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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園中等部編
83/152

伝説

HappyHalloween☺

後半大神官様視点。



室内に満ちた光が収まり視界が機能を戻して最初に映したのは、()()()()()()()()()


「っ、えっ、えぇっ!?何今の光!?」


目を瞠ってキョロキョロと辺りを見回す彼女に私もオスカー殿下も言葉を失う。



それほどまでに美しく、神秘的だった。



薄い水色だった髪は白く染まり、瞳は深い水色に。

教会のステンドガラスに描かれた古の聖女様と同じ髪色を持つ彼女は一番美しい存在だと言える。


そんな存在が目の前に居て痛みも忘れて言葉を失くしていた私の隣で動いた方がいた。


「お前、名前言えるか。」


「えっ?な、名前?」


普段と変わらない冷静な声で問い掛けるリアム殿下に、未だに何が起こっているのか理解出来ていない彼女がキョトンとする。


「名前を言えるかと聞いている。」


「フィオナ!!」


声のトーンが下がった殿下に焦りながら声高らかに名乗ったフィオナさんに、私の肩を抱いたままの殿下が息を吐く


「意識はハッキリしているか。」


「えっ、あの、たぶん!何が起こってるのかわかんないけど、ハッキリしてます!」


またも声高らかに応えたフィオナさんにハッと意識が戻ったのは私で、声を上げようとして口を開き、出たのは声ではなく血。


ゴポ、と嫌な音と同時に口から垂れていく生温く鉄臭いモノに咄嗟に手で抑えようとして、その手が動かずダラダラと血を流していることに気が付いた。


「ルーナリア!」


「アクタルノ嬢ッ!?」


「ルーナリア様ッ!!!??」


御三方が私を呼ぶ声に応えたくても声が出ないどころか、血が勝手に出てしまって苦しい。


身体全身が燃えるように熱くて引き裂かれるように痛む中、必死に手を伸ばして彼女の手を掴む。


「…、…か…と…さ……、…お……ぃ、…っ、」


「ルーナリア様、なんて言ったのっ?お願い、頑張って、お願い…っ!」


深い水色の瞳からボロボロと涙を溢すフィオナさんは姿は変わっても、中身は一切変わっていないかもしれないと安堵した。



彼女ならきっと、きっと――――




「あの光とこの魔力は何なの――アクタルノちゃんッ!!!??」


「ッ今すぐ治癒を!!!」


ゆらゆら揺れる意識の中、ぼんやりと所長と大神官様の御声が聴こえた。


けれど私の意識は目の前で綺麗な顔を歪める好きな人の姿でいっぱいで、何とか安心してほしくていつものように微笑んだ。


「…い…ょ、ぶ……、っ、りぁ…さ…、」


「ルーナリア、大丈夫。大丈夫だから。」


霞む視界で琥珀と金色が歪んでしまう。


あぁ、もったいないわぁ。

折角近距離のリアム殿下が歪んでしまうなんて。


痛む身体に触れる温もりにふわふわとした暖かいモノが胸を締め付ける。


何だか目を閉じてはいけない気がするのだけれど、このままゆらゆらと身を委ねてしまいたくなるほどに心地良くて。



アーグ、きっととても怒っているでしょうねぇ…


オリヴィアは泣いていないと良いけれど…


領地のあの子達はご飯食べているかしら…


そんな私の愛おしい特別たちへ思いを馳せて、私はゆっくりと目を閉じた――――。



















これは、かなり不味い状況でしょう。


血に塗れたルーナリア・アクタルノ公爵令嬢を抱き締めるように抱える我が国の第一王子殿下が、私を美しくも強い感情を宿した琥珀の瞳で射抜く


その圧や空気が陛下と似て非なるものだった。


陛下が優しく威厳のある圧ならば、第一王子殿下は凄烈で冷徹であり、威圧的だ。


この御方はいつも冷静沈着で気を乱すことなどないと思っていたのに、人とは変わるものだと思い知らされた。



「大神官、もう一度言ってみろ。」


「…私の力ではアクタルノさんは癒せません。」



それほどまでに想っていた相手だったのだろう。


私を親の仇のように睨め付ける殿下が抱く、誰よりも優しく慈愛深い令嬢が目を閉じて数分。


このロズワイド国で一番の治癒魔法を使える私でさえ、アクタルノさんの負った傷を癒せないと断言出来るほどの大怪我。


彼女が何の為に自分の身を犠牲にしてまでやっているかわかっているけれど、心苦しく、悔しさを抱く



不思議な水を生み出すフィオナさんの魔力を調べるために行った行為は危険で、並の者ならば死ぬことだってある。


他人の身体に自身の魔力を入れる事はそれほどのことだ。


それを変換して成す術を作ったナリス所長は天才、鬼才。

それを知りながら行動したアクタルノさんは異才、偉人。


そう言えるのかもしれない。



「ルーナリア様は大丈夫なの…?」



彼女が本物の()()ならば。





古の伝承に遺された聖女様と同じ白髪。

そして先程とは異なる魔力。


もしも、この少女が私でさえ癒やすことの出来ないアクタルノさんを癒せたなら、誰にも口出しは出来ないでしょう。


「今、アクタルノさん…ルーナリアさんの身体は体内から魔力で攻撃されている状態です。」


「…えっと、え…っ?」


深い水色の瞳を不安に潤ませながら理解及ばず首を傾げた少女に解りやすく、残酷な言い方をする。


「彼女の身体は今、刃物で切り裂かれ続けている、と言うことです。」


