2、「スイカ」「漫画」「優勝」
BL要素あり。苦手な人は気を付けて下さい
再読み込み、再読み込み、再読み込み。
どれだけF5ボタン(パソコンの更新のショートカットキー。ページの更新をするときに使う。更新のことをリロード、再読み込みと言う人もいる)を押してみても、結果はまだ表示されない。
ボタンを連打しながら今か今かとページの更新を待っているこの時間が長く続けば、胃に穴があいてしまいそうだ。
「そんなにやったって無理なものは無理でしょ」
後ろから誠二が呆れた声で言ってきた。そのどこか他人事のような言い方に、少しばかりムッとする。
だが、そう言いたくなる気持ちも理解できた。ひたすらページの更新を続け、もう既に三十分が経過しているのだ。昼食を作って呼びに来た恋人がひたすらパソコンのボタンを連打しているというのは何とも言いがたい光景だろう。自分だってそれで待たされたら文句の一つでも言いたくなる、と思う。
「ま、秋のそうゆう真っ直ぐなところに惚れたんだから、仕方ないかな」
突然そんなことを言われ、頬が熱くなる。
誠二はそういうことを平然と言うのだ。場所を弁えずに言うものだから、自分たちの関係がバレはしないかとヒヤヒヤする。そういったことを気にしないのはこいつの長所ではある。だが、それと同時に短所でもあるので、どうにか言い聞かせたいところだ。
パソコン右下に映る時計を見れば、誠二が呼びに来てからもう既に五分は経っていた。そろそろ飯が冷めてしまうかもしれない。せっかく作ってくれたと言うのに冷めてしまってはもったいないので、次の読み込みで更新されていなかったから先に昼食を取ってしまおう。
そう思ってF5キーを押すと、パッと画面が切り替わった。
「あ、来た!」
「え、マジか!?」
ベッドに転がっていた誠二が跳び起きて、後ろから画面を覗いて来る。
紅葉のイラストのトップページのところにレタリングされた文字で「漫画大賞選考結果発表!」と大きく見出しが付いていた。
恐る恐るそのリンクをクリックし、ページが開くのを待つ。
「自信は?」
「まあ電話来てないしダメだろ」
「なんだよそれ。優勝目指してこーぜ、優勝。百万なんだろ?」
「優勝じゃなくて大賞な。まあこういうのは発表前に確認の電話がかかってくるもんなんだよ。まあかかって来なかったってことは、そういうことだろ」
「じゃあ何で見るんだよ?」
「まあ一応、ワンチャンの願いを込めて」
そんな会話をしているうちにポンコツのパソコンの読み込みが終わり、結果が表示された。
大賞のところに俺が書いた作品のタイトルもなければ、俺のペンネームもない。ページを下にスクロールして、入賞者の部分もチェックしていく。
――ない。やっぱり、なかった。
「ほい、落ち込むの禁止な!」
そう言うと、誠二はいきなり後ろから抱きついてきた。
突然で少し驚いたが、いつものことなので黙って受け入れた。そういえば、最初にこいつに会ったときもこんな感じで落ち込んでたんだっけな。あのときはいきなり声をかけてきて何だこいつって思ったけど、こうやって話してみれば遠慮がないだけで全然悪い奴じゃあないんだよなぁ。
そんなことを考えていると誠二は俺から剥がれ、伸びをした。
「さ、飯食おうぜ。まあもう冷めてるだろうけど、温め直せば問題ないだろ」
「ああ、わりぃな。俺もなんか手伝うよ」
「いいっていいって。傷心の秋山くんに包丁握らせたら自決しかねないんじゃない?」
「何じゃそりゃ。するかっての」
「そう、そりゃあ良かった。あ、昨日スイカ買ったんだけど食べる? 秋の惨敗記念にやけ食いしちゃう?」
少しだけ、考える。
もしこいつと出会っていなかったら、俺はあの後マンガを書けていただろうか。あのまま挫けて、二度と何かを書こうとは思えなかったんじゃあないだろうか。こうやって夢を追うことも、できなかったんじゃないだろうか。
そう考えると、やっぱりこいつと会えてよかったって思う。
正直会った当初はこんな関係になるなんて思わなかったけれど、いまは心の整理も一段落ついて受け入れられている。現状に満足してるといえば聞こえはいいが、ただ今の安寧を壊したくないだけなのかもしれない。
それでも俺はこいつのことが好きだし、こいつも俺のことを好きだって言ってくれる。
「ああ食うよ。食ってやる。でかいの丸々一個でも平らげてやんよ」
いまはそれで納得してしまっても、いいのではないだろうか。
今回の四つ目のテーマは「挫折」でした
まあ今回はそこまで四つ目を意識してはいないんですけどね