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生産職吸血鬼は異世界の夢を見るか  作者: 吸血鬼まつり
104/112

104.時間稼ぎ


 ブラドミーアと名乗ったその男性の声は、非常に強い指向性を持っているのかエリムス川の向こうに陣取るオルジアク軍本隊にも明瞭に届いていた。

 通信兵たちは必死に脳内をひっくり返して考えるものの、その名前に心当たりはない。

 中には懐から取り出したメモをめくっている者たちも少なくないが、その名前が見つかることはなかった。


「この度は、オルジアク王国の侵攻を止めるべく参上した。グラムス王国での暴挙に続き、これ以上の進軍を許すわけにはいかない」


 ということは、やはりあの天空城とやらは現状エリドソル側の味方ということらしい。ただ、今までエリドソルにそんなつながりがあったなどという情報は入っていない。

 加えて、エリドソル側の兵士たちから明らかな動揺の気配が伝わってくるのが不自然である。現在の彼らの反応は、間違っても援軍が来たような雰囲気ではないのである。

 状況は進行しているものの、結局何が起きているのかは全くわからない。それでも、そのありのままを上に伝えるのが彼らの仕事だ。

 彼らはそのプロ意識でなんとか正気を保ち、情報伝達魔法を詠唱した。





「天空城……ブラドミーア……一体何が起こっている?」

「これらの名称を識者の検索に掛けろ。何でもいい、手がかりを掴むんだ」


 オルジアク戦時作戦室に、その情報は逐一伝わっていた。彼らは紙に記されたその男の顔を睨むものの、何も思い出せはしなかった。

 また、有史以来、空に浮かぶ島など発見された記録はない。それはまさしく御伽噺の存在である。


「だが、ひとまず……やることは決まったな。交渉官を用意せねば」


 あまりにも想定外の事態が起こっているものの、彼らの判断は迅速だった。

 アレがエリドソル側の兵器で、何も言わずに襲ってくるだけであれば対応する方法は皆目検討がつかないところだった。しかし、あれはエリドソルに所属しているわけでもない上に、コミュニケーションが可能な存在だったのである。

 そうなれば兵器や災害とはわけが違う。言葉が通じる相手とは交渉することができるし、ともすれば味方につけることもできるかもしれないのだ。

 そもそも、相手から言葉を発してくるというのは交渉をする意欲があるということを示している。こちらを殲滅したいだけなのであれば、何も言わずに攻撃してくればいいのだから。


「交渉官は……本隊に従軍しているコーラムで対応できるか?」

「アレは対エリドソル向けに調整しているからな。このような状況には対応できないかもしれん」

「ならば、俺が行こうか?」


 そう言ったのは、オルジアク国王、ゴリドバーン=オルジアク。


「ご、ご冗談を……。人材の用意に抜かりはありませんので、どうかお控えいただきたく」


 その発言に、慌てて発言する軍務局長。昔から、自分から動いてしまいがちなゴリドバーンを止めるのは彼の役目でもあった。


「空を飛ぶ巨大な島。いくつもの未知の魔法に、我らの知らない重要人物。これほどの状況に、俺以上に対応できる人間がいるか?」


 ゴリドバーンは、国王の血筋という以上に、その優秀さで部下に信頼されている人物である。そんな彼の言い分はもっともなのだが、だからといって国王を最前線に送っていい理由にはならない。

 そんなところに、更に現地からの続報が入る。


『――ついては、双方には兵を直ちに引いてもらいたい。そして、今後一切中央小国群への侵攻を起こさないという約定を結んでもらおうと思っている』


 何を馬鹿な、と作戦室の誰かがつぶやく。


『と、一方的に私が言ったところで、オルジアク王国も納得できないだろう。私にも交渉の用意がある。エリドソル王国、オルジアク王国双方には、交渉のできる者を用意してもらいたい。場所はこのエリムス川大橋、日付は――二十日後としよう。

 交渉の意思があるならば、双方、国境線上に集結している兵を引かせたまえ。その意思がない場合は、国境線を超えてもらっても構わない。その場合は――残念だが、その全てを撃滅する。愚かな選択をしないことを期待している』


 通信兵の連絡によれば、この声明を発してから、ブラドミーアを映した光の幕は消えたようだ。要件は伝え終わったということらしい。


「……どうする?」

「――議論するまでもない。兵を引かせるよう、全隊に連絡しろ。グラムスには手付かずの物資が残されている。二十日間程度、後退させていても痛くはない。――陛下、交渉官の話は後ほど……ということで」


 天空城の戦力がわかっていなければ、声明を全て無視して進軍する手はあった。だが、オルジアクの千を超える魔物群が先程無数の光線という未知の魔法によって壊滅させられている。そんなものを見せられては、選択の余地は今のところなかったのであった。





「エリドソル軍、オルジアク軍双方が国境線上から離れていきます」


 ゼンからの報告を聞き、シエラは胸を撫で下ろした。彼女は久しぶりに胃が痛む感覚を覚えていたのだった。


「うむ、ご苦労。これでも兵を向かわせるような愚かな者たちでなかったらしいというのは幸いじゃな。……それにしても、迫真の演技であったな、ブラドミーアよ」


 そう言って、玉座――のように豪華な装飾の椅子――に座ったヴァンパイア・ブラッドロードのブラドミーアに笑いかける。


「お役に立てて光栄です、シエラ様。ただ、心残りではあります……この偉大なる天空城《アルカンシェル》の主は他でもないシエラ様ですのに、民たちに真実を知らせられないとは」


 そう言って心底悔しそうな顔をするブラドミーアには、冗談めかした雰囲気は全くない。よほど城の主を名乗ったことに後悔があるらしい。


「いや、まあわしが出るわけにはいかんからの。最も雰囲気のあるおぬしが適任じゃよ。高レベルだから表に立つにも安心できるしな。それに、こうして《アルカンシェル》の主を名乗らせたのはわしの命令じゃ。おぬしが何かを思う必要はない」

「ありがたきお言葉……!」


 ブラドミーアはそう言って感極まっているが、先ほどまで威厳たっぷりに言葉を述べていた重厚なナイスミドルにそんな反応をされても、シエラとしては反応に困ってしまう。

 威厳のある男性が幼女に跪いている画は、あまりよくないのではないだろうか。


「う、うむ……。ともあれ、ひとまずこれで時間は稼げたな。どう出てくるかも見つつ、色々と準備を始めるとするか」


 一旦、この戦場を収めることには成功した。あとは、これ以上の血を流さないように調整する作業が必要である。シエラたちの仕事はここからが本番なのであった。


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