさや食べやすさを考慮して四角く焼くプレーンなパンなんですよ」


 そうなんだ、と頷きつつイヴが食パンを口にする。バターを乗せてカリッと焼かれた食パンは非常に香ばしい。その間にも、シエラはパンにサラダやスクランブルエッグを乗せてモリモリと食べていた。


「おお、うまいのう……! 確かにエリドソルでは見かけんのう、食パン。……ということは、まさか自分で焼いたのかや……!?」

「はい、せっかくオーブンがありましたので、空いた時間に自作してみました」

「本当に何でも作れるんじゃな……」

「いいえ、何でもというわけでは。知っているものだけです」


 幸せそうに頬張るシエラを満面の笑みで見守るリサエラ。

 この家のキッチンにはシエラが修繕した大きめの魔導式コンロやオーブンがあるのだが、特に料理が得意なわけでもないシエラ自身はあまり使用していなかった。

 リサエラはすでに機能を駆使しているようなので、修繕した甲斐があるというものである。


「いやー、うまかった。おぬしらはこれからどうするのかや」

「私は家事を済ませてから、いつも通り開店に備えます」

「……私は、今日は休みだから。少し外に出て、走ったり、運動するつもり」

「そういうことであれば、ハツユキを付けていくのはどうじゃ、イヴ。話し相手に――なるかはわからぬが、近接戦闘の練習相手にはなると思うぞ」


 ちなみに、ハツユキがかなり動けるということは、イヴには数日前に実演して見せている。


「なるほど……、じゃあ、いい?」

「かしこまりまシタ、イヴ。お付き合いさせていただきマス」


 シエラが頷き、ハツユキが返事をする。ハツユキのイヴ呼びは、様はいらないというイヴからの要望の結果である。リサエラにも向けられた言葉だったのだが、しれっと拒否されてしまっていた。


「うむ、ハツユキはあまり外の世界を見ておらんじゃろ、社会勉強を兼ねてちょっと走ってくると良い」

「はい、お母様(マスター)


 こうして、また新しい朝が始まった。


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