5、「降参」「瞳」「黄泉の国」
終わった。やっと、この男を討ち果たすことができた。
私は肩で息をしながら、その事実に浸っていた。ここまで来るのにどれだけ時間がかかったことだろう。どれだけの同志を失ったことだろう。それを考えてしまうと、目的を果たしたはずなのに虚しい気持ちになった。
達成感などまるでない。あるのはただ、何とも言い難い虚脱感だけ。
行き場のない感情を、亡骸となった男にぶつける。絶命した男はごろりと転がって反転し、仰向けの状態になった。
大きく瞳が見開いていた。苦しむような、怒るような、驚くような、この残忍な男が多くの感情をそこに内包していたように思えて、薄気味悪くなって目を逸らす。
丁度よく後ろから足音がしたので、そちらの方を向く。一人の仲間がこちらに駆けてきていた。
彼女は私の隣に来ると、男の亡骸を一瞥し、私に向き合う。
「終わった、と思っていいんですよね?」
「いいはずだ。これで死んでないなら、それは本物のバケモノだろ、手に負えねぇよ」
「これで、みんなは黄泉の国に行けるでしょうか」
「さあな、でも、無念ぐらいは晴らしてやっただろ。勝手に行ってくれってもんだ」
一つ息をついて、ふと疑問に思った。
なぜあの男は降参しなかったのだろう。最初の一太刀を交えた時点で、彼我の実力の差は明白だった。その時点でみっともなく命乞いをして、金だの地位だのを盾として保身に奔ることもできただろうに。もちろんそれに屈するつもりはなかったが、この男は最後まで鋭い闘志をもって私と対峙していた。それほどまでに私と戦わなければならない理由が、どこにあったというのだろうか。
「私、みんなに伝えてきますね! あなたが勝ったこと、悪が滅びたこと!」
「ああ、頼む。私も後から向かうさ」
走って行く彼女の背中を見届けて、私は部屋の中を見回した。
ぐるりと一周部屋を歩いて、本棚に違和感を覚える。見てみれば、本来なら気付かない様な程度ではあるが、本棚の一つがまるで動かされかのようにマットが歪んでいた。
「隠し通路? いや、隠し部屋か?」
本棚の後ろを覗き込むと、何かスイッチのようなものがあるのが見えた。手を入れる隙間は無いので、本を動かして作動させるのだろう。
そう思い、試行錯誤をしていると、カチッという音と共に本棚が壁に沈んでいく。そしてそれが内開きの扉のように動いていき、華やかな内装の部屋が目に入った。
隠し部屋の中に入る。そこで私は、あの男が退くことのできなかった理由を、見つけてしまった。
今回の四つ目のテーマは「信念」です
何かこういう話をもっと掘り下げた長編を書きたいと思ってるんだけど何か思いつかない