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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園中等部編
74/152

特別

後半リアム殿下視点。




「それで、君は暫く領地に居ることにしたのだとそこの紅髪から聞いていたんだが?」


「まあ、そうでしたの?」


「そうでも言わねぇと押し掛けて来るかもしんねーなって。」


「そんな事はしない。」


「結果そうなってんじゃねーか。」


「……偶然そうなっただけだ。」


闘技祭で毎年優勝争いをするアーグとリアム殿下はなかなかに仲が良いと思う。

それを言うと両方から否定されるけれど。


側妃様と短いお話を終えた殿下がシャッと開けたカーテンの此方側でのカードゲームをしている様子に顔を引き攣らせた侍女さんと、「楽しそうね」と微笑んだ側妃様と、「俺も参戦しよう」と無表情で私のベッド近くへ椅子を置いたリアム殿下に拒否出来るわけもなく、私を除いた三人が楽しそうに勝負している。


「………。」


「あっちょっと待って!殿下、お待ちください!」


「うるせぇ早く引けや。」


「またわたしがビリになる…」


またも最下位確定のオリヴィアがベッドに顔を埋めていじけるのに微笑んで、よしよしと頭を撫でると直ぐさまにこにこと元気になるから面白い。


「お嬢様に撫でてもらったやったぁ!」


「うっせぇ万年ビリ。」


「やきもち?やきもちなのアーグ君。お嬢様に撫でて貰えたわたしが羨ましいんだねぇンフフんぶっ」


「うるせぇっつってんだろーが、ビリ。」


「いひゃい、いひゃいれす、しゅみまひぇん。」


アーグに顔を鷲掴みにされるオリヴィアにくすくす微笑っていると、やけに温かい眼差しを受けた。


「…如何致しましたの、殿下。」


「いや、君が嬉しそうに笑っているのを久しぶりに見たと思ってな。」


「そうでしょうか…?生徒会の女子会でもこのような感じでは?」


職務が終わった後の女子会は私もカードを握っていることもあるのだ。それなのに、見ているときの私の方が嬉しそうに見えるのなら不思議。見る専ではないのだけど。


「この二人が特別なんだろう。」


「特別?」


「あぁ。」


そう言って眩しいものでも見るように目を細めた殿下が私に柔らかく笑いかけた。


「羨ましい関係だ。」


その言葉に嘘偽りは感じなく、心からの言葉なのだとオリヴィアが目を輝かせているのを見なくても感じる。


私にとってアーグだけでなくて、オリヴィアも特別な存在だと面と向かって言われたのは初めてで、


「そう…ですか…」


少しむず痒い感覚に襲われた。



「お嬢様が、照れてる……」


「照れてんな。」


「わたしと仲良しに見えるって言われて照れるとかもう、もう…………………可愛過ぎる。」


「顔蕩けてんぞ。」


「尊いぃ…お嬢様、尊いよお…」


「泣いてんじゃねーよ。」



滂沱の涙を流すオリヴィアに怠そうに言うアーグ


この二人の掛け合いが見慣れたものに、日常に溶け込んでいると気付いた。



アーグだけだった私の狭くて真っ暗な世界に舞い込んだ小さな異質な二色の灯りがハッキリとした輪郭を持つ。


真っ暗な世界でニコニコと微笑むアンバランスな光景が、何故かしっくりときて微笑ってしまった。



「本当ですねぇ…いつの間にか、オリヴィアが私の中に居ましたわぁ。」


「はぁあ…っ。お嬢様の中に存在するわたし……想像するだけで……………なんて幸せっ!!?」


「うるせぇ。」


「ふふふっ。」



幸せだなぁ、って。


初めて大切な人を亡くして数日しか経っていないのにそう思えるのは、私を大切にしてくれる人が一番近くに居てくれているからだと思う。


それがどれほど幸福な事なのか、私は知っている。



無償の愛をくれる『親』という存在に愛されなくても、こんなにも私を思ってくれる人が居るのだと、居てくれるのだと身に沁みてわかる。


どれだけの時間を掛けて教えてくれてたのだろうか



「ねぇ、アーグ。」


「あ?」


「大好きよ。」


「……おう。」



「オリヴィア。」


「はい。」


「大好き。」


「わたしもお嬢様が大好きです!ンフフッ」



ぶっきらぼうな紅猫と尻尾を振る二色の子犬



私の特別な、大切な人。


願わくば、ずっと隣に居て、笑っていてほしい。



「側妃様…」


「何かしら。」


穏やかな表情で私達を見ていた側妃様に自然と微笑みが溢れる。


「私の涙を拭ってくれる人は、ずっと傍に居てくれていましたわぁ。」



歪む世界の中で、触れ合えなくても温かい存在がこんなにも愛おしいのだと感じた。
















今にも涙を溢しそうな彼女の横顔が、この世の何よりも美しく思えた。



ルーナリア嬢の大切な人物の危篤の報せがあって領地に戻って数日、不治の病にかかった母が王宮の何処にも居ない事に気づいてやっと見つけた場所に何故か居た彼女は、以前とは少し違って見えていた。


最初に見てしまったのが顔色悪くベッドの上で緩い、見繕いをしていない姿だっただからではなく、決してそういうわけではなく、ただ纏う雰囲気や微笑みが以前よりも穏やかでどこか弱く感じた。


