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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園中等部編
73/152

親と子

後半侍女視点。



魔力吸引に掛かる時間はおよそ四日。

それから体調が元に戻るかの審査に二日。

だいたい一週間を共に過ごす事になる側妃様はとても優しい御人だった。



「また私の勝ちね。」


「はぁ!?またかよ…強すぎねぇか、アンタ。」


「そう言うアーグ君はわたしに一切勝たせてくれないね…」


今は侍女の目を完全無視したアーグとオリヴィア、そこに側妃様を交えてのカードゲーム中。

五回やって全勝の側妃様と人の言葉が嘘かわかるオリヴィアが何故か最下位。


「お嬢以外に負けんのマジで腹立つ…」


「お嬢様に負けても腹立ってるのに?」


「それ以上にっつーことだよ、ビリ。」


「ひどい!お嬢様、アーグ君がぁ…」


「あらあら。」


泣き付くオリヴィアの頭を撫でながらもはやプロ並みにカードをきっている側妃様に声を掛ける。


「お強いのですねぇ、側妃様。」


「リアムとたまにするのよ。子供には負けられないじゃない?」


「まあ…ふふっ。子供相手に手を抜きませんの?」


「昔抜いて、リアムったら数日間口利いてくれなくなったのよ。負けず嫌いで情け嫌がるから。」


「……想像できますわぁ」


幼いリアム殿下が無表情ながら機嫌悪い姿を簡単に想像出来て微笑ってしまう。



こんなふうに和やかな同室生活三日目にして、側妃様の青褪めた顔色はほんのり桃色の血色の良い顔色になり、酷かったらしい頭痛も吐き気も徐々に収まっている様子。


一方私は魔力を半分以上抜かれてからは起き上がることも出来ず、食事はリゾットを更にどろどろにしたお粥と言う病人食しか食べられず、トイレにも自力で行けなくなった。



そしてベッドから周りの様子を見て気付いたのは、私の魔力が如何いう訳か側妃様に渡っている。


本来有り得ない事だ。同じ属性でも出来ないのに、異なる属性の魔力を分け与えるなんて神の御技としか思えない。


でも確かに魔道具針から吸引される私の水と氷属性の魔力が一度大きな魔道具に運ばれ、そこから火属性の魔力に変化して側妃様の腕にある魔道具針に送られ側妃様のお身体に巡っている。


体調を悪くする以前に体調が良くなっている側妃様の御姿に安堵はするけれど、この実態は良いものではない。


異なる魔力を変換させて輸血のように献血するコレはまだ研究段階で確実なものではないでしょう。


確実のものとなっていれば学会で発表され、医療機関や貴族の間でもちきりになるはずだもの。


それほど凄いことだ。


神殿の方々に魔力供給が出来れば永遠に治療魔法を施して貰うことが出来るし、魔力を多大に使う魔法師団の方々に永遠に魔力供給出来ればそれは壊れない兵器にもなる。


でもそれは人間として扱っていない。

神官様は治癒を繰り返す道具に、魔法騎士は殺戮のための道具となり、供給をする人間も魔力を与えるだけの道具となる。


そんなこと絶対に、絶対にしてはいけない事。


許せるのは病を持つ家族の為に親兄弟が魔力供給するなど、それこそ王国の危機に繋がる事。


そこまで考えて側妃様の容態は王国の危機なのではないかと考えた。



隣国バルロイズから嫁いで来られた側妃様のお身体が病魔に侵されたとして、その病を治すから其方の高魔力保持者を寄越せと言われている、とか。




「お嬢様、一度お身体を拭きましょう。」


「ありがとう。」


嫌な思考を打ち切り、オリヴィアに身体を支えてもらいながら身体を起こして緩いネグリジェを脱がせようと私の肩にオリヴィアの手が触れた時だった。


ゴンゴン、と少し荒々しいノックをされて返事をする間もなく開いた扉の先に居たのは、さらさらの金髪と琥珀色の綺麗な瞳を持つ、この世の美を集結させたような美青年。



「母上、急に姿が見えなく―――――は?」



焦燥感漂っていた表情が彼の母の隣のベッドに居る同じ生徒会役員としてかなり馴染みのあるネグリジェ姿の自分を見て固まる。


そして、何も想っていないわけではない方に全身汗をかき髪も緩く纏めているだけの姿を見られた私は



「ご、ご機嫌ですわぁ、でんか、おひさしぶりにございますですねぇ」



盛大に混乱してしまった。




即座にオリヴィアに布団を頭から被せられ、見えなくなった視界の代わりにガッという何かを殴る音と「ぐっ」と殿下の呻き声が鮮明に聞こえてしまう。


けれどそんな事でははしたない姿を見られてしまった羞恥は消えなくて、恥ずかしさで目が潤む。


本当に、今まで涙腺など何ともなかったはずなのに何なのかしら私の目は…!


「ノックしたなら返事を待ちなさい変態王子!!!お嬢様の汗をかいたネグリジェ姿を見るなんて…ッ!!万死に値しますッ!!!」


「オリヴィアやめて…!」


「テメェ、お嬢の汗かいたゆるい姿見て興奮すんじゃねぇぞ。」


「アーグ…!!」


何故二人共私を追い込んでいくの…!


