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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園中等部編
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初等部生徒と腐れ縁



皆が旅立ってから日は過ぎ寒さが日常になり、学園内は闘技祭への意欲が上がっていた。


「今年こそ、貴女を倒してみせますわ!」


「まあ、うふふ。今年も負けませんよ。」


一組のトレッサ・レジャール侯爵令嬢とお馴染みの宣誓をし合うのも四度目。


中等部一年はクラス対抗で盛り上がっている。


「今年は僕が優勝を頂くよ、ガルド。」


「失礼ながらオスカー殿下。今年も俺が優勝させて頂きます。」


「大穴もありえるかもしれないよー?まあ、たぶん僕は無理だけど。君はどう?ラルフ。」


「ど、どうって…僕が行けるところまで、全力で行くよ…。」


各男子生徒も、


「私達も誠心誠意、一生懸命頑張りましょうね。」


「目指せ!二組上位制覇!」


「嫌だわ、二組は可愛子ちゃんと野蛮な子しかいませんのねえ?ねえ、皆さん?」


「ええ、本当に。何だか怖いわあー!」


「やだ、ネチネチネチネチと…。」


「わざとらしくって腹立つー!」


「「「「…………。」」」」


各女子生徒も。


例年通り熱い試合があるでしょう。



「初等部生徒が怯えていると毎年言っているのだが…、君達の脳は鳥か何かか?」


リアム殿下に無表情で言われるのは三度目ですねぇ






西棟の奥、精霊の棲む林の木の下でシートを敷いて座り、ニット生地に刺繍枠を嵌めてちくちくと針を刺し糸を通す


私の心安らぐ癒やしの時間。


冬に使うマフラーを人数分。アーグとオリヴィア、セスとクロ、旅に出たあの子達。


メグにはポンチョがあっても良いですねぇ。リカは大人っぽいストール、男性陣にはマントとか…


温かい気持ちで楽しんでいると、葉を踏む音がして顔を上げる。


そこに居たのは見覚えのある水色の髪と瞳を持つ女子生徒。リボンが赤色なのできっと初等部一年生。


「あらぁ。この場所で他の方と会うのは珍しいわねぇ。私に用事かしら。それとも迷子?」


「ごきげんよう、ルーナリア・アクタルノ公爵令嬢様!今日も可愛いですね!」


「まあ。ありがとう。貴女も可愛いわぁ。」


ニコニコと私の前に立って見下ろす少女に「どうされたの?」と微笑む。


爵位が上の令嬢にする態度ではないけれど、学園内ですもの。上級生にする態度でもないけれど。


「いえ!公爵令嬢様がお一人でこんな所にいるなんて不思議だなって!護衛騎士様と喧嘩でもされたんですかー?」


「ふふ、学園で噂だもの、耳に入って当然よねえ。そうなの、ちょっと仲違いしてしまって。」


頬に手を当て困ったように微笑むと、目の前の少女は目を輝かせて笑った。


「あの!私が公爵令嬢様の護衛をしますよ!」


「まあ…。貴女が私の護衛を?」


「私、こう見えて結構強いんですよ!初等部一年でも一番です!いえ、初等部で一番だと思います!」


「まあまあ。凄い自信ねぇ」


能力があるからと有頂天になり見境なく傲慢になっている困った子かしら、と微笑みながら眺めていると、不意に少女の目が暗く濁る。


「だから、貴女の護衛にしてください。」


顔は笑顔を保っているのに、目は暗く濁るその対象的さに感じたのは―――


「モニカ!」


初めて聞く少女の声が誰かの名を呼んでいるのが聞こえて、目の前の少女がハッと顔を上げた。


「モニカさんは、貴女?」


「えっあ、そうです!モニカ・アザハルンです!」


「アザハルン伯爵家の方かしら?」


「っ、そ、うです…。」


強張った声と表情に関しては何も問わず、ふんわりと微笑みだけを向けた。


「貴女の実力は闘技祭で楽しみにしていますわぁ。初等部優勝者ならば私と対戦することになるでしょうし、その時を楽しみにしていますねぇ」


「……公爵令嬢様は優勝が当然みたいですね!」


「ええ、勿論。負けることはないわぁ。」


「ッ、」


水色の瞳を見据えて言えば少女は身体を強張らせ、足が一歩後退した。


これでは傍から見ると私が虐めているような雰囲気になっていません?


