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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園中等部編
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祝賀会



「ウソ…こんな、私達がこんな…!」


「信じられない…」


「もうっ、もう…ッ!!」


「あたし、オリヴィア先輩のこと尊敬してるけど、めちゃくちゃ羨ましい…」


学園のダンスホールから徒歩で行ける距離に用意した衣装室の一室、数名の先輩侍女生徒に囲まれて微笑む。


「皆さん、とても丁寧でした。先生には満点と伝えておきますねぇ」


「なっ、かっ、かわッ、」


「ひゃっ…、」


「はうっ。」


「ッ、」


顔を真っ赤に染め言葉になっていない声を上げた侍女の方々に貴族令嬢としてカーテシーで礼をすると条件反射で侍女の礼をされる。


問題無しですねぇ。少し情緒がアレですが…


「ふふ、ありがとうございました。」


「ほんっとうにお似合いです、公爵令嬢様…!」


「まるで公爵令嬢様の為に作られたようなドレスですよ!アクアマリンの瞳にとても合っていて…!」


「御髪もアレンジポイントがシンプルなので控えめですけど、気後れしない優雅さを感じますっ!」


「お譲り下さった令嬢が履き安さを重視されたパーティブーツは斬新ですが、公爵令嬢様の可憐さと美しさが引き立っています…」


うっとりとした表情で褒めてくださる先輩方にお礼を言いながら鏡に映る姿を見る。


群青色のミニ丈ドレスは胸元から袖まで白糸で花を刺繍されたシースルーが美しく、腰から脹脛までのチュールが程良く可愛い。

水色のリボンを編み込んだ大きなフィッシュボーンは背中に流し、シンプルに編み込んだリボンを蝶々結びで留め、すっきりした顔周りにはストーンがついた大ぶりの青い花ピアス。

踝丈の青い総レースブーツは履き安いけれどヒールが8cmあって綺麗に見える。

それらを無地の白いストールで纏めた私。


お譲り頂いたドレスなのに私の色彩にとても合っていて、綺麗に着飾る事が幼い頃から好きな私は頬が緩む。


そんな私を見て悶える先輩方を微笑み眺めながら、此処にオリヴィアが居たらきっと奇声を発するのだろうと愉快な気持ちになった。


全身の最終チェックが終えた頃、部屋をノックされ通すと数名の高等部一年生、中等部三年生の侍女科の方々が数着のドレスを抱えて来た。


その様子に目を瞠り私を見る卒業間近である最高学年の侍女先輩方に柔らかく微笑み、すっと身を引き今来られた侍女科の先輩方と立ち位置を変わる。


「影の立役者であり、卒業される先輩を送る会も込めていますの。ですから先輩方から学んだ事、身を持って知って頂きたいとの声がありまして…。素敵な淑女として参加してくださいませねぇ。」


