1、「ウグイス」「高校生」「フルーツ」
声が聞こえて駆けていったとき、まず目に入ったのは地面にへたり込む彼女の姿だった。
駆けて来た私を見た彼女の眼は潤んでいて――それが小動物の穢れの無い目で見つめられているようで――どうにも庇護欲をそそられる。
見れば、彼女が持っていたはずの買い物袋が散乱していた。どうしてかと思い辺りを見回してみるが、近くにはウグイスの姿しか見られない。ウグイスが人を襲うとは考えづらいし、一体何があったと言うのだろう。
そう思いつつ、私は彼女のもとへ近づいて散乱した品を拾い上げた。
「あ、ありがとうございます」
恥ずかしそうに笑う彼女はどこか他人行儀で、それが何だかくすぐったい。
顔を突き合わせているのが気恥ずかしくなってきたので、私は彼女の商品袋の中のフルーツの状態を確かめることにした。よし。問題なさそうだ。彼女はこれでお菓子でも作るつもりなのだろう。材料から考えればフルーツタルトが妥当か。彼女の手料理は美味しそうだし、一度食べてみたいところである。
とまあ私の欲望は置いておいて、一体何があったと言うのだろう。
私はもう一度辺りを見回して、彼女に何があったのかを尋ねてみた。
「いきなり悲鳴が聞こえたんでびっくりしましたよ。何があったんですか?」
「あのウグイスがいきなり襲ってきたんですよ。おとなしい生き物だと思っていたんですけど、こんなこともあるんですね。繁殖期で気が立っているんですかね」
「確かに今の時期ですもんね。取られた物とかは無いんですか?」
「ええ、それは大丈夫です。買ってきた果物も無事みたいなので、本当に良かったです」
それは良かった。彼女が悲しむ顔を見るのは胸が苦しくなるから。その日の仕事は手が付かなくなってしまうから。
そんなことを口に出すことはなく、ただじっと彼女の顔を見つめる。
「どうかしました? 何か顔に付いていますか?」
「ああ、いえ。何でもないです。では、大丈夫そうなので失礼しますね、みどりさん」
おっと。思わず彼女の名前を口走ってしまったけれど、気付かれないうちに退散しよう。
そう思って彼女から背を向け、数歩歩いたところで彼女の声が耳に届いた。
「うん、じゃあね、遠矢くん」
思わず振り返る。彼女は笑っていた。見たことのない、とても嬉しそうな顔で。
ずっと待っていたとでも言わんばかりの、獲物が引っかかったことを喜ぶ狩人のような表情で。
今回の四つ目のテーマは「ストーカー」でした
え、高校生がないって?
この人たちが高校生なんだよ。忘れてたわけじゃないよ、ほんとだよ?
あ、はい。次からはちゃんと文章内に入れるよう心がけます