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生産職吸血鬼は異世界の夢を見るか  作者: 吸血鬼まつり
14/112

14.ひがえり


「おお、見事、見事じゃ」


 シエラはつい手を叩いて称賛した。

 先の連携には、ゲーム時代の有名パーティが見せるような洗練された美しさがあった。

 個々の技量もさることながら、最低限のやりとりで自分のやるべきことを理解し、最適な行動を取る。

 それは簡単にできることではない。長年の絆を垣間見た気分であった。

 

「はは、そう手放しに褒められると照れるな」

「……たいしたことじゃない」


 ゲラリオは頭をかいて笑い、アースリは少し恥ずかしそうに顔を背ける。

 双子姉妹はといえば、ロックゴーレムの残骸を検分しているところだった。

 

「ねえシエラちゃん、これ使えないかな」


 そう言ってアケミが見せたのは赤く光る4つの宝石。

 頭部に宿っていたものより一回り大きくにぎりこぶし大の、赤く透明な球体である。

 

「これはなるほど、ロックゴーレムとやらの魔物核か。等級的にも悪くないものじゃな。だが、これはおぬしらの戦利品ではないのか?」

「いいのいいの、私達の武器を作ってもらうんだしさ、使えるものはなんでも持っていってよ。いいでしょ、リーダー?」

「ああ、問題ない。俺らが持ってても換金するくらいしか使いみちはないしな」

「ふむ、それならありがたくいただこう。性質からして、鋭利補正と耐久補正にいい影響が出そうじゃな」


 そうつぶやきつつ、インベントリに宝石を仕舞う。

 一見宝石にしか見えない魔物核だが、その成分はほとんどが魔力である。

 魔力が一箇所に凝縮した結果、現実に触れる形になって現れたものが魔物核。その名の通り魔物核は魔物の姿をして現界する。

 魔物核の等級は内包する魔力が大きいほど、傷が少ないほど高くなる。

 ……というのは《エレビオニア・オンライン》の世界観知識なのだが、この世界においてもその法則が当てはまりそうだというのが手にした魔物核の雰囲気から直に伝わってくる。

 まったく、不思議な世界に来てしまったものだと改めて思わざるを得ない。

 

 

「ふう、やっと外に出られたか。やっぱり息苦しいもんだな」

「確かにのう。知らず知らずのうちに息苦しさを感じておったのじゃな」


 背伸びをしつつ、シエラが答える。

 その表情は心地よい疲労感と達成感に満ちていた。

 坑道の外に出ても、あたりはまだ昼間である。ゲラリオとしては採掘にもう少し時間がかかるかと踏んでいたのだが、魔物との遭遇が少なかったこともあり早い時間での探索が完了したのであった。

 

「土埃もついてるし、風呂に入ってから帰らねえか?」

「いいですね」

「さんせーい!」


 ゲラリオの提案に、双子が諸手を挙げて賛成する。

 アースリも異論はないようで、黙って頷いている。

 

「シエラちゃんも、それでいいかい?」

「ん、あー……まあそうじゃな。そうしようか」


 一瞬シエラの脳裏に嫌な予感がよぎったのだが、この雰囲気では断れるはずもなかった。

 

 

 入ったのは公営の銭湯であった。

 なかなか大きい施設で、鉱山労働者向けに安価に開放されているのだという。

 シエラも風呂は嫌いではないし、むしろ湯船でゆったりするのは好きなのだが――

 

 双子に連れられて入ったのは当然女湯であった。

 

 当然といえば当然。シエラは元プレイヤーの性別に関係なく今はもう生物学的にも女性である。

 男性陣と別れて脱衣所に行き、シエラは途方にくれた。

 

「……意識してはならぬ。やましいことをしているのではない。……ならばなにも問題はない……」


 もう入らないわけにもいかないのだからと意を決して、シエラはさっさと服を脱いだ。

 双子とは少し離れたところで服を脱いだので、下着代わりの旧スクを見咎められることもなかったのは不幸中の幸いである。

 