「何後輩虐めているのよ。」


長い付き合いの猫っぽい彼女の声に「誤解です。」と否定して、未だに固まっている少女の後ろから此方に近付いている人物に微笑む。


「あら、トレッサ様も可愛らしい後輩を虐めましたの?お顔が真っ青ですよ?」


「違うわよ!」


トレッサ・レジャール侯爵令嬢の半歩後ろを付く、モニカ・アザハルン令嬢同様赤色のリボンをしている少女の顔色が可哀想なほど真っ青だ。


薄緑の髪と瞳が可愛らしいその子は、私を見て僅かに顔を強張らせ、その前に居るモニカ・アザハルン令嬢を見て顔を歪ませた。


「も、モニカ…」


「貴女はアザハルン令嬢のご友人?」


「は、はい…っ!あの、は、初めまして、アクタルノ公爵令嬢様!」


「初めまして。お名前を聞いても宜しくて?」


「れ、レイナ・メルシーです…」


「メルシー子爵家の方かしら。」


「はい…!メルシー子爵家の、長女です…。」


徐々に声が弱々しくなって、最終的には俯いてしまった。


……私、そんなに怖く感じますか?そんなことないと思うのですが…何方かと言うとトレッサ様の方が威圧感が…


「貴女今失礼なこと言ったでしょ。」


「私よりトレッサ様の方が怖いのに。とは思いましたけれど。」


「それを微笑って言う貴女の方が怖いわよ!」


目を釣り上げて怒るトレッサ様のポニーテールが揺れるのを可愛らしいなぁ、と微笑み見ていると、固まっていたモニカ・アザハルン伯爵令嬢が不意に笑って言った。


「公爵令嬢様っていつも微笑んでいて『人形』みたいですよね!」


「モニカッ!!」


「レイナは黙っててよ。公爵令嬢様、私は公爵令嬢様が可哀想って思うんです!お母様はご病気でお父様はそんなお母様に付きっきりで!唯一の護衛騎士は貴女から離れて!独りぼっちですよね!」


