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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園中等部編
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従者の役目と私心

後半オリヴィア視点。



「アクタルノ令嬢様、こちらのドレスは中等部二年生の物で間違いありませんでしょうか。」


「えぇそうですわぁ。それとこちらのケースも中等部二年生の物ですのでリノさんにお渡ししてくださいませねぇ。」


「畏まりました。」


侍女科の高等部生徒がドレス片手に頭を下げて素早く、けれど淑やかに動き


「アクタルノ令嬢様、男子生徒の礼服の確認は全て終えましたので、会場内の装飾に移ります。」


「まあ。早いですねぇ。会場はレオン先輩が取り仕切っていますので判断は其方で仰いでくださいな。ご苦労様でした。」


「失礼致します、ありがとうございました。」


執事科の高等部生徒が恭しく、けれど堅実に動き


「アクタルノ令嬢様、会長より此方の警備の最終確認を命じられました。」


「初等部、中等部、高等部と六つの衣装部屋の警備に各五名。交代制にするかは其方の判断でお願い致します。」


「承知致しました。…では、変更なく四時間での交代制で巡回します。侍女科、執事科の責任者には私から伝えさせて頂きます。」


騎士科の高等部生徒が腰に剣を携えて堂々と臆することなく、早い判断をして動く。


その様子を真剣に観る教員勢と中等部生徒。

生徒会は指示をする立場にいる。



卒業を目前とする最高学年である彼等の最終試験を交えた祝賀会準備。

リノさんの提案で貴族平民関係なく参加出来るように、闘技祭前から上級生や同級生の生徒に頼み着なくなったドレス、礼服、飾り物などを集めた。


支度や案内、様々なセッティングを侍女科と執事科の生徒がして、貴重品が万が一にも盗まれないように騎士科の生徒が見回る。


これから各々が異なる施設や貴族家で従事する時に必須となる自身の役目を果たせるかの試験。

今のところ私からして減点になるような事は一切起きていない。

皆様素晴らしいと思う。まともな従者を間近で見たのは片手の数しかないけれど、姿勢も眼差しも意欲も申し分ない。



「アクタルノ令嬢様、ドレスの確認、移動、全て終えました。此方も会場の装飾に移ります。」


「ご苦労様でした。私は今一度回ってから会場に向かいますねぇ」


「では数人お付けします。」


「ありがとう。では三名、お願い致します。」


「…畏まりました。」


少し息を詰めた彼女が私が試しを入れた事に気付いたのか、僅かに顔を強張らせる。


端で手に持つ紙に筆を走らせる教員勢と目を輝かせる中等部生徒勢に見えないように柔らかく微笑みかけると、引き攣った笑顔が返ってきた。


「どんな時であっても一人にしてはいけない。その教育がしっかりなされていますねぇ」


「いつも忘れないようにしたいと思います…」


「ふふ。その時の状況によるかもしれないけれど、今回は正解ですよ。」


「ありがとうございます…。」


少し目を虚ろにして言う彼女は先輩ではあるのだけれど、何だか揶揄い甲斐があって面白い。


「さあ、行きましょうか。」










「お嬢様、今頃わたし以外の侍女を連れ歩いてるんだ…。って考えたら胸が張り裂けそう。」


「キモ。」


「今ので裂けたよ、アーグ君。」


お嬢様が居られない寮室でわたしとアーグ君、そしてクロ君が集まっていた。


何故集まっているのかと言うとお嬢様が待機を命じられたのと、アーグ君が安静にしているように監視するように仰せつかったから。そしてお嬢様がいらっしゃらないならお嬢様の前でしたくない話も出来るからクロ君を招待した。


