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生産職吸血鬼は異世界の夢を見るか  作者: 吸血鬼まつり
26/112

26.なにをするにもさきだつものを


 浴場から出たリサエラは非常にすっきりとした顔をしていた。

 

「それではベッドまでご一緒し――」

「いや、それはマジで勘弁してくれ」


 少し長く風呂に入っていたおかげでふわふわしながらも、シエラはきっぱりと断った。

 この流れでベッドまで連行された場合、何が起こるかわかったものではない。

 シエラの思い過ごしならばいいが、自分のためにも彼女のためにも、無責任な行動は慎もうと考えた結果である。

 

「そういえば聞いたことがなかったのだが、一ついいかの」


 タオルを首にかけ、牛乳瓶の蓋を開けつつシエラが聞く。

 

「はい、なんでしょう?」

「なぜ、わしをそこまで――」


 聞こうと思いつつも、その先に続ける表現が見当たらず、シエラは詰まった。

 慕う、と言っていいのだろうか。

 そう感じているのが自分の勘違いであったら恥ずかしいし、リサエラにも何か申し訳ないと思ってしまう。

 しかし、そのシエラの言葉をリサエラは誤解なく理解していた。

 

「私が私で、シエラ様がシエラ様だからです。それ以上の理由は必要ありませんよ」

「…………???」


 リサエラが微笑んで答える。

 聞いたシエラはといえば、謎掛けをされたような気分になりつつも、一応自分の感じていたものは勘違いではなかったということがわかったので少し安心していたのであった。

 

「……ところで」

「なんじゃ?」


 リサエラが少し真面目な顔になったので、シエラも改まってしまう。

 

「……なぜ、下着がスク水なんですか……?」

「……あっ」


 リサエラの手には、シエラのカゴに入れられたスク水が握られていたのであった。

 シエラは完全に慣れてしまっていたので、下着を買おうと思っていたのを忘れていたのであった。

 

「いや……下着の替えが無くてじゃな」

「……向こうで下着を買われたほうが良いかと思います」

「……そうじゃな」

 


 翌朝。シエラはリサエラ謹製の朝食を味わい、リコールの準備をしていた。

 

「それでは行ってくるのでな」

「はい、行ってらっしゃいませ、シエラ様。私もこれから少し向こうに行きますが、すぐ戻りますので。天空城はお任せください」

「悪い……いや、助かる。では、頼んだ」


 すっと腰を折ったリサエラに頷いて、詠唱の完了したリコールを発動する。

 

 景色が変わると、そこは《マウンテンハイク》に借りている自室であった。

 たしか、以前リコールする前に一週間分ほど延長していたはずなのでここはまだ自分の部屋のはずだ。

 こういったことが気にならないよう、可能なら自分の家か、商売を兼ねた店が欲しいなあと思う。

 

「……まあ、そのあたりも調べてみるとするか。今日の目的とかぶらないこともないし」


 今日の目的というのは、この国の状況を調べることであった。

 リサエラの話と地図を見た限りではこの国はなかなかの小国で、東側に隣り合っている軍事大国オルジアクに圧力をかけられている状態らしい。

 実際のところはどうなのか、シエラも自分なりに調べてみようと考えたのだ。

 まあシエラは別に国の偉い人に会えるとかそういうわけではないので、身近な知り合いにでも聞いてみようかと思ったのであった

 

 

「お、シエラちゃん、おはよう。今日は少し遅めの起床かな」

「うむ、おはよう。朝食は控えめに、あと黒茶を貰えるかの」

「かしこまりました」


 シエラが一階に降りていくと、いつものようにヘラルドが朝食の給仕をしているところであった。

 声を掛けると、すぐに朝食と黒茶が運ばれてくる。

 天空城でしっかりと朝食を食べては来たのだが、せっかく異世界にいるのだし、いろいろなものを味わってみたいという興味から宿の朝食を断るという選択肢はなかった。……決してシエラが特に大食ということではない。おそらく。

 

 出された朝食をうまいうまいと食べつつ、ちょうどいいのでヘラルドにたずねてみることにした。

 

「すまない、いくつか聞きたいことがあるのだが……」

「朝食時も一段落したし、大丈夫だよ」

「それではまずは、そうだな……わしは今現在この宿をねぐらにしているわけだが、この街に家を持ったり店を持ったりということはわしでもできるものかの?」

「ああ、なるほどね。シエラちゃんは来たばっかりだったね。居住権は何らかのギルドへの登録で兼用……というか身分証明してるから、あとは建物さえ手に入れば問題ないはずだよ。……と言っても、まずはお金が必要だろうけど」

「まあ、そりゃあそうじゃな。どこかで売り場を作れればいいのだが……」


 ヘラルドはふむ、と考えてから、

 

「それなら、錬金術ギルドとか鍛冶組合の建物内にも貸しスペースがあったはずだよ。ギルドの登録してる生産者以外にも、商品を買いに来る人たちも結構行くみたいだね」

「なるほど、それは良いな」

「あとは、どこかの店に交渉して売り場を設けてもらうとかね。……そうだ、うちに売り場を作ってみるとか、どう?」


 ヘラルドの提案に、シエラはほうと頷く。

 

「なるほど、なるほど。その手もあったか。そういえば、この宿は冒険者も多いし需要はあるのかもな。というか、いいのかや? わしに場所を貰っても」


 一階を見回しても、現状ではそういう売り場は見えない。カウンターと、広々とした食堂になっているだけだ。

 

「うん、《白の太刀》のみんなもずいぶん満足してたみたいだしね。ちなみに彼らは今は新しい依頼に出かけててしばらく帰ってこないみたいだけど。武器とかの他に、ポーションみたいな消耗品も作れるんだよね?」

「うむ、無論じゃ」

「じゃあいいと思うな。この街には錬金術の需要はあっても錬金術師は少ないからねえ。というか、錬金術師はいても冒険者の数が上回りすぎてると言うべきかな」

「なるほどな。……ふむ、では言葉に甘えて一角を借りて良いかな。使用料は……」

「うちの宣伝になればいいし、売上額の一割、でどうかな」

「ありがたい、決まりじゃな」


 それから、使うスペースや置く商品などの相談をまとめて、商品の委託計画は決まったのであった。

 


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