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生産職吸血鬼は異世界の夢を見るか  作者: 吸血鬼まつり
110/112

110.たまには一緒に


 夜叉。シエラは目の前の光景にそんな言葉を思い出していた。

 リサエラとゴーレム軍の戦闘は、始まってから三十分ほどで決着がついた。

 結果から言えば、ゴーレム軍は全員の機能停止で完璧に敗北したのであった。

 ゴーレム軍のチームワークは想像以上にうまく機能しており善戦したものの、やはり相手が悪かったのだ。

 リサエラを手数と戦術で追い詰める場面も多かったのだが、夜叉――もしくは羅刹と化したリサエラは襲いくるガーディアンを力で叩き伏せ、孤立したところからちぎっては投げ、ガーディアンにガーディアンを投擲して破壊し――といった戦闘で圧倒したのであった。


「あー、おつかれさま、じゃ。リサエラよ」


 戻ってきたリサエラに声をかける。

 リサエラは息こそ乱れていないものの、珍しく額に汗が浮かんでいるのがわかる。


「ありがとうございます、シエラ様」

「珍しく汗をかいておるな。これを使うとよい」


 そう言って、インベントリからタオルを取り出して渡す。リサエラはそれを受け取ってから、ようやく自身の状態に気付いた。


「え、汗……? ああっ、すみませんシエラ様、恥ずかしい姿を……」

「いや、気にすることではない、リサエラもやはり完璧超人ではないのだなと思い出せたのでな。疲れているところ悪いが、感想を聞いても良いかや? それとも一度汗を流してからのほうがよいかの」

「ええと……、それでは申し訳ありませんが、一度お風呂に行かせていただければと思います。……もしよろしければシエラ様もいかがでしょうか? 本日はずっと工房にこもって作業されておりましたので、お疲れではないですか?」


 リサエラの提案に、シエラは内心で唸る。リサエラとは何度も風呂に入った仲ではあるが、自分が女性からの誘いにホイホイと乗ってしまうのはどうなのだろうか。とはいえ、


「う、うむ、そうじゃな。今日は一段と身体が凝っている気もするし、行くとしようか」


 こうして二人とハツユキは大浴場へと向かったのだった。





「お加減いかがでしょうか、シエラ様」

「うむ……問題、ない」


 大浴場へとやってきたシエラは、倉庫番担当のエストに背中を洗われていた。

 その隣では、リサエラが管理総括のエルマに世話を焼かれている。


 なぜこんな状況になっているかといえば、成り行きに他ならない。

 倉庫街からの帰り道に偶然(?)エストに出会い、行き先を話したところ是非背中を流させてほしいと懇願され同行させたところ、大浴場前で当然のように待ち構えていたエルマと出会い、当然のように一緒に風呂に入ることになったのであった。

 どういう意図があるのかはわからないが、眷属たちの好意を無下にはできない。


 ただ、定例会議以外で眷属たちの話を聞く機会も少なかったので、ちょうどいいかとシエラは思うことにした。


「しかし、リサエラが誰かに世話されているというのも珍しくて面白い光景じゃの」

「リサエラ様は我々メイド隊の長であり、かつ偉大なる創造主様のお一人ですから、本日は私が責任を持っておもてなしさせていただきます」

「私はシエラ様のお身体を洗ってさしあげたかったのですが……」


 これもまた珍しく気合の入った楽しそうな様子のエルマと、少し悲しそうなリサエラという構図が面白く、シエラは笑ったのであった。


「エストは最近どうじゃ、仕事のことであったりとかは」


 長い銀髪を丁寧に洗われつつ、シエラがエストに問う。


「はい、日々変わりなく、毎日が幸せでございます、シエラ様。最近はシエラ様の分類術を参考にしつつ、新たにチクワ様やハナビ様が置いて行かれた品々を整理する業務が主な活動です」

「あー……あやつらは無節操じゃからのう。苦労をかけるが、まあなんとかしてもらえると助かる」

「はい、お任せください、シエラ様」


 シエラとしては今まで自分がやっていた雑用を押し付けているようで申し訳ない気持ちだが、エストの管理能力はありがたい限りである。


「ふむ、エルマはどうじゃ。城の管理は大変ではないかや?」

「いえ、今のところは私の管理能力の範囲内に収まっており、問題はありません。なにより、私がこのような責任ある役職に就けているということに毎日深く感謝しております、シエラ様」

「そ、そうか……、ならばよい。まあ、何か要望があればいつでも言ってくれればよいぞ」





 その後、身体を洗い終えたエルマとエストは素早く大浴場から出て行った。

 ここまで来たなら一緒に入っていけばいいのではと思ったのだが、彼女たちはあくまでメイドであり主人と同じ浴槽に入ることは許されないのだそうだ。

 シエラとしては何も思わないし許す許さないの問題なのかわからないのだが、おそらく彼女たち自身のプライドがそうさせているのだろうと思ったので無理には引き留めないでおいたのだった。


「ところでどうじゃった、ゴーレムたちは」


 湯船に入ってだらりと身体を伸ばしながら隣のリサエラに尋ねる。


「はい、とても素晴らしい完成度かと。手強かったものですから、つい楽しくなってしまいました」

「あー……そのようじゃな。あのクラスの装備のリサエラを抑えられるのだから、現地用としてはまあ十分じゃろう」


 先程の戦闘の様子を思い出しながらシエラが答える。久々にリサエラのバーサーカーな一面を見た気分である。

 少なくともあの国境線の戦場にはリサエラレベルの人間はいなかったし、ガーディアンゴーレムたちの国境を守るという目的は十分に果たせるだろうと思われる。


「強度は申し分ないですし、あのチームワークも脅威ですね。言葉や視線を交わすわけでもなくほぼタイムラグなしでの連携をこなしてくるというのは、何か特別な技術を使われているのですか?」

「くくく、いいところに気が付いたのう。――実はオルジアクから情報伝達術式をゲットしたのじゃよ!」


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