108.人形
「ひとまず、直近で必要なものは……国境線を監視する装置か。アルカンシェルをあそこに貼り付けておくわけにもいかんし、他の四大国へも睨みを効かせておきたい」
「そうですね……。眷属を配置しておくのはいかがでしょうか? 戦力的には数人で足りそうですが」
リサエラの提案に、シエラはうーんと首を捻る。
「いや、それはやめておこう。眷属たちにずっと気を張らせる仕事に就かせるのは悪いし、《リコール》を使えぬ彼女らは交代や回収が手間じゃからな。長期間放置できて、かつ侵入者を撃退できる戦闘能力を持たせるとなると……やはりゴーレムの類を作るのが良さそうかのう」
「ゴーレムというと、私のような、デスか?」
ハツユキが問う。
「おぬしも確かに広義ではゴーレムと呼べる……のか? いやまあ、今回はおぬしのような高度な知性は必要ないのでな、条件に従って命令を遂行するだけの単純なゴーレムを用意してやろう。そうと決まれば一度アルカンシェルへと戻るとするか」
ゴーレムの製作を決めたシエラたちはアルカンシェルへと転移し、倉庫区画に用意された作業用倉庫へとやってきていた。
そこにはシエラが適当に選んできた様々な素材類が積まれていた。
もっとも量が多いのは金属類である。
「やはり長期間整備なしで稼働させるとなれば筐体は金属製が良いじゃろう。かつ、見た目は威圧的で近寄ろうとする者の意気をたたき折るような……」
テーブルの上に敷かれた設計図に、シエラはカリカリと線を引いていく。ゴーレムを作るのは初めてだが、ノウハウはハツユキの製作でかなり蓄積されている。
加えて今回はハツユキの筐体ほど高度な技術を必要としない単純なものでいいため、設計は鼻歌混じりである。
「シエラ様、大きさはどうされるんですか?」
「うむ、今回も人間サイズにしようかと思っておる。やはり2メートル以内の方が小回りが効くし、森林の中なども移動させやすいじゃろ。ただ、こいつは少女サイズである必要はないし……180センチくらいにしようか」
「なるほど、確かに運動性は重要ですね。大きいと威圧感がさらに出るかとも思ったのですが」
ふむ、と答えて考えるシエラ。
たしかに、大きなゴーレムというのはいかにも守護兵といった感じで物々しく、威圧的である。
「それも一理あるのう……。ならば二種類用意するか。司令塔かつ重厚な巨体の騎士と……俊敏な小型の戦士たち。いいコンセプトではないか! 想像が膨らむのう……!」
リサエラから得たヒントを膨らませて、設計図に大幅な修正を加えていく。
出来上がったものを見て、シエラは大きく頷いた。
「決まりじゃな。さっそく作っていくとするか!」
数時間後、倉庫の中央には一体の巨人が横たわっていた。
その図体は一般的な人間よりも数段横に大きく、相撲取りに近い雰囲気だ。
ただし、その全身に纏っているのは西洋風の鎧兜である。頭部に一本角が備わっていたり全身にゴツゴツとしたエングレービングが加えられており、歴史上のそれよりはファンタジックな印象に仕上がっている。
そしてその鎧は純白に染め上げた金属で構成されており、神聖な雰囲気を醸し出していた。
「装甲は備蓄のガリオフベルとクォーツブラムの合金じゃな。頑強化と自然治癒を込めておいたからこっぴどく壊されぬ限りは理論上いつまででも存在し続けるはずじゃ」
ちなみに、素材となった金属はブラドミーアをはじめとする地下迷宮組が再生し続けるダンジョンで採掘してくれたものだ。彼らが掘った素材が定期的に倉庫へ送られてきており大量に蓄積されているため、シエラが気兼ねなく使えるようになっているのである。
「まあ内部の骨格や関節などもこの世界基準では高ランクの金属などで固めてあるし、早々遅れを取ることはあるまい。命令用の魔石も仕込んであることだし、早速起こしてみるとするか」
起動コードを詠唱するシエラの隣で、リサエラは籠手を装備した。これは戦闘用ではなく、どちらかというとバランスを誤ったゴーレムが倒れてきたりしてきたときの保険である。
シエラが起動用魔法を送ると、巨体の騎士はゆっくりと上体を起こし、手をついて立ち上がった。両脚はその図体を支えるため非常にがっしりした体格で、バランスに問題はなさそうだ。
「よしよし、制御系も上手く走っておるようじゃな。このあたりはハツユキの補佐があって助かったのう」
「自身を制御する術式のことデスので、お母様より直感的に把握できていたダケかと」
「いや、その感覚が直接聞き出せるだけでも手間をいくつも減らせるというものじゃよ。あとは運動性と戦闘能力の確認か……、まあそれは小型ゴーレムも組み上げてから合わせて確認するとするか」