「ッ!!!?」


瞳が零れ落ちそうなほど瞠り顔を青褪め、血を吐き意識を失い殿下に抱えられたアクタルノさんを見る彼女は、年相応の純粋無垢な少女でしょう。


神を敬う者としてか弱き存在を毒が渦巻く世界に引き込むのは決してしてはいけないと思う。


けれどもう遅い。おそらくナリス所長は姿と魔力の変わったこの少女を逃す気はないだろうし、今はアクタルノさんを診ているからフィオナさんは視界から外しているだろうけれど今すぐにでも研究所に連れ込みたいほどだろう。


そうでなくても、この国の大貴族の一人娘であり、将来の国母候補筆頭者がこうなってしまったからには逃れられない。

もしもこの国の上がこの少女を逃しても、理由がどうであれ彼女の狂犬達は逃しはしないだろうから。


このロズワイド王国で絶対に()に回したくない者で彼女はこの歳で上位に入っている程の強者。


逆に、彼女の懐に入れば安全は保証される。



この少女はどちらになるのだろう。


大神官という中立の立場である私は平和に過ごせていたはずの無垢な少女の未来が輝かしく、優しいものであればいいと願う。


それと同時に、己の身を削って人を助けている強く優しく、儚く散ってしまいそうな()()が幸せを掴めるように。



「魔法とは想像。即ち『願い』です。」


「願い…?」


「こうなれば良い。こうなって欲しい…そう願い生み出すモノ。思いが強ければ強いほど、より強い魔法となるでしょう。」



さあ、無垢なフィオナさん。


貴女の『願い』が叶うか叶わぬか。

それが貴女の未来を決めることになるでしょう。




第一王子に抱えられた血に塗れたアクタルノさんを見つめ、意を決したように深い水色の瞳が強い輝きをうつした。



「あたしが伝説の聖女様なのかはわかんないけど、でも、もしもそんな力があたしにあるなら…っ!」



僅かに震えた声に合わせて彼女に伸ばされた手から感じたことのない魔力が繰り出される。



「――――彼女を、癒やして!!」



力強い言葉と共に眩い光が放たれ、妙に心地の良い空気が部屋に満ちた。


そんな中、光を放った少女の深い水色の瞳が黄金に輝いているのを目にして確信できた。



教会で語り継がれる聖女様の噺。





―― 聖女、その瞳を黄金に輝かせ、数多を救う





千年も昔の伝説は偽りではなかった。


どこか神聖さを感じさせるこの世の何よりも美しく輝く瞳はただ一人の少女を映し、その傷が癒えることを願っている。


その光景はどのような美しい風景にも人物にも勝るものだと、私は思った。







心地良い魔力が薄れて完全に消えた頃、フィオナさんの瞳が黄金から深い水色に戻り、纏っていた神聖な雰囲気が消える。


「どうッ!?あたし何にもわかんないからわかんないんだけど、ルーナリア様、大丈夫!?」


慌てながらアクタルノさんの様子を窺う姿は先程の凄さを想像しづらいほどで、どういった変わり様なのかと首を傾げそうになりながら意識のない彼女を視た。


顔色は悪く口元の血や服、手に付いた血はそのままだけれど、体内の魔力は落ち着いていて、異常な魔力も見つからない。


あの瀕死の状態からここまで回復させるとは…


「見事です、()()()。」


「エッ!!?いや、あの、あたしはそんな…っ!」


顔を引き攣らせて手を横に振り大袈裟なくらいあたふたと慌てふためく聖女様に微笑みかける。


「アクタルノさんの体内は落ち着いていますし、魔力もありません。本当に見事な治療です。聖女様は御身体に異常ありませんか?」


「さ、様…!?だ、大丈夫デス、元気デス!」


「ならば母上の元へ行こう。治癒の仕方を忘れぬうちに終わらせてくれ。」


第一王子殿下が意識のないアクタルノさんを抱き上げて扉へ足を向け歩き出す


歩みを踏む度に血の付いたドレスがふわりふわりと揺れて、殿下の衣服にも赤が移り染まっていて異様さを感じる。


殿下の表情は見えず、けれど身体が動かないほどの圧を受けているようだった。



「兄上、アクタルノ嬢は部屋に。」


「…わかっている。それと学園の紅髪に文を送っておくように伝えてくれ。」


「わかりました。」


政敵となる御異母兄弟の関係性はこの数年で大きく変わった。


関係性を良い方へと運んだ立役者を見つめる御二人は今後どのような将来を紡ぐのだろう。



伝承に残る千年前の聖女様は当時の王太子と婚姻されて、三人の御子をお生みになられていると記されていた。


伝承に習い現在の聖女様は未来の国王の伴侶となるのでしょうか。



「叶うなら―――――…」



一人の人間として、一神官として願うは多くの者の幸せ。


けれど誰かが幸せに笑うとき、影で涙を呑む誰かが居ることも知っているのです。







この日、フィオナさんは不治の病を抱えた側妃である、寵妃スカーレット様を癒やし、国王の名の元に『聖女』と認められた。




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[一言] …(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`) この子は、いっつも… (´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
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