「っ、」


「そんなサプライズ…っ、」


「泣きそう…」


「約二名もう泣いてるわよ。」


瞳を潤ませる先輩方に一後輩としての礼をして部屋を出た。


きゃっきゃと明るく楽しい声がして頬が緩み、心がとても穏やかになりながら会場であるダンスホールへの廊下を歩いていると少し離れた場所に礼服を着たアーグが居た。


「あら、どこの子息かと思いましたわぁ。」


「…堅苦しいんだよ、コレ。よく着てられんな。」


顔を顰めるアーグは黒いYシャツに黒のベスト、黒のジャケットに黒と青のゼブラ柄のネクタイ、黒の革靴という姿。


いつも後ろで緩く結んでいる紅い髪をオールバックにしているから、普段は見えにくい軟骨の青いピアスが見えて自然と微笑みが浮かぶ。


「とっても格好いいですよ、アーグ。」


「ありがとうございます。お嬢様も綺麗です。」


「ふふふっ」


丁寧に言うアーグが面白くて口元に手を当てて微笑いながら、差し伸べられた掌に手を添えてエスコートされて歩く



夕日が差し込み明るい、けれど冷たい空気が漂う廊下を二人静かに歩く時間はとても久しぶりだった。


私に近寄るのを避けていたアーグが今こうして私の傍に居てくれているのはどうしてなのかと疑問は抱くけれど、その思いよりも喜びの方が大きくて。



やっぱり私は弱くて、卑怯だ。



「ねえ、アーグ。」


「あ?」


いつもの怠そうな声に、柔らかい声で問う。


「卒業後の進路、決めましたか?」


「…………。」


「私は貴方が良い家の護衛騎士になれればと思っていましたけれど、あの子達を追って旅をするのはどうですか?」


リダ達と自由に、宛も無く旅をするのがアーグには向いているとずっと考えていた。


堅苦しい事が嫌いなアーグには、私の進む世界は苦しくて、生き辛いと思うから。



微笑み見上げた先、夕日に照らされたアーグは私を見下ろして、穏やかな笑みを浮かべていた。


「オレ、もう決めてっから。」


「……そう。」


何処なの、とは聞けない。


心臓が抉られるように痛いから。

きっと、相手の方を嫌に思ってしまうから。


何も言えない。何も言わない。

だけど、


「アーグが行きたい場所に行ってくださいねぇ」


私の唯一が幸せでいられる場所でありますように。


その願いは偽りでも強がりでもなく、私の本心。








「闘技祭祝賀会に参加してくれて感謝する。この日の為に高等部二年、一年、中等部三年が力を合わせて準備したこの会を皆で楽しもう。」


殆どの生徒が出席した祝賀会の開催を生徒会長であるリアム殿下が口にし、ドレスや礼服で着飾る華々しい男女がホール内をくるくると回っていく


端に用意した食事スペースに行く方、談笑する方、貴族出身の何名かはホール中心で流れる音楽に乗りダンスを踊っている。


それを眺めてキラキラと目を輝かせる平民出身の方もいれば、少し引き攣った表情の生徒もいる。


けれど誰もが会場の雰囲気に何処か浮き立つような気分を抱えていらっしゃった。



「ルーナリア、可愛いな。」


「まぁ。ありがとうございます、リアム殿下。殿下もその礼服、とてもお似合いですわぁ」


黒のYシャツにグレーのベスト、ジャケット、ネクタイに青いネクタイピン、黒の革靴を履き、いつもは下ろしている前髪をセンター分けにして緩くけれど清潔感のある髪型にされているリアム殿下はただただ格好良い。


