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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園中等部編
94/152

不器用な忠犬

リアム殿下視点。



闘技祭が始まり初等部、中等部の優勝者が決まり、次は高等部のトーナメントが始まり既に決勝戦。


《何と言ってもこの学年、毎年決勝戦が変わらない人達なんですよね。中等部一年女子は言わずもがなですが、此方も最早毎年のメイン試合!!雷を操るリアム・ロズワイド殿下VS炎を操る狂犬アーグの熱い試合、開幕だぁああああああッ!!!!!!!!!!》


毎年熱の篭った解説をする審判員


「ハァ…今年も化物達の試合みなきゃなんねーなんて…くじ運最悪だ…。」


「私だってそうよ…。今年こそ代われると思ってたのにセレナが…!」


毎年気を滅入らせる騎士団、魔導士団からのスカウト団員のお馴染みの二人


「今年こそ会長が勝利されますわ!」


「いいえ、狂犬様が勝たれます!」


「僕はそれより聖女様が気になるなぁ」


「ずっとあの中だもんな。ほんとにいんのかよ」


湧き上がる会場内の生徒、観覧者達



闘技祭最終日である三日目、高等部と初等部中等部優勝者決勝戦を楽しみにする者が大勢訪れていた。


聖女が来るとの報せに来た者も居るだろうが、姿を現さない聖女に殆どの者が最早疑っている。

王家の信用に影を差す聖女は想像以上の来場者と、想像以上の迫力のある試合に萎縮したらしく用意した上の席から出て来ない。


ルーナリアは最後の最後に人の前に立たせれば良いと微笑っていたが…


「甘いと思わないか?」


「ハア?主語つけろや」


「ルーナリアは聖女に甘いと思わないか。」


「………そーかもな。」


「なんだ、嫉妬か。」


「うるせえ王子サマ。」


上から、下から、右から左から、死角から容赦なく急所を狙ってくる紅髪と絶え間なく剣を交えながら話をする。


その余裕がまだあるから出来る事だが。

そもそも、その余裕をこの男が俺に与えてくることに違和感を覚えた。


しかも俺が急所以外の場所を狙った時は躱そうとしているように見えて、自ら当たりに来ている。


「何を考えているんだ、お前。」


「…んな怖ぇ目すんなよ。」


「手を抜いているより腹立たしいぞ。」


一度剣を止めて正面から怠そうな紅髪を見れば明らかに血の滲む箇所が多く、眉を顰めて問う。


「主人と試合出来ないなら他はどうでも良いか。」


「…そうじゃねえ。」


「ならなんだ。言ってみろ。」


「テメェ、なに上から言ってんだ?」


「俺の方がお前より身分は上だが。不敬も過ぎれば反逆になるぞ、お前の主が。」


そう言えば今度は紅髪が怠そうな顔を苛立たしげに顰め、隠すことなく舌を打つ


俺は紅髪が俺にどんな態度であろうと構わないが体制というものを破る気はない。たまには良いかもしれんが。


…それにしても本当にこの男はルーナリアが絡むと揶揄い易いな。最近は特に。


観覧席の最前列に居るルーナリアを見ると普段通りの柔らかな微笑みを浮かべているが、その視線は紅髪だけに注がれていた。

いつもと様子の違う紅髪が心配なのだろうが、好いた相手に見向きもされないのは少し傷付くな。


腹いせに雷の魔力を纏わせた剣を首目掛けて薙ぐように振ると、かなりの反射速度で飛び退く


「なんだ、死ぬ気ではないのか。」


「んなわけねェだろ、クソ黄色。」


紅い瞳がギラギラと俺を睨み付け剣を振り下ろす。

それこそ『狂犬』に相応しい姿だが、その様にどうしようもないなと呆れる。


「太刀筋に迷いがあるな。そんな弱い剣に当たると思うか?お前と違って自虐趣味はないぞ俺は。」


「……ケルトルはどうやって耐えてたんだ。」


いつも怠そうな表情が精悍な顔つきになると思った以上に殺意の篭った剣が向けられた。


「お前に堪え性がないだけだろう。」


「あ”ァ!?テメェ、オレがいつも誰相手にしてると思ってんだゴラァ!」


目を瞠り怒鳴り声を上げた迫力ある紅髪に観客席の令嬢が僅かに悲鳴を上げる声が届く


「女性を怖がらせる者を騎士とは言えんな。」


「こんなんでビビる奴なんざ守る価値ねんだよ…」


瞳孔が開いている紅髪に鼻で笑う。


「あ”ァ?何笑ってんだテメェ。」


「いや、仮にも王太子妃となる者の護衛騎士の言葉とは思えな―――」


言い終える前に飛んできた炎の斬撃を飛んで躱し、躱した場所を読んでいたらしい紅髪が俺の脚が地を付く前に仕掛けた剣を払い、体勢を整える間もなく襲う剣技に合わせて剣を交える。