「セスさんは領地の監視?」


「正解。」


「何か異変は?」


「…侍女、来訪。お嬢、嫌悪。おれ、猛烈嫌悪。」


「クロ君が嫌うなんて珍しい…」


あのスケベ王子より無表情で瞳に感情が宿らない、身内以外の人に無関心なクロ君が誰かに対してそんなふうに言うなんて本当に珍しい。


机に置いたお嬢様手作りのクッキーをさくさくと小動物のように食べるクロ君の瞳には確かな嫌悪感を感じた。


「侍女なあ…?……アレか?あのクソ女。」


「猛烈不快。猛烈嫌悪。」


「待って、その侍女は誰?」


ソファに身を投げて適当にクッキーを掴み食べていたアーグ君が顔を盛大に歪めながら低く唸るように言い、クロ君が猛烈に嫌悪を表す中、わたしだけ理解できない。


「サーナっつー糞女。」


「…お嬢様の元専属侍女の人。」


この世で一番綺麗で可愛くて優しい素敵なお嬢様を蔑ろにして、お嬢様に傷をつけた元公爵家の侍女。


「正解。侍女、妊娠。」


「…糞ジジィはねぇな。」


「公爵、不能。」


ずっと、お嬢様の心に影を差す女の人。


フランさんが生前、わたしに教えてくれた。


お嬢様が一番最初に愛して欲しいと望んだ相手は、サーナという侍女だったと。



『お嬢様の傍にはずっとサーナが居たの。朝も、昼も、夜も、夜中も。四六時中お嬢様の傍で微笑んで優しく、お嬢様を愛していた。でも旦那様が戻るとサーナはお嬢様を見なくなる。だからお嬢様は旦那様が苦手だったのよ。』


『でもお嬢様は今…』


『旦那様に見てほしい、愛されたいと苦しんでいらっしゃるわねぇ。それも一種の洗脳よ。サーナが愛している()()()()()()()()()()()()()()()、サーナだって私を見てくれるかもしれない、って。サーナはお嬢様にいつも旦那様を尊敬しなさい、敬いなさい、感謝しなさいと呪文のように言っていたの。お嬢様はそれが苦しかったでしょうね…』


悲しげに目を伏せるフランさんは、お嬢様は洗脳されていると言っていた。


サーナが父を愛しているから、父に愛されている私ならもっと一番に思ってくれるんじゃないか。だったらもっと頑張ろう、お父様に見てもらうために。


その思いが捻れて、歪んで、ただお父様に愛されたいに変化した。

元々あった実の親に愛されたいという小さな願いが膨れ上がって、爆発しそうな時に、壊れた。



お嬢様が今、あのような考え方をしてしまうのはサーナという元侍女も原因だ。


そんな相手をお嬢様に近づけるなんて到底許容出来る筈がない。


「その人が妊娠して公爵家に来たのなら、当主の子を宿しているとでも言ってきたの?」


「正解。王宮、監視、追放。」


「王城の監視が追い払ったのなら良かった。お嬢様の前に現れなければ良いけど…。」


「あの糞女が追い払われた程度で諦めるとは思えねぇな。公爵家から出て行ったのも想定外だった。」


面識があり、会話をした事もあるアーグ君が眉間に皺を寄せて空を睨みつける。


「そんなに執着凄いんだね…」


「狂ってるぞ、アレは。糞ジジィに盲目過ぎる。」


「狂愛。侍女、お嬢、嫌悪。」


「お嬢様を嫌うなんて絶対神経可笑しい狂ってる。そもそも幼い頃のお嬢様を知っているのが許せない傍に居てたのも許せない…!!」


「てめぇも大概狂ってんな。」


「同類。」


呆れの目は気にしない。本当の事しか口にしていないもの。


「…ま、お嬢のとこに来る前に消せばいい。」


「こっちに来る?」


「間違いなくな。お嬢にどういう事かっつってキーキー喚くだろ。めっちゃ想像つくわー腹立つ。」


「検問。セス、報告。」


それだけを言うとクロ君がフッと姿を消して去って行った。


流石天性の影と暗殺者に言われる実力者。

その能力持っていたらどんな時でもお嬢様のお傍に四六時中居られるのに…って何百回思っただろう。


「顔きめぇ」


「アーグ君、女性にそう言う言葉は言っちゃ駄目だってお嬢様にも言われてるでしょう?」


「うるせえ」


バリバリとクッキーを平らげていくアーグ君に溜め息を吐いてティーポットに手を当てて中を混ぜる。


温めるときに毎回お嬢様に指導してもらったことを思い出して幸せになれる。ああ、あの頃のわたし、グッジョブ!