「大好き」


そう言って慈愛と幸福に満ちた微笑みは美しくも愛らしく、見る者全てを魅力する魅力に溢れている。


母に向かって幸せそうに言う様は今にも泣いてしまいそうで、だが決してそのアクアマリンの美しい瞳から涙は溢れ落ちなかった。



「リアム殿下…」


「、何だ。」


ほんの僅か反応に遅れたのは雰囲気の変わった彼女に落ち着かなかったからか、俺を見上げる姿がどうしようもなく可愛かったからか。


「貴方をお守りすると言っておきながらこの有様で申し訳ございません。」


「…謝る事はない。言っただろう?そんな軟な鍛え方はしていないと。」


自然と伸びた手がいつもとは違う髪型の彼女の頭に触れる。


僅かに身体を強張らせた彼女の様子にガウンを着ていたとしてもその下は寝間着だと思い出して胸がざわつく


一応冷静さを保てていても男はそういうものなんだと情けない言い訳じみた言葉を頭に巡らせ、これ以上は止めようと手を離しかけたとき、



「ふふっ」



彼女が笑った。



いつもの柔らかく優雅な微笑みとは異なる、蕩けるような甘さを含むその表情に思考が止まる。


優雅で気品のある穏やかな公爵令嬢『ルーナリア・アクタルノ』という彼女の、初めて見るその表情が表すモノがなんなのか



「ルーナリア嬢―――」



―――ガシッ



「夫でもない者が寝具にいらっしゃる異性に触れるなど、許されません。無礼を承知で致します。」


「はっ!?」


彼女に触れていた手首を感知できない速さで掴まれ、無機質な声と共に俺の体が浮いて、次の瞬間かなりの衝撃が身体を打ちつける。


一回転しなかったか、今…


ジンジンと痛む腰と手首を擦りながら顔を上げて思わず頬が引き攣った。


「変態王子、成敗。」


まるでゴミ屑でも見るような蔑んだ目の侍女服の女が俺を見下ろしている。


異なる髪と瞳の色を持つこの者が異常なほど主君である彼女を慕っているのは知っていたが、王族にこの仕打ちをするか?


確かにやってはいけない事をしたが、コレもやってはいけない事だと思うんだが。しかもかなり無礼な言葉を面と向かって言われた。


唖然と言葉もなく見上げていると、くすくすと笑う声が静まりかえっていた部屋に響く


「軟な鍛え方はしていないのに華奢な女性に投げられるとは…リアム、鍛え方が足りないのではないかしら。」


「母上…」


楽しそうに笑う自分の母に呆れる。

息子が投げられて何で嬉しそうなんだ。


「お嬢の頭触ったぐらいでキレんじゃねーよ。」


「だってなんか…!なんか駄目な空気した!」


「ハッ。盛ったオト――グッ、」


「すまん手が滑った。」


余計な事を言う紅髪の脇腹に肘をいれて黙らせる。

直ぐさま反撃してきた脚を避け、腹を狙った拳をいなして今度は俺が脚を放つ


そこへ何故か参加してきた細い腕の主は容赦なく俺の関節を狙って来る。


「危険なモノは先に排除しなければ…!」


「不敬すぎるぞ。」


「テメェ、さっきから躱しやがって…躱すんじゃねぇよ、王子サマッ」


「巫山戯るな。…ッ、おい今の避けたらルーナリア嬢に当たっていたぞ馬鹿者が。」


「当てるわけねぇだろバァカ。つかテメェが避けたらマジで殴るつもりだったわ」


「本当、分かってて避けるなんて屑!」


「避けてないだろう妄想で怒るのは止めろ。」


言い合いながらも飛んでくる手と脚を躱していなして、紅髪には反撃してと熱くなりかけていると、


「おやめなさいな。」


そんな冷えた声がした。


一瞬で収まった相手二人に溜め息を溢しそうになりながら、やっと声を上げた彼等の主君を振り返る。


「止めるのが些か遅い気がするんだが。」


「まあ、うふふ。戯れているだけですもの、お強いのなら大丈夫でしょう?」


いつものように優雅な微笑みを浮かべた彼女に少しどころかかなり残念な気分を抱く


「戯れる範囲を越えていたと思うぞ。」


「殿下もとても楽しそうでしたわぁ。そう思われませんか、側妃様。」


「ええ、私にもそう見えたわ。仲が良いのね。」


顔を見合わせて仲良さそうに笑う自分の母と自分の想い人の光景に自然と頬が緩む。


「二人で来られたら退くしかないな。」


「あら、相手するわよ。ねぇ、ルーナリアさん。」


「ふふふっ、勿論お相手致しますわぁ。」


どちらもベッドに臥せているはずなのに一切敵う気がしない。


だが、悪い気も一切ないな。…少し困るが。



少し前まで不治の病と言われ気を落としていた母と、大切な者を亡くした想い人の笑い合う姿は俺の目に眩しく映り、こんな光景がずっと続けば良いと願わずにはいられなかった。




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― 新着の感想 ―
[一言] このまま、このまま。 本当に、このまま。 みんな、幸せになってほしい。
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