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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園中等部編
92/152

闘技祭準備



学園最大行事が行われる前、まだ公の場にも顔を表していない聖女様がいらっしゃると知らされた。


その事に学園内では一部の生徒を除いて大いに盛り上がっていた。



「伝説の聖女様ってやっぱ可愛いのかな!」


「教会のステンドグラスの聖女様って綺麗だとは思うけど実際わかんねーしなぁ…普通かもよ?」


「でも白髪ならそれだけで神秘的だわぁ!」


「…私は黄金の瞳が気になりますわ。」


「優しい御方なら話もできるかも!」


「王城で聖女様の護衛隊があるらしいけど一切情報入んないからなあ…やべぇ人が護衛なら近寄れねーって。」


「護衛…今年のスカウトは誰がいらっしゃるのかしら。今年もザリウス騎士様とティナ魔導士?」


「四年連続あのお二人?それもありっちゃありだけど…あっ、セレナ・ジャナルディ令嬢は?あの人魔導士団だよな。」


「実力は申し分ないが、…如何せん人格的にスカウトには向いていない気がする。」


「「「「あー…」」」」


楽しそうに話をする生徒達。



「実際にその力を見ていないから何とも言えませんわね。」


「側妃様の御病気が治られているとはお聞きしましたけれど、その後御尊顔を拝していませんね。」


「…大きな声では言えないけれど、全てガセだって噂もありますよね。」


「千年も現れなかった存在が急に現れて側妃様を救ったと言われてもな。」


「公爵令嬢様と側妃様が後見人とされていますけれど、肝心の公爵令嬢様も殿下方も報せが事実としか仰られません。」


「真意は闘技祭でわかる。」


半信半疑で疑わしく思う生徒。




「って、学園で持ち切りだよー」


生徒会の休憩時間、リノさんが本日のお菓子マドレーヌを片手に話題を口にした。


「高等部は何方かと言えば前者だけれど、やっぱり全員引っ掛かってるみたいよ。本当に何の噂もなかったんだもの。」


「疑いはするな。偽物かと。」


珈琲カップを手にアイサさんとレオン先輩がそう言い合うのを何も言わずいつものように微笑み眺めていると、


「少しは話す気にならないの!?」


「神経図太過ぎると思うわ。」


「会長は見もしていない。」


三者三様の面白い反応をされてくすくす微笑っていると、リノさんが隣で唇を尖らせる。


だって占いを使って探し出した、なんて言えば国中占いに頼りきってしまうかもしれないもの。下手に言えないわぁ

提案した私が言うのも可笑しいけれど。


「会長とルーナリアさんのあの様子とかから側妃様が御病気だったのは確信持てるんだけど、聖女様って言うのがやっぱりなぁー…」


「腕の良い神官様や変わった魔力を持つ人の噂もなかった。本当に急過ぎて逆に可笑しい。」


中等部の先輩二人が目を細めて見てくるのをのんびり「不思議なこともありますねぇ」と流すと、諦めたのか呆れたのか溜め息を吐いてまたマドレーヌへと手を伸ばす


「王城にいらっしゃるんでしょー?会長は会ったことありますよね?どんな方ですか?やっぱり会長のお眼鏡に叶うような女性でした?」


「俺が良いと思う異性はルーナリアだけだ。」


「ッ、けほっ、」


先程まで見向きもせずにいたのに何故そういうことを恥ずかしげもなく…っ!


思わず飲んでいた珈琲を咽てしまい、リノさんが背中を擦ってくださったのだけれど、顔がニヤけていらしてどうにも落ち着かない。


「ふふっ。私は聖女様が真実どうかより、御二人の進展の方が気になるわ。」


「あたしもです!だってルーナリアさんってばすっごく照れてるし、会長はなぁんか甘いんだもん。」


「有害物質放ってるな。」


「お前もたまに放っているぞ、レオン。」


「…………。」


ニヤニヤされる女子お二人と気不味い顔の先輩と無表情の会長に何とも言えず、曖昧な微笑みを浮かべマドレーヌへと逃げた。





リノさん、レオンさん、アイサさんが自身の役割分の仕事を終えると研究会に顔を出すと帰られた。


必然的に残ったのはリアム殿下と私。

去年もその前も二人だけという状況はよくあったけれど、告白をされてからというもの妙に気を張ってしまう。


異性で、しかも好いた相手と二人の密室―――というわけではないけれど。王族と保護対象に付く影が隠れて護衛兼観察をしているからそういった心配はしていない。


ただ、視線が甘くて優しくて、


「…会長、此方の最終確認をお願い致します。」


「ああ。……ルーナリア、この時間帯に――」


敬称なしで名前を呼ばれる。

止めてと申したけれど受理される事はなくてとても困っているというか、とてもイヤ。……別に嫌ではないのですが。

嫌ではないけど、イヤなの。


「…問題ないな。」


「勿論です。平民出身の生徒も楽しめるのではないかとたくさんリノさんと考えたのですもの。」


「そうか。」


僅かに口角を上げて琥珀を和らげるリアム殿下に、柔らかく微笑みを浮かべて自分のスペースに戻る。


火照った顔を見られないように少し俯き加減でデスクに広がる文具を片付け、確認して頂いた企画書をもう一度目に通す


以前から生徒から届けのあった願いをある程度叶えるためのもの。


思わず表情が緩むのはコレを知った方々を想像してしまったからであって、別に殿下に褒められたからというわけでは――


「――ルーナリア。」


「、はい。」


一拍遅れてしまったけれど表情を崩すことなく殿下の方へ顔を向けると、いつの間にか私の近くまで来ていた殿下に息を呑む。


私が、()()()()()()


