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7、「イカスミ」「サラリーマン」「トゲ」

 薄暗い部屋に一人、男がいた。電気が消えているのか、光は男の目の前にあるパソコンと非常口のあかりのみ。

 そのパソコンの灯りすらも男の手によって消され、部屋は一層闇に包まれる。

 その暗がりの中で、男は一つ伸びをした。視線の先には時計があり、時刻は十二時半を指し示していた。


「残業代ついてるからまだマシ、か」


 男はそんなことをつぶやきながら、立ち上がった。その暗さに慣れているのか、はたまた物を置いた場所を完璧に記憶しているのか、男は迷わずに必要なものを手に取り、スーツのポケットや鞄に放り込んでいく。

 部屋を出た男は、エレベーターの方に向かおうとして、立ち止まった。この時間は動いていないことを思い出したのである。男は反転して廊下の逆側にある階段の方へと向かって歩いた。

 建物を出ると、外は雨が降っていた。傘を持っていない男はどうしようかと逡巡しゅんじゅんしたが、夕食を食べていないことを思い出し、近くの店まで走ることにした。見れば、駅の方面にどうやらまだ開いているらしい店が見える。


「あそこでいいか」


 即決すると、男は駆け出した。真っ直ぐに走って屋根のあるところまで入ると、男は鞄を確認した。前傾姿勢で鞄が濡れないようにかばったようだったが、それでも心配なようである。

 中を見て濡れた書類がないことを確認すると、男はほっと胸を撫で下ろし、後ろを向いて店を見た。

 どうやらイカスミ料理の店らしい。可愛らしいイカが墨を吐いている絵のステッカーシールが扉のガラス部分に何枚も貼られている。


「いらっしゃいませー」


 男が扉を開くや否や、中から少し高めの男の声が聞こえて来た。まだ営業中だったようで、そのことに男は少しだけ安堵あんどする。

 店内はこの時間にしては驚くべきことに、一つ以外の全席が埋まっていた。

 皆が黙々と料理を口に運び、食べ終われば「もう一つ」とお代わりを注文している。


「おすすめのものを頼む」


 男はそう言うと、空いている椅子に腰かけた。カウンター席しかない店で、まるでラーメン屋のような気分ではあるが、不思議と違和感はないようである。

 しばらくして、男の前に料理が置かれた。どうやらイカスミカレーのようである。

 男は食べたことがなかったのか、物珍しそうな目でそれを見ていた。


「冷めちまいますぜ、お客さん」

「あ、ああ」


 言われるがままにスプーンですくい、口に運ぶ。なるほど周りの人たちがお代わりするのも頷けるおいしさだった。

 だが、男は気付いていなかった。料理を食べている周りの人間たちが、男に向かって必死で制止をしていたのを。食べてしまったのをみて、肩を落として諦めの表情になったことを。店員の男がにやりと口角を上げ、笑ったことを。


 男は食べ進め、水が飲みたいと思うようになった。

 そこでようやく気付く。自分の体が思うように動かないことに。ただスプーンでカレーをすくい、口に運ぶだけの動きしかできなくなっていることに。

 スプーンを放そうと試みたが、まるでトゲでも刺さったかのように痛みが奔り、叶わない。腰を浮かそうにもどうして体が持ち上がらず、ただただカレーを食べ続けるのみ。そこでようやく周りを見て、男は何故なぜ誰ひとりとして席を立っていなかったのかの理由を知るのだった。


 気付けば彼の隣に、新しい椅子が用意されていた。椅子には小さなトゲのようなものが無数についているが、パッと見ただけでは分からない。

 疲れきって入ってくるサラリーマンならばより気付きにくいだろう。


「いらっしゃいませー」


 そしてまた一人生気のないサラリーマンが入ってきて、椅子に腰かけた。

今回の四つ目のテーマは特には決めてはいませんが、ホラーが書きたかったんです

トゲの使い方がいまいち思いつかなかったので、大分雑になってしまったのは少し残念

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