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生産職吸血鬼は異世界の夢を見るか  作者: 吸血鬼まつり
37/112

37.うたげ


「それでは――アルスラ遺跡の異変解決を祝して――乾杯!」


 ゲラリオが音頭を取り、集まった全員が歓声を上げて酒盃を掲げる。

 

 場所は、アイゼルコミットでもかなり大きめの酒場。

 作戦に参加した四十名弱の冒険者たちが集まっている。

 打ち上げというわけだが、犠牲者も出なかったということでかなりの盛り上がりである。

 

 シエラはといえば、《白の太刀》と《黒鉄》が集まる中央のテーブルに巻き込まれていた。

 《マウンテンハイク》の知り合いはともかくとして、他の冒険者たちとはほとんど面識がないのでありがたい話ではあるが、先ほどから次々と冒険者たちが彼らと話をしにくるので多少気まずい居心地である。

 まあ、それでも皆盛り上がっているからいいか、と空気に流されていた。

 

 次々と出されてくる料理を味わっていると、《白の太刀》のアカリとアケミがこちらに寄ってくる。

 

「やっぱり、ちょっと肩身狭い感じ?」


 アケミが笑いながら聞いてくる。

 

「いや、まあそうでもないさ。メシが美味いしな」


 当然のように酒は飲ませてもらっていないのではあるが。

 

「……ところで、気付いてないんですか? シエラさん」

「ん? 何かあったか?」


 アカリが聞いてくるのだが、肉塊を頬張るシエラには何も心当たりがないので、首をかしげる。

 

「さっきから、みんなちらちらシエラさんのことを窺ってますよ。自分たちに治癒ポーションを配って回って、爆弾で突破口を開いてくれたあの女の子は誰なんだろう、って」

「……え?」


 そう言われて、横目で少し見てみると、確かにときどきこちらを窺い見る視線を感じる。

 《黒鉄》や《白の太刀》へ向けられる視線に混ざっていたので気付かなかったのである。

 

「そんなに気になるなら、話に来ればよいではないか。……もしや、わしは近寄りにくいのか?」


 小声でアカリに問うと、アカリは難しそうな顔をした。


「うーん、どうでしょう……。シエラさん、黙ってるとクールな印象ですから……」

「……そうだったのか。多少気にしておこう……」

 

 たしかに、身に覚えはある。この身体を作ったのはシエラ自身なのだ。

 ただ、美人に作っただけでそんなに冷たい印象になっているとはあまり感じていなかったのだが……。

 

「あ、でも、今日は本当に助かりました。ありがとうございます、シエラさん」

「ほんとほんと! ありがとね!」


 多少落ち込んだ様子のシエラに、アカリとアケミが少々慌てて話題転換をはかる。


「いや、役に立ったならよかったよ。……まあしかし、不可思議な事件じゃったよなあ」

「なんだったんでしょうか、あのリビングデッドの大量発生は……」


 アカリが考え込む。

 

「……そういえばなんじゃが、そもそもリビングデッドという魔物は……あれは本当の死体ではないのよな?」

「はい、あれは人間の死体ということではなく、純粋にダンジョン内の魔素で構成された魔物です。……ただ、リビングデッド種がよく出没するのは墓地や古戦場といった死者の多い場所です。古の死者の記憶が土地に染み付いていて、ダンジョンがその記憶を吸い出して魔物の形に反映しているのではないか、と分析する専門家もいるそうですが……」


 シエラはなるほど、と頷く。

 少し気にしていた部分ではあったので、人を斬ったということでないのであれば、今夜の夢見が悪くなることもなさそうである。


 戦争も起こっている世界なので、シエラとしても近い将来本当の対人戦をすることもあるのかもしれない。

 そう考えると、覚悟を決めておいたほうがよさそうである。

 そうわかってはいても、人の命を奪う覚悟というのはそう簡単にできるものではないのだが。


「なるほどな。しかしそうすると、やはり大量発生の原因はあの剣ということになるか。……破壊したら粉々になってしまったしな……、引き抜けばよかったのだろうか」

「いえ、あの場では破壊して正解だったと思います。あの長剣からは、あまり生身では触れてはいけないような、そんな気が出ていました」


 アカリが答えると、アケミも賛成して首を振る。

 

「私もそう思う。致命的な効果がないとも限らないからね……。もっと時間があればあの場で調べられたんだろうけど」

「リビングデッドで溢れておったしな……」


 そんな話をしていると、冒険者たちへの対応が終わったらしいガレンとゲラリオが並んで歩いてくる。

 

「その件だが、他に同様の状況になっているダンジョンがないか、俺たちがしばらく調査に出ることになった」

「《白の太刀》も同様だ。この国には無視できない数のダンジョンがあるからな」

「なるほど、そういう処置になったか。しかしまあご苦労じゃなあ、おぬしら」


 シエラがしみじみ返すと、ガレンはにやりと笑って返す。

 

「いや、そうでもない。ギルドから正式に依頼料が出るからな」


 聞けば、この国の大きな懸念課題として、かなりいい額が出るそうである。

 もちろん、問題がなかった場合にもダンジョン探索での出土品が自分のものにできるのでおいしい話だろう。

 

「そのことでシエラちゃんに相談があるんだが」


 ゲラリオはそう言ってから少し考え、

 

「シエラちゃんが壊してくれたあの黒い長剣……もし出先で発見した場合に、俺たちじゃどうにもならなさそうなんだよな……。シエラちゃんに来てもらうわけにもいかないし、対処する方法があればいいんだが……」

「……うむ、それは確かにな……。おそらくあれは全てが魔素で構成された呪具のようなものなのだろうな……、わしのほうで、封印もしくは破壊できるような魔道具を考えておくとするよ」

「それは助かる、頼んだ」


 エリド・ソルの平和はシエラにとっても維持すべきものなので、何らかの形で協力しようとは考えていた。

 

「さすがにすぐにとはいかぬから……七日後、また宿でよいかな。イヴとエディンバラの得物も作らねばならぬし」

「了解した。では報酬等についてだが――」


 そうしてガレンと打ち合わせをして、夜は更けていったのであった。

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