一撃一撃がかなりの衝撃を与えてくるが、やはりその太刀筋には迷いと苛立ちしか感じない。


「この剣でお前は守れると思っているのか。」


「ッ、うるせえ!!」


怒声を上げて振り下ろされた剣を受け止め、金属が擦れ合う音を間近で聞く


剣を交えた先、瞳孔を開いて殺意を漲らせている紅髪を更に煽る。


「ルーナリアが信頼出来るか。」


「――うっせんだよ、クソがァッ!!」


爆発したように怒鳴り、あまり使ってこなかった魔法攻撃をしてきた紅髪から距離を取り、空気だけで肌を焼く炎を躱す


炎の渦が三連続いて襲い、それを避け続けていると今度は炎の虎が現れた。


ルーナリアの時にしか出さなかった魔法に観客席はざわつき、視界に映った銀髪が揺れる。


「その迷いはルーナリアに関することだろう。母と聖女の事があってから出来た迷いか、それ以前からあった迷いか。」


「黙れッ!!」


炎の渦を躱して駆けて来た炎の虎に雷の斬撃を喰らわせながら紅髪にも落雷を落とし、脚に魔力を纏わせて駆け出す


一瞬の間に紅髪の背後に回り、その背に蹴りを喰らわせる。


数メートル程吹っ飛んだ紅髪を追い、上腕を蹴り付けてまた数メートル吹き飛ばし追い、頭を狙って蹴り出した脚を捕まえられた。


「調子乗んじゃねェぞ、黄色。」


「血だらけだな、紅髪。どうだ、ルーナリアの前で負けるか?」


ギチッと嫌な音がした脚を離させるために剣を顔目掛けて振り下ろせば剣で防がれ、圧し掛かるように剣に力を乗せるのと同時に捕まっていない脚を振り上げて顎を蹴り上げる。


離された脚が嫌な痛みを訴えているが無視だ。

紅髪も剣を受け止めた手首が変になったのか、擦りながら動かしていた。


「握力化物だな。」


「テメェは重い。」


剣を握り直し脚に魔力を纏わせて踏み込み、一瞬で紅髪の目の前まで駆け一太刀入れようとしてギィンッと金属音がぶつかり合う反動で手が震える。


「流石“雷”。とんでもねー速さだなァ?」


「ルーナリアも反応出来ない速度だったぞ。」


「―――あ?」


目を瞠り口を開けて俺を見る紅髪は思わぬほどの間抜け面を晒した。


思っていた反応と違ったがそのまま続ける。


「魔力感知に優れたルーナリアも速過ぎる魔力速度は追えないらしい。」


「………、」


はく、と動いた口は音を出すことはなく、その目が怒りに染まった。



それからはただの剣の打ち合い。


頬が裂け血が止まらず、耳が裂け音が聴こえなくなり、腹部が一文字に裂け、脚から血が流れる。


互いにボロボロの姿になり、息を切らし肩が大きく上下していた。


残り試合時間、五分。

それでも紅髪の目は怒りに染まったまま、ギラギラと俺を睨みつけている。


「それほど大事ならば傍に居れば良いだろう。」


「簡単に言うんじゃねェ、クソ野郎。」


低く掠れた声で唸るように言う紅髪に首を傾げる。


「大切なら守れば良いだろう、お前の手で。」


「…オレが守ったってなァ、お嬢は自分から傷付きに行くんだよ。……馬鹿みてェだろーが。」


嘲笑い剣を下ろすその姿は疲れているように見えて思わず笑ってしまう。


そんな俺に青筋を立ててガンを飛ばしてくる紅髪に笑いが漏れる口元を隠して話す


「馬鹿で良いだろう。」


「……ハア?」


「馬鹿には馬鹿が必要だ。馬鹿の傍に馬鹿をしても一緒に居てくれる馬鹿が居るのは心強いだろうと思うが。紅髪、お前はどうだ?」


「…………馬鹿馬鹿言い過ぎてわかんねェよ。」


半目にして睨みつけてくる紅髪に軽い落雷を落とせば二歩退いて躱される。


それを五連続すると痺れを切らした紅髪が火の虎をけし掛けて来て、雷の斬撃で迎え撃ちながら脚に魔力を纏わせて一直線に紅髪に剣を振るう。


その実直過ぎる剣筋は当たり前に読まれていて躱しながら反撃を繰り出してくる。


「テメェ、判りやすく説明しろや!!!」


「今している。」


「ハアッ!!?」


苛立ったように声を荒げ炎の斬撃を放つ紅髪にもう一度実直に真正面から一太刀入れに行くが、読んでいた紅髪は余裕を持って剣を受け止めて炎の虎をけし掛けてきた。


虎の攻撃を避けてまた真正面から一太刀入れに行くと目を瞠り、今度も余裕を持って受け止める。


「………。」


「どうだ、理解出来てきたか。」


「馬鹿には正面衝突しろってか。」


「ルーナリアは実直に言われると弱い。好きと言われる事も、可愛いと言われることもな。」


「テメェいつの間にお嬢口説いてんだァ!?」


かなりの剣幕で怒鳴る保護者に僅かに笑ってやる。

答える気はないと伝わったらしくまた青筋が立つ。


だが気にしない。短気の怒りは流すのが一番だ。


「実直に言ってやれば良い。お前の傍に居て守りたいと。自分を顧みないお前が心配なんだと。」


「………。」


「言葉で伝わらないなら体現し身体に、頭に、心に叩き込め。」


指一本動かさずに目を瞠りながら俺を見る紅髪はまさに青天の霹靂という顔をしていた。


俺がそんな事を言うとは思わなかった。と言う顔だろうか。


好いた相手であっても必要ならば時には厳しくしなければならない時もある。


「それでも駄目だったなら、俺がお前をルーナリアの傍に置いてやる。」


「―――、」


息を呑む紅髪に笑って言う。



「ルーナリアにはお前が必要だ、紅髪。」






《――――そこまで!!!高等部一年男子決勝!!時間制限により引き分けです!!》



三連休お疲れ様でした!

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― 新着の感想 ―
[一言] かっこ良いのか… アーグ寄りの私は、ちょっとイラッとすると言うか… おめぇは実行できてんのかよ、黄色⁈ テメェも一線引いてるくせに、わかったようにのたまってんじゃねぇ! と、逆に言いた…
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