女子生徒も顔を赤らめ黄色い悲鳴を上げる方が大勢いらっしゃった。


中には殿下の格好の色味に様々な想像を膨らませる方もいらしたけれど、これは合わせたわけではありません。断じて違います。


リノさんがレオン先輩を連れて食事に行ってしまったから私と殿下、二人になってしまってどうにも気不味い。


話題を、と表面には微笑みを浮かべながら考えていると、目の前に手が差し伸べられる。



「一曲お付き合い頂けますか、美しい御令嬢。」



目を細めながら言うリアム殿下に息が詰まり、周囲の黄色い歓声にやっと身体が動く


大勢の生徒の前で会長であり、王子である殿下を蔑ろにするほど私の肝は座っていない。

拒否したときにリアム殿下が何をなさるか不安だったのもあるけれど、想う殿方に願われて拒否するのは少し勿体無いもの。


「宜しくお願い致します。」


ふわりとスカートを摘み一礼して、差し伸べられた手に軽く手を添えた。


それに目を細め口角を僅かに上げたリアム殿下が添えた手を握るように掴み、軽く引っ張られて身体が密着する。


「っ、な、にを、」


「踊るならこの距離だろう?」


「…………。」


そうですけど、そうじゃないでしょう。

引っ張る必要ないでしょう。もっとこう、ちゃんと手を合わせて腰に手を、……それもちょっと…、


「俺と踊るのは初めてではないのに、何故そんなに慌てているんだ?」


楽しそうな目をして私を見下すリアム殿下にキュ、と胸が締め付けられて頬が赤らむのを感じて俯く


「………意地悪しないでください。」


「……可愛いな、ルーナリア。」


「やめてくださいと言いましたのに…!」


「意地悪ではなく本心だ。」


「っ、も、ほんと、やだ…」


ダンスで両手が塞がっているから赤らむ頬を隠す術が俯く以外になく、俯いてリアム殿下の視線から逃れる。


それでも頭上からする楽しそうな喉を鳴らす笑い声が羞恥を齎して、落ち着こうとダンスに集中した。



「まぁまぁまぁ…!なんて甘い雰囲気なの…!」


「会長のあの御顔、眼福というより毒ですわね。」


「いえそれよりもあのルーナリア様の乙女な姿ですよ!あの事件の演技とは比べ物にならないくらいではないですか!?」


「会長のネクタイピンが青色ですから、もしかしてルーナリア様を意識されて…?」


「…………」


「…………」


「………………尊い。」



「…見たか、あの会長の顔。」


「銅像みたいな人かと思ったら違ったな。」


「公爵令嬢様も年相応の女の子なんだなぁ…」


「めちゃくちゃ可愛いよな!」


「な!いつもよりめっちゃ――狂犬が見てる。」


「ン"ンッ!……あー、なんだ、会長も男だな!」


「以前よりあの御二人はそういう雰囲気があっただろう。会長の名前を呼ぶ異性も公爵令嬢だけだ。」


「すげぇな、徹底してる。」


「その姿勢も男として見習うべきだな。」


その様子を男女共に注目され、祝賀会後に『第一王子殿下、アクタルノ公爵令嬢様を推す会』が大盛り上がりになるのはまだ先のこと。




無事に一曲踊り終えたところでリノさんがある人物を連れて此方へ来た。


紺色のエンパイアドレスを着こなす、普段は剣を片手に勇ましく闘う彼女の姿に微笑む。


「エレナ様、とてもお似合いですわぁ」


「ありがとう。ルーナリア様も本当に可愛いです。そのドレス、私の姉の物ですがやはり着る者が変われば印象も変わりますね。姉の時は可愛いなどと思いませんでした。」


笑顔で何とも対応し辛い事を言うエレナ・ジャナルディ伯爵令嬢様の横でリノさんが笑いを耐え切れずに吹き出している。


確かにエレナ様の姉、セレナは可愛らしい顔立ちではあるけれどドレス姿はあまり想像できない。失礼な事だけれど。

魔導士団の隊服で剣を携え果敢に魔法を繰り出す姿が一番想像できて、一番らしいと思う。


「セレナは素晴らしい生粋の魔導騎士ですもの、隊服姿は素敵よ。けれどドレス姿も一度見てみたいですわぁ。」


「……それは、姉も喜びます。」


嬉しそうに表情を綻ばせるエレナ様はお姉様を心から慕っているのだと微笑ましく感じた。


「それで、如何か致しましたの?」


此方へ来た要件をリノさんに伺うと、少し表情を曇らせてエレナ様を見上げる。


「その…褒賞の話をしてたんだけど…それが、ちょっと如何するべきなのかと、」


「生徒会で用意出来るモノなら何でも良いんですよね?」


「エレナ様は高等部女子優勝者ですもの、勿論褒賞は出来る限り用意いたしますよ。」


歯切りの悪いリノさんと、期待に満ちたエレナ様の様子に穏やかに微笑みながら言うと、エレナ様がパァッと表情を輝かせて会場を慄かせる発言をした。


「私と一日デートしてくれませんか、ルーナリア様!」


「…私と?」


「はい!私と一日、ショッピングデートです!色んなところを周って着せ替え…失礼、お色直ししながらお茶したいなと!」


どうやらエレナ様は、一日私で着せ替えショーをしたいらしい。


私の予想では一戦交えて欲しいと言われるのかと思っていただけに、思ったより楽しそうな褒賞に微笑みが溢れる。


「勿論です。一日私とデート致しましょう?」


「本当ですか!」


「ええ、楽しみですねぇ」



「…会長、生徒の嫉妬の目がヤバイです。」


「…生徒会除外は撤回するか。」


「会長ッ!!?」


来年に向けての戦が始まった瞬間である。





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