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初めての王都と護衛


翌日、私はフランさんやノーマンさん、使用人達に見送られ馬車に乗り領地から王都へ出発した。


思うのだけれど、私が領地から出るのは初めてなのです。もっと言うと屋敷の外に出たのも初めてですわ


どんだけ箱入り娘なのって思います。

箱入り娘と言うよりも籠の中の鳥ですわね。軟禁みたいな感じですけれど…



「まぁ、はたけをたがやしていらっしゃるのね。」


「お嬢様、あまり身を乗り出されないようにしてくださいな。危ないですわ。」



サーナに窘められ浮かしていた腰を下ろし顔だけを外に向け領民の方々の姿を見て思います。


本当は私にはああやって自分の体を動かすのが合っているのではないかと。


記憶では教師でした。体を動かし心を動かし声を上げ、人と人との絆を見守り、時には言葉を掛ける。


大変で、素晴らしいこと。




「………。」




私は籠の中の鳥


自由に空を飛べない、翼のない鳥




「とんでみたいわ、いつか…」



溢れた言葉に私は嘲笑い、外から目を背けた。



「お嬢様は水属性ですから空を飛ぶのは難しいかと思いますけれど…」


「ふふ、そうですわよね。たかのぞみですわ」



私はそれきり、まだ途中の刺繍をして着くのを待ちました。




王都へは領地と王都の中間の街で一晩宿に泊まり、朝早くに出て夕方頃に王都の中に入ることが出来ました。



初めて見る街並みは興味深いものばかりで、それでも私は馬車を降りる事はなく馬車に乗ったまま。


刺繍を止め外を眺めていると、何やら怒鳴り声が聞こえてきました。



「テメェ待ちやがれーッ!!!! 盗んだもん返せッ!!!! おい警備員!アイツだよ!アイツ、赤鼠だ!!」


「またか……さすがは“赤鼠”、もう見えねぇ…」


「感心してる場合かよ!!これで何度目だ!!」



お店の店主らしき方と鎧を着た警備員の方の話を聞く限り、常連の盗人、みたいな感じですかね?


“赤鼠”だなんて…、赤いのかしら?


