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生産職吸血鬼は異世界の夢を見るか  作者: 吸血鬼まつり
109/112

109.豪勢に模擬戦


「これはまた……壮観ですね」


 リサエラが息を呑む。

 すっかり模擬戦場となった城前の円形広場には、総勢十体の白亜のゴーレムが並び立っていた。

 一体は一際大きな身体の大型騎士ゴーレム《ゲートキーパー試作型》。その右手には幅広の騎士剣、左腕には身長ほどもある長方形のタワーシールドを装備している。

 他の九体は、成人男性ほどの身長と体型の汎用ゴーレム《ガーディアン試作型》。これは先程シエラが組み上げたばかりのもので、それぞれの手には剣、槍、斧、双剣など様々な武器が備わっている。

 ガーディアンについても素材はゲートキーパーと同様のものを使用しているので、その体躯に見合わず強度や重量もかなりのものである。


「こうしてみるとなかなかじゃな。これでソフト側が上手く動いてくれれば、国境線の監視のみならずアルカンシェル陣営の多大な戦力増強も可能となるのう」


 このアルカンシェルにはシエラをはじめとしたシェルメンバーが作成したNPCが百人以上存在しているが、逆に言えば百人程度しかいないのだ。

 今後、おそらく単純な物量が必要となる場面に出くわすだろうと思われるので、使いやすく大量に展開できる戦力の補強は必須事項なのであった。


「では、テストは私が行うということで構いませんか?」

「そうじゃな、頼んだ。ハツユキに任せてもよいが、ここはひとつ彼らの限界も見ておきたいしな。大破しても構わん、ある程度本気でやってくれると助かる」

「かしこまりました」


 そう言って、リサエラは一歩前に出て装備を展開する。

 いつものガントレット・オブ・ハーデスはあまりに破壊性能が高すぎるため、今回は性能を抑えてもらうように言ってある。

 取り出したのはリサエラの身長を超えるような長さのハルバード、《氷斧=エリシオーネ》。青く透明な刃が特徴的なそれは、五、六年前に実装された永久凍土ワールドの素材でシエラが作成した斧槍である。

 その地で採取できる鉱石はどう見ても氷にしか見えないのだが、絶対に溶けない上に強度は並の金属を上回るということで、オシャレ装備好きには評価が高い金属である。ただし、作成したアイテムが必ず氷属性になってしまうため使い勝手は悪いので所詮はオシャレ装備の域を出ない。


「よし、では戦闘モード、起動! モードは陣地防衛じゃ!」


 シエラがコードを術式に変換して送信すると、ゴーレムたちの瞳がビコンと音をたてて青く光る。なお当然その瞳はイミテーションであり、起動モーションまで含めてシエラ好みの演出に仕上げてある。

 起動したゴーレムたちの核が魔力を生成し、全身に動力を供給していく。

 そして彼らは素早く動き始め、侵入者を迎撃する態勢を取った。ゲートキーパーを奥に配置し、ガーディアンがそれぞれ横に広がって誘い込むような逆八字を形成する。古来より防御陣とされている鶴翼の陣である。


「なるほど、古典的ですが、効果的ではありますね。それでは……望み通り、正面から行かせていただきます!」


 優雅に一歩を踏み出したリサエラの姿が消える。少なくとも、シエラの目には消えたようにしか見えなかった。

 次の瞬間、ゴーレム軍の中央で金属同士の激突音が響く!

 リサエラの斧槍とゲートキーパーのタワーシールドが激突したのである。

 シエラには到底反応できる速度ではなかったが、ゴーレムたちにとっては十分に迎撃の間に合う間合いだったらしい。


「それにしてもゲートキーパーを真っ先に狙ったか……。確かに、指揮官を失った軍隊は弱い。ただ、そううまくはいくかのう?」


 初撃を防がれたのはリサエラにとっては少し意外だったようで、感心したような顔をしつつその場から飛び退く。

 その空いたペースには左右のガーディアンから武器が突き込まれる。

 そして、その一瞬のやりとりの間に別のガーディアンたちはリサエラの背後に回っており、死角から強襲する!


「――流石は、シエラ様の術式です!」


 そう呟きつつ、リサエラはあえてそれらを迎え撃つ。全方位からほぼ同時の攻撃、それを迎撃するには――


「戦技、《大旋風》!」


 一歩を深く踏み込み、長く持った斧槍を両腕で振り抜く。単純な動作ではあるものの、そのスキルの効果は絶大である。

 リサエラを中心とした竜巻が発生し、周囲で攻撃をしかけていたガーディアンたちは踏みとどまれず吹き飛ばされる!


「おお、やったか……!?」


 シエラがつい、そうつぶやく。

 だが、ガーディアンたちもかなり頑丈に作られている上、彼らは全身が金属でありかなりの重量がある。

 ダメージはあるものの吹き飛ばされたところから俊敏に立ち上がり、戦線に復帰していく。


「これはなかなかの長丁場になりそうじゃな」


 そう言いつつ、戦闘データをメモ帳に書き込んでいくのであった。

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