「落ち着いて。リアム、一度部屋を出なさい。オリヴィア、ルーナリアさんのケアを私の侍女としなさい。アーグはリアムと共に廊下で待ちなさい。」


この中の最高権力者の尤もな言葉に従い、異性二人は何やら鈍い音を立てながら部屋を出て、侍女二人が布団を被って震える私を痛ましげに見る。


でもオリヴィア、貴女悶えてるのわかってますよ…。


「涙目で震えるお嬢様可愛過ぎる尊いぃ…!!こんなっ、こんな可愛い姿見てしまったら襲わずにはいられないのでは…!?逆に襲わなかった変態王子を尊敬すべき…!?それとも不能と心配するべきでしょうか…」


「やめなさいオリヴィア。」


「可愛いわ、ルーナリアさん。保護欲を掻き立てながら少し嗜虐心を擽られてしまう可愛さはもう犯罪級ではなくて?」


「そうでございますね、スカーレット様。」


側妃様と侍女さんにはもう何も言いません。



汗を拭き髪を整え、替えがネグリジェしかなく仕方なく上にガウンを着て漸く殿下を部屋に通す


「お見苦しいところをお見せして申し訳ございませんでした。」


「いや、俺こそ返事も待たず開けてすまなかった。君が居るとは思わず…」


「今後この様な事が起きないようお気を付け下さいませ。……そして今回の事は何もなかった事にして頂きたく。」


「………あぁ、そうだな。」


その間はなんですかと問い質すのは止めます。

墓穴を掘るなどの言葉は使いたくありません。


「…申し訳ありませんが、私はこの部屋を出る事は出来ませんのでその事だけ了承して頂きたく存じます。」


「わかった。……だが、この部屋は一体何だ?」


知らないのかと驚いて側妃様を見ると赤い瞳を伏せて少し躊躇う様子が窺えた。


私の憶測でしかない病を患っているのかもしれないし、ただ体調不良で魔力の制御が出来ず垂れ流してしまっているかもしれないから安易に何かを言えるはずもなく、室内には沈黙が流れる。


「言えないようなモノか。」


僅かに強張った声音と鋭く射抜く琥珀に「母を氷漬けにしましたので罰として魔力を限界まで抜くための部屋です」などと言える訳もなく、


「私は居ない者とし御二人でお話くださいませ。」


ふんわりと微笑み丸投げした。


嘆くような縋るような目を向ける側妃様に申し訳ないと困った微笑みを浮かべながら、早速私は居ませんと言う様に寝ている時にしか使わないカーテンの仕切りをアーグに閉めてもらう。


シャッとした音で遮られた此方の空間でアーグとオリヴィアでカードゲームをする事にした。


私は腕を動かすのも一苦労するので見て楽しむだけですが、これも中々良いものです。









 



特殊な氷属性を持つ公爵令嬢のルーナリア様が仕切られた此方側は、重苦しい空気に包まれている。


「………。」


「………。」


スカーレット様もその御子息の第一王子殿下もあまりお話をする方ではないけれど、見るからに病人という姿の御母上にまだ若い殿下が戸惑われているのだと年の功で気付く


しかし侍女が主君等の仲介をしようなどと烏滸がましいことは出来ない。


あぁ、お願いですからルーナリア様、その仕切りを開けてくださいませんか…。


先程天使かと思うほどに可憐で愛らしい姿を見せた儚く美しい令嬢に心の中で祈っていると、


「体調は良いのですか。」


殿下の方から口を開かれた。


「ええ、随分良くなったわ。先程もあちらの二人とカードゲームをしていたのよ。」


「紅髪とあの侍女とですか?」


「二人ともなかなか強いから貴方も今度手合わせ願うと良いわ。」


スカーレット様、何を仰っていらっしゃるのです?


「わかりました。」


わかっちゃうんですか。


何処か気の抜けるような会話をするのに御二人ともお綺麗な顔をされているのに微妙に無表情だから違和感があって笑ってしまいそうになる。


仕切りのあちらから「ちょ、そっちは」「ぁあ?」「喧嘩はだめですよ」なんてほのぼのとした会話がしますけど、まさかカードゲームなんてしてませんよね?このシリアスな場面で、ねえ?信じてますよ公爵令嬢のルーナリア様…!



「お身体が悪くないのなら、良いのです。」


「リアム…」


無表情だけれど声を和らげた殿下と、そんな息子の姿に顔を悲しそうに歪めたスカーレット様。


今年に入り体調を崩されたスカーレット様に心を痛めていらっしゃるのは息子である第一王子殿下と夫である国王陛下。

そして本来ならば敵対関係である、実際はとても仲の良い正妃様とその御子息の第二王子殿下。


この四名と国の宰相、そしてスカーレット様付きの侍女数名しか知らない極秘事情。


突然身体から魔力が漏れ出して体調を崩し、魔力が足らずに寝込み衰弱しやがて死を迎える病を、魔力欠落症と言う。

それは太古の昔より『不治の病』と言われる難病で治すことも何かをすることもできない病。


けれど今、世紀の鬼才と謳われる王国魔力研究所の所長、ナリス・サンディア様の神をも思わせる御技のお陰でどうにか延命をと希望を持てた。


近代で、いや、歴史上でも上位に値するほどの高魔力保持者、ルーナリア・アクタルノ公爵令嬢様がいらっしゃるのなら


ずっと、スカーレット様は魔力を供給出来る。

死に至らず、ずっとお傍に居られる。


バルロイズに頼らずともこの国の技術で助かる。



「ごめんなさい、リアム。」


「何を謝っていらっしゃるのですか、母上。」


けれどスカーレット様は悲しそうに目を伏せて、自身の腹を痛めて産んだ愛おしい息子の手を包む。


美しくもどこか切ない親子の姿。



お優しいスカーレット様。


貴女は側妃なのです。

国王陛下の妃なのですよ。


一人の国民より、貴女の御命の方が何倍も何億倍も尊く大切なのです。



ですから、どうか、どうか。



「ごめんなさい―――」



悲しい御顔をされないでください。





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