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生産職吸血鬼は異世界の夢を見るか  作者: 吸血鬼まつり
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65.二日ぶりの再会


 《白の太刀》の四人が帰ったあとの五時間で、数組ほどの物珍しそうにしている客の応対をして、地味ながらも特に問題も起きず、初日の営業は終了したのであった。

 目玉商品である魔法銃についても何挺か売れてくれたので、ここから人気が出てくれるといいのだが、と思う次第である。

 そんなことを考えつつ店じまいの準備をしつつ夕飯のことを考えていると、閉店時間ちょうどのタイミングで扉が開かれた。


「ん、客かや」


 シエラが振り返ると、そこには少女の二人組、シュカとエメライトの姿があった。


「こんばんは、シエラさん」

「こんばんは、です」

「おお、おぬしらか。二日ぶりじゃの」

「えっと……すみません、たぶん営業時間過ぎちゃってるかと思うんですけど……大丈夫ですか?」


 エメライトが控えめに聞くので、シエラは何も気にしていないと頷いて返す。


「問題ない。どうせあとは夕飯を取るだけじゃったからな。そうじゃな、話ついでにどこかで夕飯でもどうかや、奢ってやろう」


 その申し出に、エメライトとシュカは互いに顔を見合わせた。


「はい、喜んで!」

「あの……ありがとうございます!」

「よし、決まりじゃな。この前見つけた良さそうな店があってな」


 そう語りつつ、三人は外へと出かけたのであった。




 やってきたのは多少入り組んだ路地にある異国風の定食屋である。

 自宅から近い場所にあったため、通り過ぎるたびにいつか入ってみようと思っていたのである。

 こういった少し変わり種の店には一人では入り難いと思っていたためちょうどよかったのだ。


「へえ、バレンリーの料理を出す店なんてあったんだ、知らなかったなあ」


 店内の装飾を見てシュカがつぶやく。エメライトも物珍しそうな様子できょろきょろと見回している。


「ほう、ここはバレンリー式というものなのかや」


 シエラはといえば連れてきたもののあまりピンときていない様子である。珍しい風貌なので気になっていたというだけだったのだ。

 バレンリーという地名には聞き覚えがある。確か、小国群のうちのエリドソルの二つほど隣の国だったはずだ。

 この国ではあまり見ない柄の編み物のタペストリーがかかっていたり、顔を二つ持つ不思議な相貌の像が置いてある。


「いらっしゃい。決まった頃に、また」


 テーブルに案内した店員の青年は、物静かな印象で必要なことだけ伝えるスタンスらしい。

 そして三人はメニューを眺めて考えたのち、それぞれ注文を伝えた。


 出てきた異国のスパイスの効いた食事を楽しみつつ、そういえばとシエラが切り出す。


「《白狐》の使い勝手はどうじゃったかな。もう試したのであればだが」

「あ、はい! すごくいい感じ、でした!」


 バレンリー式の蒸し料理を楽しんでいたエメライトも、そういえばその話をしにきたのだったと思い出して返答する。そして、白狐を取り出してテーブルの上にごとりと置く。

 その外見を見て、シエラは一目で実戦使用されたことを感じ取る。外装はパッと見では何も損傷はないが、角の細かな塗装剥がれや銃身表面の小傷から、この数日でそれなりの回数の戦闘を行ったものだと分かる。ただ、それを感じ取れたことに最も驚いているのはシエラ自身である。鍛治スキルの恩恵はこういうところにも現れているのであった。


「エメラが遠くから来る敵に対処してくれるから、私も結構楽でした」

「シュカが守ってくれるから、私も安心して狙えるし……」


 シュカもそう言って、エメライトの肩を叩いて笑う。

 エメライトはといえば褒められて恥ずかしがっているようだ。


「うむうむ、尊い信頼関係じゃな。どんな戦闘だったかなど、もっと話すが良い」


 シエラは腕を組んでにっこりと微笑む。彼女はどちらかといえば、そういった関係性のジャンルが好きなタイプの人類だった。


 その後、森での戦闘の話などを聞きつつ食事を楽しんだシエラ。食後のアイスコーヒー(バレンリーのものらしいのだが、味は驚くほどコーヒーである)の冷たさを感じつつ、考えていた。


「なるほど、多重詠唱か……。イヴなどは当たり前のように使っておったから忘れておったが、そういう技能もあったのう。……それをメインに戦闘を組み立てるのであれば、二挺持ちというのはどうじゃ?」

「二挺持ち、ですか?」

「うむ。多重詠唱は脳内で同じ魔法を複数詠唱して出力する技法じゃが、出力先たる魔法銃が一挺だと発射できる数に限界がある。つまりは、流量は多いが蛇口が一つしかない状態じゃな」


 魔法の多重詠唱はエレビオニア時代から存在した技能だった。ゲーム時代は単に弱い魔法を連射できる技能だったが、その派生技能として、武器を二つ持っていると連射速度が向上するというものがあった。そのため、連射派の魔法使いは杖や剣を両手に持つ奇怪なスタイルをよく取っていたものだ。


「なるほど……それはいい、かも……」


 エメライトはその戦い方を想像したあと、何かを考えていた。


「エメラ、お金のことなら大丈夫だよ」

「でも、前の依頼の報酬はシュカの防具を買おうって決めてたのに……」

「大丈夫大丈夫、報酬の他にも、魔物素材を売った分が結構あるからさ」

「シュカ……」


 シエラからは幼馴染二人の仲はとても良さそうに見えるのだが、エメライトはそれでもやはり遠慮してしまうところがあるらしい。


「ふむ、そういうことならばわしに任せておけ。まあわしから提案した話じゃからな、うちで買うというのであれば多少の割引をつけてやろうではないか」

「えっ、いいんですか……?」

「うむうむ、駆け出しの頃くらい、先人に甘えても誰も責めまいよ」

「あ、ありがとう、ございます……!」


 シエラはこの二人を見ていると、なぜか無性に応援したくなってしまう。おそらく、エレビオニア時代に最初期にゲームを始めて、後から入ってくる初心者たちを見守ってきたのと同じ感覚を得ているのだろう。

 それに、自身で語ったとおり、最も金銭的に余裕のない初心者を多少贔屓しても、不公平とは言わないだろうという思いもあった。


 その後、シュカから予算を聞いたシエラは、良心的な価格でシュカの防具とエメライトの二挺目の白狐を売る商談を成立させたのであった。


「では、そうじゃな……三日後の夕方までには用意しておくのでな、またそれ以降に来てくれ」

「はい、よろしくお願いします!」


 元気のいい返事をしたのはシュカ。聞いたところによると、彼女たちはこれから夜限定の依頼に出かけるのだという。夜にのみ出没する魔物の討伐や、夜に薬効が最大になる薬草の採取など、夜だけに遂行できる依頼というのは珍しくないそうだ。

 比較的報酬の良い夜間の仕事でもっと稼ごうということらしい。


「……そういえば、イヴがおぬしらのことを言っておったぞ」

「えっ、イヴ様が!?」


 思い出して言うシエラに飛びついたのはエメライト。


「勝手に話すと怒るかもしれぬがな。おぬしらは良い冒険者になる、とな。まっすぐな気持ちが一番大事な素質だから、とも」

「イヴ様が、私たちのことを……」


 それを聞いたエメライトとシュカは、喜びというよりも、やる気が満ち溢れた顔をしている。


「まあ、その期待に応えるためにも、あまり無理はするでないぞ。死んでしまっては何も始まらぬからな」

「……はい!」


そう強く返事をした二人は、意気揚々と夜の依頼へ飛び出したのであった。



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