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生産職吸血鬼は異世界の夢を見るか  作者: 吸血鬼まつり
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8.アルカンシェル


 ジェットコースターで落下するときのような浮遊感に襲われ、シエラの胃がきゅっと縮む。

 

 宿の内装だった景色が一瞬真っ暗になり、次の瞬間、視界が赤に染まる。

 

 あまりに眩しい赤の色が夕焼けの空だと気付いたときには、シエラの小さな身体は空中に放り出されていた。

 

「え、ちょっ、なん――――」

 

 ぶわりと風が舞い上がり、スカートがお腹まで巻き上がるが、それどころではない。

 

 自由落下の衝撃に目を回しながら、シエラは一瞬だけ大きな城のシルエットを見た。

 

 ああ、あれは懐かしき我が――

 

 ドボン! と大きな音を立てて、シエラの身体は水に沈んでいた。

 

 あまりに準備なく水に飛び込んだせいで、上下の感覚と呼吸の自由を失ってもがくが、幸いその空間はたいして深くなかった。

 シエラは水底の石畳に一度派手に後頭部をぶつけたのち、ようやく天地を悟っておとなしくなり、浮き上がった。

 

「げほっ、げほっ……、っ……、し、死ぬかと思った……」


 実際にはそこは海でも川でもなく、人工的に作られた建造物――噴水であった。

 よって深さでいえば非常に小柄なシエラが足をつけて立てる程度のものであり、先ほどまで必死にもがいていた自分が恥ずかしくなってくるほどであった。

 しかし――、この噴水は。視界に広がる花畑は。これは紛れもなく――

 

「……アルカン、シェル……!」


 振り返ると、吹き上げる水の向こう側に、夕日に照らされ逆光になった巨大な城が見える。

 建築スキルを持った仲間たちが好き放題に改築増築を繰り返した結果、美観を保ちつつも城と形容するにはあまりに巨大な迷宮のようになってしまった我らが居城――天空城《アルカンシェル》であった。

 

 

 しばらく感動と安心で呆けていたが、さすがに噴水の中で立ち尽くしているというのは格好がつかなさすぎる。それに寒い。

 そう気付いて、ざぶざぶと水をかき分けて噴水の外に脱出した。

 水を吸って張り付いた髪も衣服も、今は気にならない。

 

「リコールは成功した……いや、成功か……? まあ、成功ということにしておこう……」


 本来のホームポイントは城の最上階近くに配置されたシエラの自室だったのだが、異世界に来た影響なのか、誤差が出てしまっているようだ。

 ただ、これがもっと離れた地点に出なくて助かった。

 この天空城は文字通り空中に浮かんでいる。

 天空城地殻フレームの外周より外に転移していた場合、どこともしれない大地に真っ逆さまに落下し、叩きつけられて絶命していたことだろう。

 ……この噴水でない場所に落下していた場合も無事では済まなかったような気もするが、自分は今生きているのだからこれ以上気にしないこととする。


「……行動を始める前に、リコールのホームポイントを上書きしておくかな」


 念の為柔らかい地面の広がっている花畑の中央に移動し、再度リコールを唱える。

 転移はせず、座標のみを上書きし、術式を終了する。魔力のリンクが正確に繋がった感覚があるので、おそらく次回からは今回のようにはならないはずである。


「さて、城の様子を確認しに行かねばな。……もしかすると、誰か帰ってきているかもしれん」


 そうつぶやき、シエラは城へ歩を進めた。

 シエラにリコールが使えたということは、ほぼ間違いなく他のプレイヤーキャラもリコールが使えるはずである。

 シエラのようにリコールの存在に気付けば、ここへ戻ってきている可能性も決して低くはない。

 どのギルドシェルメンバーも皆揃って自由人ばかりだが、いきなりこんな状況に放り出されたのだ、不安に思わないはずがない。

 もしかすると、12人のうちオンライン表示の4人全員、戻ってきてシエラ(シェルマスター)を待っているかもしれない――

 

 

「――――――、うそじゃろ……」


 シエラは、ふらりと後ろに倒れ、白亜の床に大の字で寝転がった。

 

 ここは、天空城《アルカンシェル》の最上階、4人が最後の時間を過ごした円卓の間。

 その円卓に、二枚の紙がテープのようなもので貼り付けられている。


 曰く、

 

『あまりにも面白そうな世界なので、旅してくるよ! byハナビ』

『未知の世界に剣の腕が疼く。チクワ』



「なんで…………なんでそう、貴様ら――――!!!!」


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