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生産職吸血鬼は異世界の夢を見るか  作者: 吸血鬼まつり
78/112

78.計画

 ツェーラ鍛治錬金術具店の定休日に、シエラは天空城へと帰ってきていた。

 もっとも戻るだけであれば営業後でも《リコール》を使えばすぐに戻れるのだが、天空城で十分に時間を使うには定休日を利用するのが一番なのである。

 早朝に帰還したシエラは、午前中はエルマたちからの定期報告を聞き、昼ごろから地下の工房に潜っていたのだった。


「今日は何をお作りに?」


 当然のように横に立つリサエラが尋ねる。地下工房管理担当眷属のエルムも後ろに控えつつ範囲冷却魔法を発動中である。


「うむ、まあいろいろ考えてはいるんじゃが……どれから手をつけたものか」


 シエラは歯切れ悪く答えてから、首を捻った。

 これはシエラの昔からの癖で、アイデアだけはいくつも持っているのだが、脳内でそれらが渋滞して手をつけられなくなることがしばしば起きる。

 そうなったとき、情報を整理するのはいつのまにかリサエラの役割になっていた。彼女の面倒見のいい性格が伺える部分である。

 リサエラはホワイトボードを持ってくると、ペンの蓋を開けた。


「では、一旦書き出してみましょうか、シエラ様」

「そうじゃな。まずは……わし用の衣装じゃな。店用の仕事着を兼ねて、そろそろ新しいものを用意しようと思っておって――」

「デザインがまだなのであれば、私にお任せいただけませんか?」

「……うん? まあ、まだこれからだったし構わぬが……なにゆえ?」


 その言葉に食い気味に反応するリサエラ。

 リサエラは《エレビオニア》時代から虎視眈々とこの瞬間を待っていたのだ。自身のデザインした衣装で、敬愛するシエラの魅力をさらに引き出してみたい、と。

 そんな欲望をおくびにも出さず、リサエラは涼しい笑顔で答えた。


「シエラ様はいつもご自分でデザインされた比較的シンプルな衣装を着用されていますので、たまには別の人間による服を着れば、新鮮な気分になれるのではないかと思いまして」

「確かに、そういうのも面白そうじゃな。そういえばリサエラはメイド技能のボーナスで縫製技能が使えるんじゃったな。では下処理済みの素材を預けるので、頼んで良いかや」

「はい、是非お任せくださいませ、シエラ様」


 そう答えて、シエラが取り出していく衣装素材を受け取って収納していくリサエラ。その脳内ではすでにシエラに着せてみたかった衣装の妄想が高速回転しているのであった。


「では次だが……王都で売る予定の《冷却護符》の量産用の設計じゃな。この前作った試作品はこの城の素材で作っておったので、改めて向こうの素材で量産できるラインを探ってある程度の数を揃えようと思ってな。あと、《冷却護符》の筐体を利用して保温用の《加熱護符》なども作れるのではと思うんじゃよ」

「なるほど、物体はインベントリに入れると常温に戻ってしまいますし、確かな需要のある商品になりそうですね」

「……もしよろしければ、そちらの件は私が対応させていただいてもよろしいでしょうか?」


 手を挙げたのはエルム。


「ほう、できそうかや?」

「はい、以前見学させていただいた際に基本的な構造は把握しておりますし、勝手ながら簡略案や素材の選定についても以前より考えておりましたので……」

「おお、それはありがたいのう! しかしまあ、おぬしら眷属も本当に積極的に動いてくれるのう。魔法銃のことといい、その姿勢には随分と助けてもらっておるな」


 以前から感じていたことだが、シエラは自分の眷属たちの積極的に物事に取り組む姿勢を本当にありがたく感じていた。それら全てがシエラやアルカンシェルの利益のためを思ってのことだとわかるので、頭の上がらない思いである。


「もったいないお言葉です……!」

「いや、本当じゃよ。では、現地で一般的に使える魔導具用の素材を渡しておくので、その範囲で頼む」

「はい、かしこまりました。お任せくださいませ」

「……ふむ。おぬしらのおかげですでにタスクが二つ解消されたのう。まあまだやりたいことは残っているのだが」

「なんでしょうか、シエラ様?」

「――例の白龍、《ザ・ホワイト》の核の解析じゃよ」


 シエラがにやりと笑って答える。

 実際、今日天空城へ帰ってきた一番大きな目的というのはこのことだった。チクワが仕留めてきた白龍の核を解析して、何かに活かせないかと考えていたのであった。


「……なるほど、アレですか。未知の素材ですし、それはまた時間がかかりそうですね」

「うむ。大物だし換えも効かぬので慎重にやらねばならぬし、未だ何に使えそうかすらわかっておらんからな。今日中に終わるタスクとも思っておらぬし、まあゆっくりやろうと思ってな」

「シエラ様ならきっと大丈夫ですよ」


 リサエラの根拠のなさそうな信頼に、苦笑で返すシエラ。


「ということでわしはこれから雑素材倉庫のほうで素材の鑑定に入るが、おぬしらはどうするかや」

「私はシエラ様にお供いたします。危険な素材かも知れませんから」

「エルムは地下工房にて、先程お任せいただいた仕事に取り掛かろうと思います」

「うむ、ではよろしく頼んだ」


 そうエルムに答えてから、シエラはリサエラと共に倉庫街へと向かった。

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