「だから顔きめぇって。」


「んふふふッ!」


アーグ君の言葉だって気にならないくらい幸せ!


さっきまでのドロドロとした感情が浄化されてやっぱりお嬢様って天使なのかと思う。可愛過ぎる死神だったり、可愛過ぎる小悪魔だったり、可憐過ぎる天使だったり、美し過ぎる女神様だったり…いや、お嬢様の存在そのものがもう尊いモノなんだ。


もう国中、ううん、世界中の人に言いたい。


うちのお嬢様尊いって。



だから、ほら。


お嬢様が傷ついてしまうかもしれない前に消さないと駄目だと思うんです。



「アーグ君はどうするか決めたの?」


「あ?」


「お嬢様、このままだとアーグ君のこと捨てちゃ―――ッ、」


息が苦しくなるほどの圧を向けられて言葉が出なくなる。


止めてほしい、同僚で同士なのに。

わたしに闘い方を教えてくれた師匠でもあるけど。


「テメェ、次はねェからな…」


瞳孔開きまくってギラギラと獲物を見る目を向けられて、心とは裏腹に本能が訴えて身体が動かない。


猛獣に威嚇されてる小動物…?

いえでもその小動物も猛獣もお嬢様のペットなんだって考えたらお嬢様って本当に凄いなぁ。極端なの飼い慣らして…流石お嬢様、世界一!!


「だから顔きめぇんだよ、てめぇは。」


「んふふふッ!」


緩む頬に手を当てて今頃生徒会の職務をされているであろうお嬢様に思いを馳せる。


きっと大勢の人がお嬢様の凄さと尊さに平伏するんだろうなぁ…わたしもそこに居たかった…。でもお嬢様にアーグ君を見張れって命じられたらきちんと熟さないと。だってお嬢様の命令だから!!!



「それで、どうするの?」


「……黄色が手ぇ貸すっつったから、まぁ、今年でケリつける。」


「スケベ王子、どうしたんだろう。アーグ君に手を貸すなんて…この間の貸し?」


「使えるもん使うだけだ。アイツが後々めんどーなこと言ってきたらお嬢に回す。」


「そういうとこ、良くないと思う。いくらお嬢様が喜ばれるからって頼るのは……ズルい…!」


「ハッ。」


鼻で笑った!!!性格悪い!!


こんな時、お嬢様が傍にいらっしゃったら泣きついて役得得られるのになぁ…。お嬢様に撫でられるの至福だし、香り嗅げるし体温感じられるし膝に縋れるし……会いたいなあ。


「で?」


「うん?」


「お前はどうすんだよ?」


「ん?何が?」


問の意味がわからなくて聞き返すと怠そうにクッキーを摘みながら、怠そうに言う。


「お嬢がお前のこといらねーっつったら。」


「取り敢えず泣き落としします。」


「頑固なお嬢に効くか、それ。」


「それが駄目なら1ヶ月様子見てもらって、それでも駄目なら死ぬって脅します。」


「それが駄目なら?」


紅い瞳を細めて楽しそうに嘲笑うアーグ君にいつものように微笑む。


「そのまま逝くと思います。」


「ッぶあっははは!テメェも狂ってんなぁ!」


心底面白そうにお腹を抱えて笑うアーグ君に「自分もそうでしょ」と言いたくなったけど止めておく。


これ以上刺激すると今度は絞められそうだもの。

わたしはそういうとこ察しが良いんです。お嬢様の侍女ですから。


「……あ、でも、お嬢様の中に居続けるのも良いけど、お嬢様の為に色んなところに行くかも。」


「あ?…あぁ、リダ達みてーに?」


「わたしならこの特異な身体で国の研究所に入れるから…うん、これも候補に入れておこうかなぁ」


「アイツ等ぜってぇお前の身体弄んぞ。」


「そうだと思う。お嬢様もそれ案じてくれると思いません?」


「手放さなくなりそーだな。」


「………、やだ、想像したら尊死しそう。」


「だから顔きめぇって。」




歪んでます。狂ってます。

でもやっぱり緩和要素は失いたくないオリヴィア

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