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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園中等部編
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表彰式とお披露目



「いきます、アーグ君。」


「おう。」


「えい。」


「ッテェ…」


「自業自得だよ、全くもう。お嬢様がどれほど心配なさっていたか解る?本当に可愛かったんだから!」


「じゃあいーだろ別に。」


「良くないよ!確かに心配そうなお嬢様の御姿は庇護欲が掻き立てられるし本当に可愛いけど心配させたくはないでしょう?いやお嬢様に心配されるってめちゃくちゃ幸せなご褒美ではあるけどやっぱり心配させるより喜ぶお嬢様の方が良いというかいえ勿論、勿論どちらも可愛いけどわたしの心情としては喜ぶお嬢様の可愛い姿の方が良いと思うの。」


「お前ほんとうるせーな。」


消毒液片手に力説するオリヴィアと怠そうなアーグの傍ら、医務室のベッドに腰掛ける傷だらけのリアム殿下に頭を下げる。


「私の従者が大変、申し訳御座いませんでした。」


「闘技祭とはこんなものだろう。ルーナリアが気にすることはない。」


無表情なのに目を和らげてそう言ってくださるリアム殿下に再度深く頭を下げた。


闘技祭の決勝でアーグとリアム殿下が試合なさるのは毎年の事で怪我もある。けれど今回の試合は何処か可笑しかった。


アーグは私相手にしか出さない火の虎を放ったし、異様に怒っていた。観客席の令嬢が顔を青褪め席を立つほどに。


最近の様子もあって何かあったのではないかと心配になる。けれど試合が終わって直ぐ様二人のところへ向かえば、最近の様子は何だったのかと拍子抜けするくらい普通だった。


怠そうに可笑しそうに「初めて黄色と引き分けになった」と言うアーグと「来年こそ勝つ」と淡々としたリアム殿下。

身体はボロボロなのに表情は晴々としていて何が何だか詳しく聞く前にとりあえず医務室に連れてきた次第。


本当に何が…


「…そこまで気にするなら俺の手当はルーナリアがしてくれないか。」


「はい、わかりました。」


「……役得。」


「…聴こえてます、殿下。」


何が役得なのかと言いたいけれど今は菌がたくさん入ってしまう前に消毒しなければ。


大神官様が治癒されたのは骨のヒビと破れていた鼓膜、出血の多かった箇所の皮膚を繋ぎ、軽症は消毒や包帯で何とかするようにとのことだった。


それに関して異論は無い。自己治癒能力は必要ですから、神官様方の力に頼ってばかりはいけない。


リアム殿下が腰掛けるベッドの側に置かれた椅子に座り、傷の深い右腕上腕に消毒液を染み込ませたコットンをピンセットで挟みぽんぽんと当てていく。


その様子を無言で見ているリアム殿下に何とも落ち着かない。ちょっと距離が近いということもあって息を止めてしまう。


「息。」


「ッ、」


「止める必要はないだろう?」


揶揄いを含む声音に思わずコットンを強めに押し当ててしまったのは仕方がないと思うの。

「っ、」と痛みを感じたらしいリアム殿下の声に「あら申し訳御座いません手元が狂いましたわぁ」と微笑むと何故か楽しそうに目を細められた。


調子が狂う。

話題を変えなければ。


「リアム殿下。フィオナさんの事ですが、」


「ああ。」


楽しそうに細めていた目がいつもの無に戻り、表情も一切感情を感じられない無になった。通常運転の方が落ち着く。


「激しい試合に気分が悪くなられたようで、この後の表彰式を欠席したいと仰られています。」


「却下。」


考える間もなく仰られたリアム殿下に予想通りの返しだと微笑みを浮かべる。


「私もそれは許可出来ませんと申しました。ですが彼女の心情を考え、顔を隠すものを付ける許可を頂けませんでしょうか。」


「…髪が見えるなら良いだろう。」


聖女にしか現れない白髪が本物である証明。

これ以上、貴族や国民の疑心を増加させるわけにはいかないからフィオナさんにはこれで頑張ってもらうしかない。


「自分から言い出したくせにめんどくせぇな」


「アーグ君、思っていても言っては駄目な事もあるんだから。」


顔を顰めるアーグと無表情のオリヴィアの心情は中々に良くないものらしいけれど、怖くなるような試合をしたのは自分だとわかっているかしら。


オリヴィアはフィオナさんが気に入らないだけでしょうけれど。


「紅髪も侍女も、言う場所は考えろ。」


……否定なされないのですねぇ、リアム殿下。






《今年も熱い試合が繰り広げた闘技祭の順位は初等部優勝者、男子――、女子――。中等部優勝者、男子ガルド・バルサヴィル様、女子ルーナリア・アクタルノ嬢。高等部優勝者、男子引き分けによりリアム・ロズワイド様、アーグ様の二名、女子エレナ・ジャナルディ嬢。


