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生産職吸血鬼は異世界の夢を見るか  作者: 吸血鬼まつり
101/112

101.防衛戦線


 エリドソル・グラムス間の国境は、間に横たわる川幅四十メートルほどの大河川、エリムス川と同じラインで引かれいる。

 場所を選べばゆっくり歩いて渡れないこともない、その程度の深さである。ただエリドソルとグラムスには輸出入などの交流があったことから、この川には大きく立派な橋がいくつか掛かっている。

 ――その橋の上で、戦端は開かれていた。


「なんで、こんな大量の魔物が……っ!」

「グラムスで大量の魔物が湧いたって話も本当らしい、な!」


 狼型の魔物が噛み付いてくるのを、兵士はなんとか剣を滑り込ませて防御。押し込まれそうになっている横から仲間が槍を突き出し、魔物の腹に深々と突き刺す。

 その魔物はそれで力尽きたようだが、すぐに後ろから別の魔物が現れる。兵士たちは休む間も無く対応することを強いられる。


 エリドソルの国境防衛兵たちは、グラムス側から大挙してきた魔物たちを橋の上で押さえ込んでいた。

 魔物の大群は動物型の様々な種族で構成されているようだ。

 最も多いのは狼型の魔物。ただし街道で見るような個体とは違い、体躯は二回り以上大きく、武器と呼んでも差し支えないほどの鋭さをもった牙と爪を備えている。

 そのほかにも猪、熊、馬など動物型の魔物が含まれており、それぞれで対処の方法も変わるため兵士たちは四苦八苦しているのだ。

 魔物たちの大半は無理に川を渡ることはせず、素直に橋に大挙してきているので、数で劣る兵士たちでもまだぎりぎりで食い止められている状態である。

 そこから溢れた少数の魔物は川を渡ろうとしているが、水中で動きの鈍ったところに遠距離攻撃を撃ち込んで撃退できているのであった。


「ここを破られるわけにはいかん! ここで抑えるんだ!」

「畜生、強い……!」


 国境を守護する兵士たちは、身体の能力自体は初級~中堅冒険者程度までは鍛えてある。それに加えて、国が貸し与えている騎士鎧と武器はなかなかの性能で、兵士たちの戦闘能力の底上げに成功していた。

 エリドソルは、その兵士たちの練度と二巨頭をはじめとした鍛治師たちの腕によって、これまで国境を死守してきたのである。

 しかし、今回の侵攻はそんな兵士たちにとっても非常に厳しいものとなっていた。

 これは間違いなく敵の前座に過ぎない。まだ魔物が控えているかもしれないし、更にその後ろには確実にオルジアク兵の本隊が存在する。

 彼らだけでそれら全ての相手をすることが無理なことははじめからわかっている。それでも、少なくともエリドソル軍の本隊が到着するまで戦線を抑えておかなければならないのは最低条件であった。




 未明から始まったこの戦闘は、激しさを保ったまま夕方まで続いた。

 兵士たちの疲労度はすでに限界を超えており、負傷で下がる者たちも多くなってきた。


「クソッ、もう、もたない……!」


 崩れ始めた戦線は、完全に崩壊するまでそう長くはかからなかった。

 戦線のあちこちで、疲弊しきった兵士たちを魔物の群れが食い破っていく。

 一巻の終わりだ――、生き残った兵士たちがそう思ったのと同時。

 一条の閃光が走り、橋を抜けようとしていた魔物の先頭集団を貫いていく!

 その閃光を放ったのは、はるか後方の人影。最高峰の冒険者パーティの一つ、《黒鉄》のイヴ。

 そこには他の《黒鉄》メンバーも揃っており、さらにその後ろには《白の太刀》をはじめとする多数の人影も視認できる。

 王都などから集まった、冒険者とエリドソル軍の混成集団である。


「た、助かった……! 生きてる奴は後退しろ!」


 隊長が声を張り、それを合図に兵士たちは徐々に後ろへ下がり始める。余裕のないものは負傷者を抱えて先行し、体力が残っている者たちが盾を構えて殿を勤める。

 増援の兵士たちからの援護射撃が手厚いこともあり、後退する騎士たちはほとんどが生き残ることができたのであった。

 それでも、防衛に当たっていた兵士たちはすでにその戦力の四割を喪失していた。彼らはすれ違いに突入していく兵士たちを見送りながら、橋に残された同胞たちの屍に無念を抱かずにいられなかったのだった。




「中央の大橋は任せろ、残りは他を頼んだ!」


 ガレンが他の兵士や冒険者たちに告げて、大盾を振りかざし突撃していく。

 その間にもイヴの射撃が橋を渡り切ろうとしていた魔物たちを正確に屠っていく。

 《黒鉄》が突入した大橋はかなりの横幅があるにも関わらず、圧倒的な速度で鎮圧が進んでいた。


 その他の橋でも、冒険者たちや兵士たちの勢いが魔物の波を押し留めることに成功していた。

 その兵士たちの中には、先行で配備された魔法銃の量産型モデルを所持している者も多数存在した。彼らの魔法は魔物にも非常に効果的で、戦力の向上に貢献していた。

 盾を持った者たちが侵攻を止め、その背後からさまざまな魔法が飛び、魔物の群れを駆逐していく!


「このペースなら、駆逐できるか……!?」

「――いや、見ろ! あれは!?」


 彼らの見たものは、対岸から迫り来る数多の影であった。

 

「くそっ、第二波か……! 動物型に、アンデッドも混ざってるぞ!?」


 大挙して押し寄せてくる魔物の数はおそらく第一波よりも多く、かつそれぞれの個体から感じられる強さも第一波のそれを上回っている。

 中には長杖を持ったローブ姿のスケルトンメイジなど遠距離攻撃役も混ざっており、厄介であることが一目で想像できる。

 ここからが本番だ。彼らは目の前の魔物を屠りながら、そう気合を入れ直したのであった。


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