そんなことを考えながら前に座る上機嫌なサーナに声をかける



「おやしきへはあとどれくらい?」


「もうしばらくですよ。」


「…そう。」



嬉しそうなサーナから目をそらし、私はまた外へ目を向けた。




平民街を抜ければ貴族街に入り、先程まで聞こえていた人々の喧騒が聞こえなくなりました。


貴族街をかなり進みお城が見えて来て、そこで馬車は停まった。



「まあ…りっぱなおやしきですわね。」


「王都でこれだけ大きな屋敷を持つなど、本当に凄いことなんですよ。」



嬉しそうに言うサーナに当たり障りのない返事をし、私達を出迎えてくれた父の従者達に従い屋敷の中に入りました。



そこまで領地と変わらない造りの屋敷だと言うことで案内はなく、私は父がいるという書斎へ連れて行かれました。


初めての外出と旅で疲れている幼い子供に少しの休憩も与えないところが下衆ですわね。



そんなことを考えながら大人しく案内役の執事の後ろを付いて行っていると、歩いたまま執事は私に声をかけてきました。



「お嬢様、この屋敷で執事を務めております、マーカスで御座います。お嬢様が此方にいらっしゃる間はこのマーカスに何なりとお申し付け下さい。」


「よろしくおねがいしますね。」


「…はい。」



足を止め微笑みながら言うとマーカスは少し驚いた顔をした後、すぐに穏やかな微笑みを浮かべ完璧な動作で礼をした。



さすが“氷の公爵”が雇われるだけあって20歳そこそこであっても動作は完璧ですわ。“動作”は。


今の間は“子供らしくない可愛げの無い金持ちのガキ”という感じかしら。


そもそも挨拶を歩きながらするなんて舐めていることが丸わかりよ。



私は6歳にしては頭が良いし愛想も良い。だからこそ頭のキレる者は“神童”と思うか“不気味”と思うかのどちらかだろうと認識しています。


私からしたらこんなにも愛らしく可愛らしい子供はいないと思うのですけれど…。



そうこうしてる内に書斎に着いて、マーカスが声をかけ扉を開けて私とサーナを中へと促す


私は少し深呼吸をしてからいつもの微笑みを浮かべて中に入り一礼して顔を上げます



そこにはいつ見ても変わらない無表情のお父様と、10代前半くらいの少年がいました。


よくわからないけれど挨拶をします



「おひさしぶりでございます、おとうさま。おからだにおかわりないようでなによりですわ。」


「あぁ。…ケルトル、私の娘のルーナリアだ。」


「とても愛らしい娘さまですね。」



……私への言葉は“あぁ”だけですのね。



お父様は少年へ目を向け、少年はお父様に愛想良くしています。


何なのでしょう、この少年は…。



ブラウンの髪に濃い茶色の瞳


将来、多くのご令嬢の目の保養になりそうな端整なお顔と服の上からでもわかる引き締まった身体と、その腰にある剣


あの鞘に刻まれた紋章は確か…


見覚えのある紋章に記憶を探っていると、ケルトルと呼ばれた少年は私へ礼をし貴族の挨拶をしてきました。



「お初にお目にかかります、ルーナリア嬢。私はマーテム伯爵家が次男、ケルトルと申します。」


「まぁ、ありがとうございます。わたくしはアクタルノこうしゃくけがちょうじょ、ルーナリアともうします。」



ワンピースの太腿辺りを軽く摘み持ち上げ膝を軽く曲げカーテシーをしますと、ケルトル少年は驚いた様子で私を見ていました。



言葉遣いは拙いですけれど、所作が完璧なんて6歳児でそれは驚くでしょう



お父様も少し驚いていらっしゃるもの。その顔を見て私は嬉しくなりました。だって、私を見てくださっているんですよ?初めてですわ。


ニコニコと嬉しさを隠すことなく微笑んでいると、先に気を取り直されたのはお父様



「ルーナリア、今日からケルトルがお前の護衛をする。」


「…わかりました。ケルトルさま、よろしくおねがいいたしますね。」


「あ、は、はい!よろしくお願いします。」



拒否をしても受け入れられるはずもないのだから無駄なことはしません。


きっとこの人は監視なのでしょう。


お父様は何を考えているのかしら。私はちゃんとお父様の言う通りに勉学も礼儀作法もしているのに…



そんなに感情を持つ“道具”は気になりますの?




「はじめてのがいしゅつでつかれましたの。ゆうしょくまでへやにいますわ。」


「そうか。ケルトル、行くといい。」


「はい。お嬢様、僕が案内しますよ。」



微笑み私をエスコートしようと手を差し伸べてきた少年の手に軽く手を乗せ、お父様に礼をした後すぐに部屋を出ました。


部屋を出てすぐに手を離すと、少し驚いた顔をして私を見た少年に微笑む



「おとこのひととおはなしをするの、はじめてですの。ですからあまりすきんしっぷはやめていただけますか?」


「あ、はい。…お嬢様はとても愛されているんですね。こんなに可愛かったら公爵も心配でしょう」


「まあ。」



お上手ね、とは言わず頬に手を当て微笑んだ。可愛いと言われて嬉しくなくはないもの。



少年に部屋まで案内してもらう間、簡単にサーナを紹介した後は適当な世間話


ケルトル少年は13歳で中等部1年生の騎士科とのこと。今は実習期間としてアクタルノ公爵家に来ているのだそう


中等部1年生の騎士科では必ずトップなのだと自慢気に話されるのを煽てて今度剣技を見せてと社交辞令を言っておきます。


気分良くされたのかとても上機嫌な少年にただ微笑んでいるとやっと部屋につきました。



そこは、まるで牢のよう


三階の1番端の広いお部屋は質素と言うに相応しく、地味な色合いと飾り気のない家具。

領地のお屋敷の私の部屋と比べるとあまりにも貴族令嬢の部屋にはあるまじきお部屋。


隣のケルトル少年が驚いているのを耳にしながらサーナを見上げると、サーナは私に優しく微笑むだけ



「…サーナ、にもつをおねがいします。ケルトルさまはわたくしとおはなしいたしましょう?」


「畏まりました、お嬢様。」


「あ、はい…、」


部屋を出たサーナを見送り私は呆然としているケルトル少年を部屋に置かれたソファへ促します



最低限のものがあるだけの部屋は思ったよりも良いですわねぇ

領地の私の部屋もこうしようかしら…


そんなことを考えていると呆然と座っていたケルトル少年が急に立ち上がり私へ詰め寄ってきました。



「これはどういうことなのですか!?御令嬢の部屋と言うにはあまりにも…、その、」


「しっそ、ですわね。」



言い辛そうなケルトル少年に微笑みながら私が続きを言って差し上げると、驚いた顔をしたあと悲痛な顔をされて私が少し驚いてしまいました。



お父様は賢い人しか取り込まないと思っていましたが…純粋な人も使うのですね。


それかこの少年が純粋だけどとても優秀なのか。



「ルーナリアお嬢様…、」


「かなしいおかおをされないで?おへやをくださるだけでありがたいわ。それに……」


「……それに?」



私は部屋を見渡し確認すると、とっても良い笑顔を浮かべたと思います。



「こんなにたくさんの“ぬの”をつかえるなんて…、とってもうれしいわぁ」



この部屋には柄がない。色も少ない。


何もないこの場所を私が彩ることができるなんて…こんなに胸が踊るのはお菓子作りや刺繍をしている時くらいですわ




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