112.もしもし
リサエラの作った魚介グラタンは非常に美味であった。
カニやエビはもちろん、加えてクラーケンや精霊魚などエレビオニア由来の食材もふんだんに使われていた。それらが上手く調和の取れた一つの料理になっているというのは、ひとえにリサエラの技量の賜物だろう。
「あー、腹一杯じゃ……。まさか三皿も食べてしまうとは」
「喜んでいただけて良かったです、シエラ様」
お腹をポンと叩いて満足しているシエラを見てリサエラも満面の笑みである。
「うーむ…………、おっ?」
椅子に身体を預けてぼんやりしていたシエラが、突如何かを閃いて声を上げる。
「どうされましたか?」
「……くくく、感謝するぞ……! リサエラよ、わしはどうやら相当に腹を空かせていたらしい。簡単かつクリティカルな解決策を閃いたのじゃ!」
そうしてシエラは工房へ行き、術式の改良から筐体の大幅な改造までを二時間でやり遂げたのであった。
「もしもーし。聞こえるかや」
『! はい、ちゃんと聞こえます、シエラ様』
完成した《伝通器一号》改め《伝通器二号》を持ったシエラは、リサエラと試験通話を行なっていた。
ちなみに、シエラがいるのはアイゼルコミットの工房で、リサエラがいる天空城に対して通信をしているのだった。
「距離による音質の劣化や使用魔力の増大は起こっておらぬな。まあこのあたりはわしの設計通りか。魔力セレクターも問題ないようじゃな」
『魔力セレクター……この機構が個体の識別を可能にする新機能なわけですね。説明をお願いできますか?』
シエラが持つ端末には、下部に新たな機構が追加されていた。
それはカードのスロットのようになっており、一番上のスロットには青く透明な細長い板が嵌め込まれている。
「うむ、この魔石板――魔力メモリとでも呼ぼうか。これが新機能の核になっているわけだが、こいつは名の通り個々人の魔力波長を記憶する機能を持っている。魔力波長を魔石に記憶させる魔法の開発には多少難儀したが……。まあ、これの空のカートリッジに自分の波長を記録して渡しておけば、その相手に通信できるというわけじゃな」
この世界の人々は強度の差こそあれど、全員が魔力を保有している。そしてその魔力はそれぞれが全く別の形をしており、シエラ的に言えば波長が異なるのである。
シエラはそれを伝通器の識別番号にしようと考えたわけだが、その情報は魔法的な次元にあり簡単に文字で表せるようなものではなかった。よってシエラはそれを無理に取り出さず、魔石に転写して定着させるという方法を取ったのだった。
『なるほど、番号を知っていれば誰にでもかけられるわけではなく、魔力メモリを持っている者同士が通話できるということですね。
一見制限があるようにも見えますが、通話をする必要がある相手というのはだいたいの場合は面識のある人間同士でしょうし、セキュリティ的にもいいのかもしれませんね』
「そういうことじゃ。わしは知らんやつからかかってくる営業の電話とかが一番嫌いじゃからな…………。ともあれ、まともに使えるようだし、ひとまずはある程度数を作って知り合いに配ってみるつもりじゃよ」
無事に試験通話を終えて、工房で一人グッとガッツポーズを取るシエラ。(正確には静かに佇んでいるハツユキが見ているわけだが)
「……そろそろイヴが帰ってくる時間か。まだ初期ロットが余っているしあやつにも渡しておくとしよう」
そう呟いていると、ちょうどイヴが玄関から入ってくるところであった。
「おかえり、イヴ。なにやらお疲れのようじゃな」
「……ただいま。まあ、ちょっとだけ」
イヴの表情に乏しい顔は一見普段通りに見えるものの、シエラはその様子に疲労感を感じていたのであった。
付き合いも長くなって多少は感情の機微が分かるようになってきたのだろうか。
「ハードな仕事だったのかや?」
「どう、かな。少し遠くのダンジョンに行って、遭難者の救助が仕事だった、から」
「なるほど、そういう仕事もあるんじゃな……。夕飯はもう食べたかの」
「うん、帰り道で。お風呂、入れる?」
「うむ、湯はもう沸かしてあるのでな。ゆっくり浸かるとよい。と、それではその後でわしの新製品をプレゼンさせてもらうとしよう」
「ありがとう。……楽しみにしてる」




