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生産職吸血鬼は異世界の夢を見るか  作者: 吸血鬼まつり
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69.廃鉱グリートトリス:2

「エメラ、右から!」

「きゃあっ!」


 シュカの声でエメライトが右を見て、魔法の完成が間に合わず詠唱を破棄して横に飛び、地面を転がって回避する。

 エメライトが寸前まで立っていた空間に剣の鋭い切っ先が走り抜けていく。

 攻撃をかわされた《岩蜥蜴人ストーンリザードマン》はシッと長い舌で舌打ちをしてから、エメライトを追撃する。


「やらせない!」


 その間にシュカが割り込んで斧を振るう。

 斧の一振りは敵の剣閃と交わり、それぞれの武器の差を表すかのように岩蜥蜴人の粗悪な剣を割り砕く!


「やぁ……っ!」


 動揺した岩蜥蜴人の隙を突き、シュカが続けて斧を横なぎに振り抜く。

 敵はとっさに両腕を掲げるが、岩の鱗と貧弱な腕の筋肉だけではその一撃を防ぐには足りず、両腕を吹き飛ばされる。


「《アイシクル》――行って!」


 シュカが横に飛び退くと、未だに回避後の尻餅状態のエメライトから《アイシクル》の四連射が飛び、全弾が命中し岩蜥蜴人を撃破したのであった。


「た、たおした……」

「疲れたあー……」


 戦闘後のエメライトとシュカは疲労感と緊張からの解放でへなへなと座り込む。

 その戦闘を見ていたアケミとイヴは、互いに顔を見合わせると、うなずく。


「お疲れ様ー、二人とも。一体だけとはいえ、やっぱり《岩蜥蜴人》はまだ荷が重かったかなー」

「すみません……ギリギリ、でした……」


 アケミが声をかけると、エメライトがしょんぼりして答える。


「いやいや、多少の怪我で倒せたんだから大丈夫。やっぱり、動きの速い魔物を相手にすると改善点が見えてくるね。じゃあエメちゃんについてはイヴちゃんからどうぞー」

「……うん。……エメライトは、回避行動がまだ、ぎこちない。避けるのに精一杯になって、反撃の方法まで頭が回ってない……かな。魔法も、回避で中断しないように、気をつけて。……防戦一方は、ジリ貧」

「は、はい……」


 やはり、後方攻撃職とはいえ、一定の運動能力は必要だ。人数の少ないパーティなら尚更、攻撃が自分に向かうことも想定して動けるようになっておかねばならないのである。


「じゃあシュカちゃんには私から。シュカちゃんはやっぱり盾役なんだから、まず振るうのは斧より盾。真っ先に盾を振る習慣をつけておかないと、とっさのときにみんなの盾になれないからね!」

「なるほど、確かに……」

「でも、敵の武器を破壊できたのはよかったね。結果的に敵の動揺を誘えたし。まあ、ああいうときの鉄板は、まずは盾をぶつけて相手を吹き飛ばすこと! 距離が開けば仕切り直せるし、遠距離攻撃手段ではこっちのほうが有利だからね。敵が複数の時は特にそうかなー」

「勉強になります……!」


 多少落ち込んでいたシュカも、アケミのアドバイスを聞いてメモを取りつつ、気合を入れ直していた。


「おお、終わっておったか。なかなか有意義なアドバイスをもらえたようじゃな」


 そう言いつつ、シエラが壁の穴からひょいと顔を出す。

 グリートトリスの鉱石は予想以上に高品質で、掘れるだけ掘っておこうと思い手当たり次第に掘り進めていたのである。まだダマスカス鉱にはたどり着かないが、これはこれで大きな収穫である。


「しかし、アケミもこうして見ると理論的な話もできるんじゃなあ……」

「えっシエラちゃん、失礼じゃない!? 私ってどういうイメージだったの……?」


 本気で驚いたのか、アケミはシエラの両肩を掴んで聞く。


「いや、いつも突進して大盾をぶつけておったから、脳筋を極めて王都一の盾職になったのかと……」

「えーっ!? 私だっていつもいろいろ考えてるのにーっ」


 それを聞いていたアカリが、堪えきれず吹き出す。


「あはは、やっぱりそう見えますよね。アケミも本当は人一倍いろいろできるんですけど、『殴ったほうが早い!』って言って盾で吹っ飛ばすようになっちゃったんです」

「なるほどのう、そんな経緯が」

「アカリお姉ちゃん、それフォローになってないんじゃ……」


 そのやりとりに一同が笑う。

 廃鉱グリートトリス探索は、比較的和気あいあいと進んでいたのであった。




「中層も反応なし、かや。これはいよいよ下層に潜らねばならんのう」


 探索開始から半日ほど。一行は上層から中層へと進み、下層への入り口に差しかかっていた。

 廃鉱グリートトリスは、大まかにわけて三層からなるダンジョンである。

 内部には複雑な起伏があるため正確に三層に別れているわけではないのだが、それぞれある場所を境にして坑道の雰囲気や敵の強さが変わるため、便宜上そう呼ばれているのだ。


「魔素の性質が、変わりましたね……」


 エメライトが呟く。本来は自分にはまだ実力の及ばない場所であるということを肌で理解してしまうのである。


「うむ、まあここから先は先輩たちに任せておればよい。戦いぶりを見ることも経験じゃよ」


 青く透明な刃のピッケルを肩に担いで、シエラはエメライトの背中をぽんと叩いた。


「は、はい……」


 エメライトは冒険者の中でも魔力的な方面への感受性がかなり高いらしい。シエラの言葉によってエメライトの震えは多少おさまったようである。

 この経験をいつか自信に変えられれば、彼女は大物になる。シエラにはそんな予感がしていたのであった。


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