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9、「キーホルダー」「フランス人」「鍵」

昨日と同じテイストで書きました。

この話が好きなら昨日のも結構好きかもしれません。

 その日は何の変哲もない日などではなく、流星群がとてもきれいに見える日だった。

 少し辺鄙へんぴな場所にある家は街灯の影響が少なく、流れる星たちが瞬く様を、都心部にしては限りなくいい状態で見ることができたのである。ちゃんと願い事を三回唱えることもできたから、きっと願いは空に届き、最良の夢を見せてくれるだろう。

 でも、もう夢は叶ってしまっているし、これ以上の幸せなど望めないとは思うけれど。


 私がいる家の近くに、人がいるのが見えた。

 道に迷ったという風でもないし――そもそも道に迷ってくる場所ではないのだが――一体どうしたというのだろう。


「どうかされましたか?」

「あ、この付近の方ですか? いや、実はこの付近に危険人物がいるらしいんですよ。何か知りませんか?」

「いえ、わかりません。この辺りというと、うちともう二、三軒があるぐらいですけど、そんな人見たことないですよ?」


 どうやらその人は外国人のようだった。

 嫌な予感がする。不安は先に晴らしておくべきだろう。私はその男性に問うた。


「失礼ですが、どちらの方でしょうか? なぜこんなところでこういったことを? 宗教か何かの勧誘かと思われてしまいますよ」

「ああ、これは失礼。フランスのとある組織からやって参りました。ですが、このことは内密に。相手にバレては意味がないですからね」

「フランスから? はぁ、それはまた遠いところから。あ、家族が待っていますのでそろそろ……」

「申し訳ありません。どうぞ、お気を付けて」


 もちろん家族などいない。そう言った方が逃げやすいと思っただけだ。

 だが、まずい。極めてまずい。なぜこの場所がわかった? 力を使った痕跡は完全に消したはず。あれから二年は経っているし、能力の残滓ざんしもほぼ消え去ったはずだ。それなのにどうしてあいつらに……。

 考えるは後だ。いまは現状をどう乗り越えるかを考えなければ。

 追っ手が来た以上、迂闊うかつには動けない。明日は普通に出勤した振りをして、その後に次のターゲットを見つければいいだけの話だ。

 問題ない、はず。

 それなのにどうしてだろう。嫌な予感がする。何か不気味なもやとらわれているような気さえする。


 パキン、と何かが割れる音がした。

 驚いて音のした方を見ると、鍵に付けていたキーホルダーが割れ、落ちてしまっていた。今日の帰りに買ったばかりの、新品のキーホルダー。夜空を抽象的に描いた絵画がプリントされていたのだが、綺麗に真っ二つになってしまっていた。

 見れば、根元から途切れ落ちている。劣化しない限りそんなことにはならないはずなのに、なぜかじ切れたかのように金属が断たれていた。不良品かと思ったが、そもそもこんなに簡単に落ちてしまう程度ならば、商品棚に下げて並んでいる段階で切れてしまってもおかしくないはず。


 ――不吉だ。

 そう思って、キーホルダーを拾うことなく家に飛び込んだ。

 靴を脱ぎ棄て、リビングまで走る。そこにいるに向かって《私》は言う。


「いますぐ、いますぐにあなたの体を返すわ。追っ手が来た。来ちゃった。逃げなきゃいけないの!」


 パニックになっている《私》を見て、は言う。


「落ちつきなよ。追っ手が来たって言っても、まだ姿はばれていないんでしょ? なら迂闊に動く方が危険だと思うけど。そもそも逃げずに話し合ったらいいんじゃないの? 君は本人の合意がないと体を奪わないし、情状酌量の余地はあるでしょうよ」

「ないわ。あいつらに話なんか通じない。絶対悪だと断じて、消滅させるだけ。私はただ、人間として暮らしたいだけなのに……」


 そんな願望を言ってみても、叶えてくれる者はどこにもいない。

 ああ、なんて不幸な日だろう。きっと流れ星に願ったのがいけないんだ。「もっといろんな体験ができますように」だなんて、人じゃない私が望んではいけないことだったんだ。


「落ちつけって。君が悪い奴じゃないのはわかっているからさ。どうにかするよ、私が」


 そのとき、背後で音がした。何かがひしゃげるような、鈍い音が。

 来た。来てしまった。逃げるしか、ない。


「私がどうにかする。はやく逃げ――」


 そう言い、立ち上がった彼女は、死んだ。

 頭を銃で射抜かれて、物言わぬむくろになってしまった。

 私のせいで、私が彼女に「体を貸してほしい」だなんて言ったから。どうして、どうして……!


「何で彼女を殺したの!」


 真似をしていた本体が息を引き取ったことにより、私は彼女の体を維持することができなかった。醜く薄汚い、私の元来の姿に戻ってしまう。

 真っ黒で、目もなければ顔もない。ただふわふわとそこにある《何か》。

 この姿が嫌で嫌でたまらなくて、私は人間に交渉してその体を利用させてもらっていた。

 なのにどうして、こんなことになってしまうのか。それは簡単だ。


「お前が悪魔で、そいつはお前に協力していた。それ以外に理由なんて存在しない」


 さっきのフランス人の男だった。先ほどとは違う、ドスの利いた声で私にそう言ってきた。

 この、分からず屋め。どうしてお前たちは、共存の道を選ぼうとしないんだ。どうしてお前らは、争って他方を殲滅せんめつする方法だけしか考えないんだ。


「何で、何でさ……。悪魔だって、いい子はいるのに……」

「黙れ。貴様らの言う言葉に耳を貸す気はない。そのまま黙って、死ね」


 目の前でどれだけの仲間が殺されただろう。そこには確かに人を騙して悪さをする奴もいたが、私と同じように人に歩み寄って良い関係を築こうとしていた子も大勢いたはずなのだ。それなのに、お前らは。


「どっちが悪魔だよ! こんなの――」


 ――ただの弱いモノいじめじゃないか。

 そう言おうとした私の言葉は遮られた。私はあの男によって、消されたのだ。

 まだ辛うじて意識がある。残す言葉があるとしたら、そうだなぁ、なんだろう。

 ああ、もう意識が持ちそうにない。


 もうちょっと長生き、したかったなあ

今回の四つ目のテーマは「正義」です。

最初はもうちょっと流星の話を盛り込もうかなとも思いましたが、しっくりきてしまったのでこんな感じに。


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