いくら気を乱して考え事をしていたとしてもこの距離なら魔力感知して気づいていたはずなのに。


思わぬ事態に固まる私を楽しそうな、嬉しそうな目で見下ろすリアム殿下に微笑みを浮かべて聞く


「新しい魔法でしょうか?」


「魔力は使っているが魔法ではないな。」


はぐらかされるだろうなと思いながらダメ元で聞いた問に、あっさりと答えた殿下に少し言葉に詰まって身体から力が抜ける。


「簡単に話してしまって宜しいのですか?闘技祭で対戦する相手の主人に。」


「不正は嫌いだろう?紅髪も喜ばない。…話すキッカケとしては良いかもしれんがな。」


そう言ったリアム殿下の意に気付いて思わず微笑ってしまう。


「私とアーグの為に手の内を明かすのですか?」


「ルーナリアの為なら構わない。」


「ッ、」


躊躇いなく言ったリアム殿下に息を呑み、強い琥珀から目を逸らせなくなった。



どうしてこの方はそんなことを言えるのかしら。


私が好きだから?


そんな理由で、



「聖女の…母上の事があってから君達の空気が変わっているように感じてな。」


「まあ。そのようなこと、殿下がお気になさる必要はありませんわぁ。」


そう言ってわざとはぐらかした。


関わらないで。踏み込まないで。


私を慮ってくださるのなら何も言わず、何もせず、ただ普通にしていてほしい。



「君を止められずに無茶をさせて命の危険に合わせた俺にも関係があると思っている。君がどう思おうと、紅髪がどう思おうとな。」


「魔力探査の事であれば、私の驕り故に起きた事。アーグももう何も思ってなど―――」


――いない。


そう続けようとした私を強い琥珀が見据える。


久方振りに向けられた冷たい瞳に言葉は自然と止まり、真っ直ぐに見つめ返して言葉を待つ


「君のそういったところに紅髪が腹を立てるんだろうな。」


「え?」


「いや、困った主人を持った紅髪が少々不憫になっただけだ。」


無表情だけれどその琥珀には哀れみが宿り、私を困った者のように見る。


それがどうにも、桃色の瞳と被ってしまう。


「何故、そのような目をするのでしょうか…」


突拍子もない私の問とも言えぬ曖昧な言葉にリアム殿下が僅かに目を細め、緩く口角を上げた。


「ルーナリア、君が大切だからだ。」


「………、よく、わかりません。」



どうして困るの?何に困っているの?

教えてくれたら直すのに。


でも、あの子にそう伝えてもただ悲しそうに首を横に振るだけだった。



「アーグがずっと怒っているのです。何度謝っても怒ってしまって…理由を聞いても絶対に答えてくれません。オリヴィアは何故かアーグが怒っている理由を知っているのに、甘えても拗ねてみてもそれだけは絶対に教えてくれないのです。」


「成程。あの侍女はルーナリアに対して際限無く甘やかしているのかと思っていたがそうでもないようだ。中々良い人材を得たな。」


「ありがとうございます。」


自身の信頼する従者を認める言葉は主人にとって、とても嬉しく有り難い言葉だ。

だから人に対して厳しいリアム殿下がオリヴィアを褒めてくださったことに思わず頬が緩む。


そんな私に目を和らげたリアム殿下が私のデスクの空いたスペースに軽く腰掛け、長い脚を組みその脚に頬杖をつく


その距離の近さに驚き少し椅子を引けば、造り物のような美しい御顔が揶揄いを含む笑みを浮かべた。


「紅髪や侍女の思う事は理解出来る。」


「ッ…、…いえ、この事を殿下からお聞きするのは……、…あの、何故おわかりに…?」


思わず言葉にしてしまいそうになったけれど、この事を他者に聞くことは躊躇う。それでもオリヴィアのあの瞳が浮かんでどうしても気になって聞いてしまった。


そんな私を目を和らげて見つめるリアム殿下の眼差しは優しくて柔らかくて、心拍数が少し上がるのが感じる。


けれど今はそんなことより知りたい。


「ルーナリア、君が大切だからだ。」


「…先程と同じ言葉にございます、殿下。」


「これ以上の言葉はないと思うが。」


そう言って私から目を逸らしたリアム殿下はこれ以上お答えする気はないらしく、見つめても此方を見ることはない。



何故、主人である私には解らないのに殿下にはわかるのかしら。


私が未熟だから?私が馬鹿でクズな女だから?


何が足りないの?アーグのことは誰よりも大切に思っているのに…どうして?



「私はアーグを誰よりも、何よりも大切に思っています。」


「ああ。」


「失いたくないのです…。…嫌われたくも、ありません…。」


「ああ。」


「だから早くしないと……」


その先の言葉は声にならずに消えて、カラカラと聴こえる音に耳を傾け目を伏せる。




「君は本当に残酷だな、ルーナリア。」



だからそんな囁くような言葉は届かなかった。




三連休、皆様御自愛下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 貴方が大切よ。 だから。貴方が大切なものは守るわ。 と言いつつ。 なによりも大切な主人が入らないから、怒ってるのに気付かない。 残酷だし、逆に、哀れ…。 憐れすぎて、早く気付けと願わず…
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