「わあー、シエラさんお肌綺麗ですねえー……」

「ほんとほんと、私たちみたいな前線張ってる人間とは違うよねえ」


 シエラは双子に挟まれて、なすがままに身体を洗われていた。

 なぜこうなったのかわからないのだが、どうやら双子にはシエラがお人形か何かにしか見えていないようだ。

 

「それにしても、こんなに細い腕でよくあんな大剣を振れますよね」

「やっぱり筋肉の質とか、魔力の運用が上手いんだろうね」


 そんな分析をされつつ、上から下まで綺麗に洗われるシエラ。

 ときたま肌を撫でられたり、身体が触れたりと平常心を保つためにシエラは口をつぐんで何も話すことができない。

 そんなこんながありつつ、彼女はようやく湯に浸かることができたのであった。

 

 双子は自分たちのことを謙遜しているが、シエラから見れば十二分に美しい女性的な体型をしているし、顔も美人である。

 そんな二人が両脇に座っているのでは、湯に浸かっていてもあまり心が休まるものではない。

 視線をよそにやろうとしても、結局は女湯なので、そこかしこで女性の裸体を見るハメになり、どうしようもないのであった。

 

 

 帰りの馬車に乗ったシエラの顔は、風呂に入る前より明らかに疲れていた。

 まあその疲れから出発後すぐに寝てしまったので、他のメンバーに気付かれることはなかったが。

 

「ついたよ、シエラちゃん」


 ゲラリオの声に意識を覚醒させると、そこはもうアイゼルコミットの宿《マウンテンハイク》の前であった。

 

「んん、すまんな、寝てしまっていた」

「いいや、寝顔もかわいらしかっ――」


 頬を緩ませたゲラリオは双子から同時に肘鉄のつっこみを食らい、身体をくの字に折った。

 ……前衛職の肘鉄は、なかなか容赦のない威力のようであった。

 

 ロビーに入ると、ちょうど7時ごろといった時間なので、ちらほらと夕食を食べている宿泊客たちが見える。

 

「では、夕食がてらこのあとのことでも決めておくとするかの」

「了解した。いやー、なかなか腹が減ったなあ」


 そう言って、ゲラリオはヘラルドに挨拶をし、夕食を5人分注文する。

 夕食が届き、一通り食べ終わってから、一行は話し合いに入った。

 

「ふむ、要求とそれぞれの武器の寸法は把握した。アースリは本当に何もいらんのかや?」

「別に、俺はいい。……こいつらに素材を使ってやれ」

「了解じゃ。炉には心当たりがあるのでな、明後日またこの宿で受け渡し、ということで構わんかな」

「了解しました。そのー……見学させてもらったりとかは……」


 残念そうにしているのはアカリだ。

 

「くくく、企業秘密というやつじゃ。高く付くぞ?」

「……じゃあ仕方ないか。今回は諦めまーす」

「まあ待っておれ。鉄鉱石も十分取れたし、緑鉄鉱にミスリル鉱、魔物核もある。よいものにしておく」


 実際には、天空城にある自分の作業場を使うため、連れて行こうと思っても連れていけないのだ。

 シエラ自身、天空城にはリコールでしかアクセスできず、この世界のどこにあるのかもわかっていないのである。


「まあということで、今日は助かった。おぬしらのチームワークも見られて、勉強になったぞ」

「いえいえ、いつでも呼んでくださいね、シエラさん!」

「おい、それはリーダーである俺のセリフだろ、アカリ……!」

「まあまあいいじゃない、また機会もあるだろうしさ」

「まったく、お前らは……」

 

 その他の細かいことを取り決め、それぞれと挨拶をして分かれる。彼らはもう少し酒を飲んでいくというので、シエラは早めに退散させてもらった。……本当はシエラも酒を飲みたいのだが、さすがに彼らに頼めたものではない。

 

「さて、仕事をしにいくか。ここからが本番じゃな。――リコール」



 ……多少身構えたが、転移した先は花畑の中央であった。

 無事に転移したことに安堵して、城へ入る。

 向かうのは、地下の工房だ。

 


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