そして初等部中等部優勝者決勝戦の勝者は去年同様中等部優勝者、ガルド・バルサヴィル様とルーナリア・アクタルノ嬢です。


――以上。審判員からでした。》


盛大な拍手に包まれる闘技場。

けれどその視線は私の後ろに向いていた。


ある者は興味深く、ある者は喜び、ある者は驚愕して、ある者は顔を引き攣らせて、ある者は僅かに顔を青褪めさせて。


しかしその視線もある人物が一歩前に出て口を開く動作をすると矛先が変わる。


《今年も良い試合ばかりだった。自分自身、引き分けではあったが良い試合が出来たと自負している。皆も良い経験を得たことだろう。》


堂々と壇上から生徒を見渡して話すリアム殿下の姿はやはり格好良くて、女子生徒から熱い眼差しが。男子生徒から尊敬の眼差しが向けられている。


《来年に向けてまた切磋琢磨してほしい。


そして今年から闘技祭の後に生徒自由参加の祝賀会をダンスホールで行う。そこで優勝者に褒賞が与えられる。勿論、生徒会員は除外してな。》


生徒から多く寄せられていた闘技祭優勝者への褒賞を望む声はかなり前からあったらしく、去年から生徒の願書を集め教員方を押し込める事に成功した。


生徒会から除名された初等部生がやらかした書類はこの件に関しての事だったのでかなりの反感、そして後押しを得た。


学年関係なく生徒全員が楽しめるパーティ

優勝者への褒賞も生徒会で考えたり、出来るだけ望みを叶えたりする。

完全に裏方、開催側の生徒会には得がないけれど、個人としての評価や人脈作り、生徒会の評価が上がって損はないと皆で頑張ったのだ。



《パーティは明後日の夕方。詳細は各学年の主席からするように伝えてある。生徒会からは以上だ。

――此処からは王家の者として話をする。》


少しだけ柔らかかった雰囲気が威圧感のあるモノへと変わり、離れていてもその声音から感じ取ったのか生徒全員が佇まいを正してリアム殿下を見た。


観客席まで静まり佇まいを正す中、リアム殿下が此方を振り向き口を開く


《ロズワイド王国の側妃スカーレットを救ってくださった『聖女フィオナ』だ。急に現れた存在に皆が疑心を抱くのは致し方ない。だが、この髪が聖女である証明であると誰もが理解出来るだろう。》


有限を言わさない言葉、口調にソレが事実なのだと植え付けられる。


白髪である証拠と共に王家の継承権を持つ人間が公の場で言ったのだから、取り返しはつかない。

王家の言葉は重く、強い。


《聖女殿の後見人は報せの通り側妃スカーレット、ルーナリア・アクタルノ公爵令嬢だ。聖女殿に面会、依頼のある場合は其方へ文を出すといい。(もっと)もまだ慣れない環境に聖女殿も戸惑いながら生活されているので当分控えて頂きたく思う。》


無表情で淡々と話すリアム殿下の暖色系であるはずの琥珀色が冷たく光り、好奇の目を向ける生徒、観客を見据える。


その目は「言ったからな」と語っていて、ゴクリと唾を呑む音が聞こえるほどに圧があった。


そんな圧に呑まれる空気の中、リアム殿下が私を見て視線で前に出ろと仰られた。

緊張で身体が強張らないように一度深く息を吸い、いつもより優雅な微笑みを浮かべる。


《聖女フィオナ様の後見人を承っております、ルーナリア・アクタルノと申します。第一王子殿下が仰られた通り、聖女フィオナ様は現在勉学、所作、聖女の役目を識り果たそうと努力されていますので、皆様どうか今暫く御時間を頂けますようお願い申し上げます。》


言い終えると場内のいたる所から拍手が送られた。


闘技場の一部、中等部一年二組の皆様が盛大に拍手をされているのを見て思わず微笑みが溢れる。

折角温かな拍手を。そして多くの温情を頂けたのだから、いけるかもしれません。


後ろを振り返り腹部でギュッと拳を握っている目元をレースで隠したフィオナの手を取る。

ビクッと身体を震わせたフィオナさんに顔を近づけて柔らかく微笑み、手に取った手を優しく包む。


「フィオナさん、お名前を言うだけで大丈夫です。皆様の前で一言だけお願い出来ませんか?」


「えっ、でも…あたし……、…、」


レースで隠された奥、深い水色の瞳が私を見つめて不安に揺れる。


大丈夫、ゆっくりで良い。と言う事だって出来る。彼女はそれが許されるのだから。

でもそれはフィオナさんにとって良い事ではない。

今後の国民の反応も、貴族の疑心も解れさせた方がフィオナさんにとっても良い方向に繋がる。


「では、私と一緒にカーテシーをしましょう。」


「え…?」


心細くか弱い声に微笑み、包み込むように繋いでいた手を緩く引っ張って一歩足を動かさせる。


初めて動かれた聖女様に会場内がざわざわと色めき立つのを感じて、フィオナさんの身体が強張った。

繋がる私の手を必死に掴む力が少し痛いけれど、腰を抜かさず、逃げ出さずに立つフィオナさんは賞賛に値すると私は思う。


「私に合わせてくださいませねぇ」


こんな時こそいつも通り、ゆっくり穏やかに。




繋いでいない手でスカートの端を持ち、緩く膝を曲げ腰を落とす


何百、何千、何万とした貴族女性の所作。

し慣れた動作がこうも胸を跳ねさせるとは。



そんな私の心中など知られることはなく、一拍おいて盛大な拍手と歓声が響き渡った。




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