「ねぇやめなよ…!」


堰が切れたように捲し立てて言うアザハルン令嬢にメルシー令嬢が泣きそうになりながら声を掛けて、手を伸ばす


それを見てアザハルン令嬢が目を瞠り後退る。

その姿は何かに怯えているようで、目が挙動不審に泳いで肌寒い気温なのに額から汗が滲む。


「わ、私、は…ッ!私は貴女の役に立ちますよ!?貴女の為なら何だってすると父も―――」


「――モニカ・アザハルン。黙りなさい。」


上擦った少女の声を遮ったのは顔を顰めた猫目の彼女で、その目はかなり厳しく細められている。


その姿は慣れない子達には些か威圧感があるでしょうねぇ、なんて心穏やかに微笑みながら口を開く


「先程の言葉は聞かなかったことに致しますねぇ。外は冷えますから早く校舎へお戻りなさいな。」


「あっ…、ごめんなさい…!モニカ、行こう…!」


メルシー令嬢が頭を下げてアザハルン令嬢の手を取って足早に校舎へ戻って行った。

その時のアザハルン令嬢は中々に軽視できない様子でしたけれど…


「今年の闘技祭、どうなりますかねぇ」


「知らないわよ。あたくしは貴女に勝つ。それだけを目標にしているんだから。」


フンッと腕を組みながら言うトレッサ様は中々に鋭い目付きであの子達の後ろ姿を見ていて、思わずくすくすと声に出して微笑ってしまう


「…何よ。」


「いえ、トレッサ様が私に気を遣ってくださっているのが嬉しくて。」


「ハァッ!?なっ、何でそんな…っ!別に気なんて遣ってないわよ!!」


「ふふふっ」


「遣ってないったら!!」


フシャーッと威嚇する猫のようにポニーテールを揺らして言うトレッサ様が可愛らしくて、やっぱり微笑ってしまう。


「本当に良い友人を持てましたね、私は。」


「友人?冗談でしょう、そんなものになった覚えないわ。良くてライバル、悪くて腐れ縁よ。」


「まあ。ライバルとは素晴らしい響きねえ。」


「やっぱり無しよ!貴女はただの腐れ縁!」


相変わらず揶揄い易く流されやすいトレッサ様。

けれど揶揄い過ぎると癇癪を起こされるから程々にして話を変えないと。


「トレッサ様はどうして此方に?」


「資料室と職員室に用があったのよ。そしたらあの子達が言い合って此処に向かっていたから…」


「そうでしたの。」


学年首位であるトレッサ様は中等部に上がる少し前から教員の方々に頼みをしていたことがある。

それを知っているのは教員方からどうにかするように頼まれた私と、生徒会の皆様だけだけれど…


「許可が降りましたの?」


「…ええ。全科受けるわ。」


魔法科、騎士科、政治科、淑女科、侍女科、執事科

全六科目のコースを受けるというのは学園では初の試みであり、あまり良く思われない。


基本学と各科目二つまでならば許容されているけれど、全科となればその分勉強量も多く、全てを均等になど出来ないから。


私でも政治科を軸にそれぞれの教科書を頂いて重要点を知り、必須項目を受ける程度。

それをトレッサ様は全て受けると言うのだから、教員方はかなりの反対をされた。


しかし、見事許可を貰えたらしい。


「…トレッサ様を見縊っている訳ではないけれど、大丈夫ですか?私でもかなりの総量だと感じていますが。」


「……まあ、厳しいでしょうね。」


素直にそう仰られるとは思っていなくて思わず彼女の赤い瞳を見つめる。


それに気不味そうに眉を寄せる彼女に如何聞くべきか考え、正直に聞くことにした。


「それ程までに自身を追い詰めるのは何故です?貴女は今でも首位を取っていらっしゃいますのに。」


「生徒会員で他の科まで取得しながら同率をとる貴女に言われても嫌味にしか聞こえないわよ。」


「………。」


「…………はあ。………別に、あたくしに後が失くなっただけよ。」


逃さないと微笑み見つめると嫌そうな顔をされて、溜め息のあとにぶっきらぼうにそう仰った。


『後が失くなった』という理由はわかる。

私が王太子妃、王妃となることが上位貴族や上位官僚には報されたからだろう。


トレッサ様の父、レジャール侯爵もその一人。

昔からアクタルノ家を嫌っていた方だから、その家の娘が自身の娘より上に行くのが許せなかったのかもしれない。


お父様の事の真実を知るのは陛下、王妃様、閣下だけだから。



謝るべきことではないと思う。

トレッサ様も謝られたくないと思う。


けれど、思ってしまう。感じてしまう。


「お互い、生き辛い家ですねぇ」


「………そうね。」


初めて目を細めて柔らかく笑みを浮かべたトレッサ様はすぐにそれを消して私を呆れたように見る。


「貴女、初等部生徒にあんな事を言われて黙っているつもりはないでしょうね?」


「ふふ、如何でしょう。何だか気になりませんか?あのモニカ・アザハルン令嬢のこと。」


「まあ、似た感じよね。だからと言って上級生に対する態度がなってないのは気に食わないわ。」


「その辺り厳しいですものねぇ、トレッサ様。」


「貴女も牽制してたくせに何言ってるのよ。」


「あらぁ、何のことでしょう?」


「ふん、女狐。」


「子猫さんは戯れてほしいのかしら…。」


「何ですって!!?」


「誰もトレッサ様を子猫だなんて言っていませんわぁ。自意識過剰ですよ。」


「ハァ!!?ほんっとうに貴女嫌よ!!闘技祭、覚えておくことね!!!」


またも猫の威嚇をするトレッサ様が怒りながら背を向けて歩き出すのを微笑って見送っていると、不意に振り返った彼女が私ではなく私の上を見て言う。


「番犬なら番犬らしくしなさいよ。」


そんな彼女の言葉に返事はない。



トレッサ様の姿が見えなくなったあと、くすくす微笑いながら刺繍枠を手に口を開く


「アーグが気付かれるなんて珍しいわねぇ。」


「……態度がなってねーのはアイツもだろ。」


「ふふふっ」


確かにアーグは最近私に対して外でも寮でもあまり良い態度をしないけれど、傍には居てくれる。


だってそれが『契約』だもの。


「私もアーグも、腐れ縁かもしれませんねぇ」


「………。」


「…あら。また拗ねたの?」


「るせえ、黙ってやってろブス。」


「もう。最近そればかり言って…」


そう言いながら、針を刺し糸を通す作業を始めた。




皆様御自愛下さいませ。

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