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生産職吸血鬼は異世界の夢を見るか  作者: 吸血鬼まつり
46/112

46.シューティン


「ところで、これから向かう場所はなんといったかの」


 馬車の中で揺られながら、シエラはイヴに尋ねる。

 例の呪いの剣の調査ということでとりあえず同行して来たものの、行き先を聞いていなかったのである。

 

「……次は、ヤイグリ」

「ふむ、初耳の名前じゃ。どういうところなのかや?」


 細かい説明は口数の少ないイヴより向いているだろうと思い、ギリアイルに振ってみる。

 

「ヤイグリ自体は、王都ほどではないけど大きい街だね。運河が通ってるおかげで他所の土地のものも手に入りやすいというのが特徴かな。僕たちはその近くにある二つのダンジョンに用があるだけなんだけどね」

「なるほどのう。まあなんにせよあまり遠出をする機会はないのでな、気分転換になるというものじゃ」

「確かに、シエラさんはいつも宿で錬金術具店の店主さんだものね。たまには息抜きするといいよ」

「うむ。とはいえ調査自体は大事な用事じゃが……。と、そうじゃ、イヴ」


 シエラはふと思い出して、インベントリから布で覆われた荷物を取り出す。

 

「……なに?」

「いやな、一つ試作品を作ったので試してみてくれんかと思ってな。丁度いい人材を探しておったのじゃよ」


 シエラが包みを開けると、中から一丁の銃が現れた。

 黒くマットにコーティングされた本体と、そこに埋まった半透明な黄色の魔石が特徴的である。

 グリップにはシエラの名と、アルカンシェルのギルドシェルマークが刻印されている。


「これ……武器?」

「うむ、魔法銃マジックブラスターじゃ。実用検証用ロットでな。開発コードネームは……《イダテン》」

「マジック……ブラスター? 決まった魔法を撃ち出す魔杖なら、私よりギリアイル向きだと思うけれど」

「いや、これはどちらかというと遠距離非魔法職のサブ武器として開発したものなんじゃよ。魔力消費の少ない魔法を、圧縮して正確に遠距離に届かせる道具じゃからな」


 自身の命中率の低さは一旦棚に上げて、胸を張ってプレゼンするシエラ。

 そうやって解説をしていると、御者台のガレンから声がかかる。


「おい、前方に魔物――魔化狼ワイルドウルフの群れが来てるぞ」


 都市から都市へは道がつながっているとはいえ、未だに魔物が出没する場所も多い。

 戦闘能力の高い冒険者が護衛として重宝される大きな理由である。

 

「ふむ、これは丁度いいタイミングじゃな。よかったら試してみてくれんかの、イヴ」

「……わかった」


 魔法銃を手にしたイヴは、しばらく各部を観察したあと、小さくうなずいた。




「使い方は魔杖と一緒じゃ。魔石から構造式を読み取って、魔力を注いで返してやれば魔法が発動する」

「……うん、やってみる」


 馬車から降りたシエラとイヴは、前方から遠く迫りくる魔化狼を迎え撃とうとしていた。

 イヴが魔法銃を構え、意識を集中させる。

 右手でグリップを握っただけの片手持ちスタイルのようだ。

 この世界――少なくともこの地域には銃という概念は存在しないようなので、シエラがやって見せたものを見たまま真似している状態のようである。

 

「術式、《雷矢サンダーボルト》――」


 イヴがつぶやいて、引き金を引く。

 その瞬間、一筋の細い閃光が一直線に走り、射線上にいた魔化狼が数匹まとめて射抜かれ、絶命する。

 それが四、五回繰り返され、魔化狼の群れは瞬く間に駆逐されたのであった。

 

「これ……すごい」 


 全滅を確認してから、イヴが少し驚いた声でシエラに振り向く。

 

「そうじゃろうそうじゃろう、いやしかし、流石は歴戦の弓兵といったところじゃな、初めてでこの命中精度とは」

「あの魔法……本当に雷矢? 雷属性の基本魔法があんなに速くて貫通するなんて……」

「まあそのへんは馬車に戻ってから解説するとしようか。わしの工房の次期主力商品じゃからな」


 馬車の中へ戻っていくと、戦闘の様子を見ていたらしいギリアイルが呆けた顔でシエラとイヴを迎えた。

 (ちなみにエディンバラはといえば、出発してからずっと戦闘音にも目覚めないまま馬車の隅でいびきをかいている)

 

「なんだいあれは、すごいじゃないか。さっきイヴに魔法銃マジックブラスターと言っていたけど……」

「うむ、うむ、よかろう、おぬしらの質問にこのわしが全て答えようではないか」


 二人の反応に気を良くしたシエラは、気持ちよくなって意気揚々と応じたのであった。

 

 この魔法銃(マジックブラスター)《イダテン》は、この世界の人々向けにシエラがチューニングした魔法銃だ。

 天空城で改良が続けられている魔法銃との最大の違いは、構成されている素材がこの世界のもの――以前シエラがグランリット鉱山で採掘した素材群――から作られているということである。

 込められた魔法は雷属性魔法の基礎の一つ、雷矢。

 この魔法は基礎ということもあり、威力は低く、少し魔法抵抗を鍛えた冒険者であれば無意識に無効化レジストできる程度である。

 そして速度も本物の雷には全く及ばず、せいぜい百km/h程度である。

 しかしその雷矢も、この《イダテン》を通して圧縮し、指向性を規定することで数十倍の速度と格別の貫通力を持たせることができる。

 やっていることは魔法が逃げられないように囲って一方向に撃ち出しているだけだが、その効力は抜群である。

 そして雷矢を込める何よりの利点は、消費魔力が非常に低いため、魔力に乏しい非魔法職でも扱いやすいという点である。

 

「……というわけじゃよ」


 アルカンシェル云々は省きつつ、性能面の解説を語って聞かせたシエラ。

 なんとか内容を咀嚼したらしいギリアイルが口を開く。

 

「これは……非常に画期的だね。もはや魔杖とは全く別の武器種だ。僕みたいな治癒魔術士も、一つ持っておくととっさのときに便利かもしれないね。使ってみてどうだった、イヴ?」

「…………、私、この武器……すごく、好き」


 イヴは少し恥ずかしそうに、しかしはっきりと言った。

 

「珍しいね、イヴが好き嫌いをはっきり口にするなんて」

「ふむ、それならよかったのう。そういうことであれば、それはおぬしに預けておくのでな、しばらく使ってみて欲しい機能だったり調整要望だったりを出してもらえると嬉しいのじゃよ。……改良しようにも、ソレの扱いがわしはあまり向いていないようでな」


 そう言うと、イヴは魔法銃を胸の前に抱いて小さくうなずいた。

 

「……わかった。今度、専用の魔法銃、注文させて、ね」


 この世界に、最初の魔法銃兵《マジックガンナー》が生まれた瞬間であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何れ、各属性魔法が扱える銃が生み出される事でしょう。 攻撃だけではなく補助魔法も撃てる物が。
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